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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第36章
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忙悩、勉強の意

 6月25日


「は~っ! やっと終わったーっ! 今日は飲むぞー!」


 テストが終わり、教室から出ると日高が伸びながら威勢の良い声を出していた。余程手応えがあったのだろうか、その表情には達成感が......そこまでは感じられなかった。


「随分と元気なようで」

「ああ、ようやく解放されたからな。昨日は本当に疲れたからさ」

「その言葉、そっくりそのまま返してやろうか?」

「あ、いや......すまん」


 多分俺の方が疲れているぞ日高よ......。一度に3人も教える立場を考えてみろ、全員が落ちこぼれ(流石にそれは言い過ぎかもな)で単位が取れているのかどうかすら危うい状況、本筋から逸れて突如始まる雑談、単位がやばいことに対して抱いていない危機感、等々。

 たった一晩でこんなに疲れたのは久しぶりだ、もう少し勉強に対する努力をしてくれ......。


「滝上から教えてもらった所は出来たんだけど、それ以外はさっぱりで......」

「ああ......。まあ想定内だ」

「だからさ、期末では本気出す」

「......」


 え何? 明日から本気出す的なこと言って、その明日がいつになっても来ないとかいうフラグ立ってる? 今回だけじゃなくて期末近くなると毎日日高達に勉強教えなきゃいけなくなるってか?

 いやいや冗談だろ? 自分の勉強は自分で片付けろよ、俺だって暇じゃねえんだが。


「一つ聞きたいんだが」

「何だ?」

「何問くらい書けたんだ?」

「全体の4割くらいは自信あるぞ」

「......」


 この疫病神め。


 ・・・・・・・・・


「「「乾杯~!!」」」


 乾いたグラスの音が響き渡る。グラスの飲み物を勢いよく飲み干し、テーブルの上に置くクラスメイトの姿を俺はどんな目で見ているのだろうか。


「随分と威勢が良いのね」

「ヤケクソになってんだよ」


 レモンサワーを飲む日高の姿を見た制服姿の琴実が、呆れ顔で俺に問いかけた。

 何だかんだあって、テストの達成感(?)に浸りたい日高をGothicに連れてきた。勿論結羽歌と立川もいるし、音琶だってついてきた。

 まあ、音琶を部屋に1人にはしたくないし、折角Gothicに行くのなら音琶を連れて行かないと俺だって寂しい。


「何があったのよ全く。日高と千弦はここに来るの初めてよね?」

「そうだよな......。まあ簡単に言うと......」


 渋々ながらもテストの話を琴実に説明する。そのたびに琴実は相づちを打ったり質問をしてきたりと......、何だかんだでスムーズに話が出来た。

 こいつ、性格の割には結構人の話聞くよな。


「あんた、サークルだけじゃなくて他にも色々大変なのね」

「まあな」

「でも私、夏音には勉強教えてもらいたいかも」

「......は?」


 こいつもかよ。全く、どうしてこうも音楽やってる奴は勉強面に大きな問題を抱えやすいのか......。第一俺と琴実はクラスが違うから受ける講義も違うだろ。俺に教えることなんてあるのだろうか。


「あ! 別に単位が危ないってわけじゃなくてね。私院進したいから、GPA稼がないと色々まずいのよ」

「お前が院進ね......。想定の範囲外すぎるな」

「何よ失礼ね。私だって明確な目標があるのよ」

「目標ってのは、音楽やってても頭良い奴は居るってことを証明することか?」

「なわけないでしょ!? もっと真面目なことよ!?」

「ああ、まあそうだよな」

「全く、私のこと何だと思ってるのよ......」


 茶化すつもりだったのだが、琴実は至って真面目らしい。悪いことをしたとは思うが、まずは話を聞くことから始めるとするか。


「どんな目標があるんだよ」

「そうね......。この際だから話してしまおうかしらね」


 そう言いながら琴実は話し出した。隣で音琶も興味津々で耳を傾けている。


「私の実家ね、旅館なのよ。私一人っ子だから、両親からは引き継げって言われてるわけ」


 なるほどね、大体背景が掴めてきた。まず夏休みに海行った時に、わざわざ結羽歌の家に行ったり、俺と音琶を送ったり、少しでも家に居る時間を減らそうとしていたってことか。

 恐らく両親とは上手く行ってないのだろう。結羽歌と海に行く約束をしていなかったら、帰省すらしてなかったんじゃないだろうか。


「でも私は、自分の好きなことをしたいのよ。誰かに自分の将来を決められるのが嫌だったし、自分のやりたいことを極めたいって思ってた。折角鳴大に受かったんだから、院進して良い職に就きたいって思ってる」

「......」

「確かに私が継がなかったらあの旅館は近いうちに無くなっちゃうかもしれない。でも、そんなの私には関係無い話よ」


 まあそうだよな。琴実の親は家のことを考えての上で琴実を育てたのかもしれないが、琴実には琴実のやりたいこと、なりたいものがある。

 なら、琴実は自分の気持ちを貫くべきだろう。


「今年の夏休み、帰省する時に話し合ってみたらどうだ?」


 俺が出来る助言はそれくらいだろう。それで琴実が納得してくれるのなら良いのだが......。


「そうね、去年はただご飯作ってもらうだけだったし......、ちょっとくらい踏み込んでもいいかもしれないわね」


 どうするかは琴実の自由だ。だけど、俺の助言によって何かを掴めたようにも見えた。


「ありがと、夏休み頑張ってみるわよ。それで、あんた何飲むのよ?」

「コーラで」

「はいはいコーラね。ちょっと待ってて」


 さて、何時まで飲むことになるのだろうか。明日も講義があるんだし、出来れば早めに店を出たい。

 まだ入ったばかりだし、そう簡単には解放されないだろう。日高や琴実の愚痴とやらを聞いて助言でもしておくか。

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