本分、勉強が第一
6月24日
音琶は家族と再会した。血は繋がっていなくても、固く強い絆で繋がっている。そんな人と再会できた。
父親はバンド活動でまだまだ忙しいのだろう、もしかしたら最後まで会うことは叶わないかもしれない。いや、流石に自分の娘が最期を迎える前には顔を見せてくるだろう。
俺が憧れたバンドマンが、音琶のことを大切に思っていないわけがない。音琶の生活費を稼ぐためにわざわざ離れて活動しているのだから、音琶のことを何よりも考えているに違いない。
もしかしたら来週のライブだって音琶が声を掛けているかもしれないのだし、娘の勇姿を見るためにも会いに来てくれると俺は信じている。
家族が居なかった俺は、大切な人の家族について探っていた。
俺は家族が欲しかった。本当の愛を注いでくれて、ちゃんと血のつながりが証明できて、本音で語り合えるような、そんな家族が欲しかった。
現実は正反対だった。俺のことなんて邪魔者としか思っていない癖して、口では『大切』だと言い張る嘘つき野郎共。ほとんどの時間を一人にさせといて謝罪の一つも寄越さない。俺が一人暮らしを始めるタイミングで打ち明ける真実。
何もかも全てが嘘で塗り固められていて、生きていくために綺麗事を並べていただけの親擬き。俺が居なくなってさぞ清々したことだろうな。
所詮俺は、あいつらにとっての紛い物でしかなかったんだからよ。
・・・・・・・・・
音琶が義母親と再会して一夜が明けた。俺と音琶の日常が変わった所で、周りの奴らにとっては何一つ変わることのない平凡な日々。そんな日々を幸せと思えるかは、そいつらの感じ方次第だ。
そんな中......、
「なあ滝上ー、明日の小テスト自信あるか?」
「......ああ、そう言えば」
明日の講義は何回かある小テストと最後の試験で単位が決まるやつだったな。最近はバンドや音琶のことで講義に対する姿勢が疎かになりつつあったから、日高に言われてなかったら忘れていた所だった。
「今回の範囲広すぎないか? 正直あんま自信ないんだよねー俺」
「まあ、どうにかなるだろ」
「滝上は余裕そうだな」
「いや、そうでもない」
余裕なんて全くない。ただでさえ精一杯なのに、講義のことなんて考えるだけで頭が痛くなりそうだ。学生の本分は勉強なのに、大事なものが何なのかを見失いつつある俺だった。
「なあ、久しぶりに4人で勉強会してくんない? もう1日しかないけどさ」
「この面子だと開始3秒で勉強から脱線しそうだな」
「その時はその時で」
「お前なあ......」
不安しか感じないが、ここまで懇願するのだから受け入れるしかないか......。
残りの2人はちゃんと勉強出来ているのかと言うと......、
「千弦ちゃん......、明日のテスト範囲、全然わかんないよぅ......。この前のも、その前のも、あんまり良くなかったし......」
「だ、大丈夫。私も全然わかんないから! ダメだったら一緒に追試頑張ろ!」
案の定、出来ているわけがなかった。
「なあなあ、2人も苦戦しているみたいだし、今日だけでも教えてくれね?」
「今日しかねえだろもう」
「そこを何とか!」
「別にダメとは言ってねえだろ」
「あ、そうだったな」
もうダメだこいつら。
「全員の授業が終わったら俺の家来い。音琶も居るし、勉強以外にも話すことあるだろ?」
「まあ、そうだよな。もうすぐなんだし、本番のこと少しでも話し合えたらいいな、とは思ってたよ」
「これで脱線は確定か......」
「何か言ったか?」
「いや、なんでも」
今日は部屋に戻ったら日付が変わるまで雑談大会になりそうだな。
そして後期が始まったら追試対策が始まるんだろう、勿論俺が3人に教える形で。




