お揃い、少年と少女の生き方
7月3日
「さてと! ライブが明日に迫ったからこれから飲み会するぞー! 行きたい奴集まれー!」
とうとう明日がライブの日となってしまった。準備は整ったし、メンバー間の意思疎通も出来ている。宣伝効果も現れて、きっと会場は多くの人で集まるだろう。
そんな中、静司先輩の提案で前夜祭なるものが開催されることになった。流石に全員は難しいと思われるが、意外にも参加者は多い。
「私行くよ~。みんなで買い出し行こ!」
「あ! そしたら私手伝います!」
「おけおけ~。折角なんだから盛大に楽しんじゃうよ!」
音琶や結羽歌、琴実は勿論......と言うより2年生は全員参加するそうだ。先輩達は響先輩と利華先輩以外は参加で、飲みの指揮は静司先輩が執るらしい。まあ、変なゲームとかするわけじゃないから、喋りたい奴と好きなように喋って飲んだり食ったりするだけの飲み会だろう。
好きな時間に帰っても良し、潰れない程度に飲んで明日に備えられればそれで良し。何も心配することのない、平和な飲み会が幕を開けるであった。
・・・・・・・・・
「ねえ夏音、緊張してる?」
「あ? なんでだよ」
「いつも以上に表情が険しいのと、いつも以上に無口だからさ」
「いつものことに以上も以下もあるかよ」
「折角の飲み会なんだから、色んな人と話せるチャンスだよ?」
「もう充分話してきたからな、あまり気にしてねえよ」
「ふ~ん」
飲み会が始まり2時間弱が経過、ジュースが入った紙コップを片手に音琶が寄ってきた。
「お前酒は飲まねえのかよ」
「うん......。多分......じゃなくてもう飲めないかな」
「そうか」
呼吸困難から身を守るためにも、もう音琶は酒を飲まないと決めたんだな。いや、飲まないのではなく、飲めない、が正しいのかもしれない。
周りから見えている以上に音琶の身体はボロボロになっているのだし、少しでも身体の負担になるようなものを摂取したら、二度と動けなくなってしまうかもしれない。
本来ならギターも全力で弾けないはずなのに、音琶は叶えたい願いのために地獄を乗り越えているのだ。体温だって下がっているし、以前より深呼吸をしている場面を頻繁に見るようにもなった。
いよいよその時が来ている、と思うと俺も気が気でなくなるが、音琶の夢のためなら今はまだ耐えなければならないと感じている。ライブが迫っていることも含め、音琶との今後を考えていると緊張は拭えない。
「飲めないのは、私も夏音も一緒だよ。お揃いだね!」
「......」
どんな下らないことでも俺との共通点を見つけ出しては喜んでるよなこいつ。そんなに俺と同じなのが嬉しいか? いや、好きな人となら嬉しいに決まっているか......。
「......別に、あんなもの飲めなくたって、困ることはねえよ。あいつらを見てみろよ」
「えっと......?」
向かいのテーブルを指さし、音琶に注目を集めさせる。そこでは結羽歌と琴実が2人抱き合いながら互いを励まし合っている、という何とも奇天烈な景色が浮かび上がっていた。
ベーシストのライバル同士ということで、負けたくないという気持ちと高め合いたいという気持ちが酒のせいで露わになって思いも寄らぬ行動に出てしまっているのだ。俺はこんな人間にはなりたくないがな。
「あはは......。相変わらずだね」
「普通にいつも通りの会話をするだけでも、充分楽しいだろ」
「うん、夏音とだから、楽しいって感じられるよ」
「......」
全く、出逢った頃と何も変わってねえなこいつは。何度俺の調子を狂わせたら気が済むのだか。
「明日......、お前の願いを叶えてやるよ」
「夏音......」
不意に出た言葉を出すことで、今度は俺が音琶の調子を狂わせる。
それでも、音琶ははにかみながら俺を見つめ、名前を呼んでくれる。
「叶ったあとも、ずっと一緒に居たいな」
「......!」
そして、諦めたくない強い想いが、俺の心の闇を晴らしてくれる。
「願いが叶っても、それがゴールじゃないってこと、忘れちゃだめだよ?」
最高のバンドを組みたい、それが音琶の願い。
もうじき、短い生涯を終えるという残酷な運命を辿ってでも、生きることを決して諦めずに、夢に向かって走り続ける。
それが、上川音琶という、たった1人の少女の生き方なのだ。
「当たり前だ、お前との約束を俺は忘れたりしねえよ」
大切な人を守りたい。大切な人と隣で生きていきたい。
もうじき、大切な人が居なくなってしまうかもしれない。それでも俺は、何度だって守り抜く。
それが俺、滝上夏音という、たった1人の少年の生き方なのである。




