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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第36章
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告げられる真実

 6月23日


 昨日は夏音がバイトだったけど、今日は私がバイトの日。授業が終わったらそのままXYLOに向かって仕事に入る。


 もうこのバイトともあと何回かの付き合いだけど、身体が言うことを聞いてくれる間はなるべく長く続けたい。だって、あそこは私が外の世界に出られるようになったきっかけの一つなんだから......。


「あのステージ、立ちたいな......」


 そう、私はまだ、自分のバイト先のステージで演奏したことがない。何度もライブをさせる側にはついているけど、する側についたことは一度も無い。

 和兄は何度か立ったことがあるし、響先輩達のバンドだって......。


 私、大学の体育館だけで満足なんか出来ない......。

 もっと色んな所で演奏して、色んな人に私の姿を目に焼き付けてもらいたい。


「......」


 心残りがいっぱいだな......。このまま死んじゃったら、後悔しか残んないかも。




 機材のメンテをしたり、スタジオ予約の確認をしたり、ホールの清掃をしたり、平日の仕事と言えばこんな感じ......。

 やっぱりライブが無い日の仕事は、ちょっとだけ退屈で、どこか寂しい。


 機材の扱いにもすっかり慣れちゃったし、ライブ以外では私に出来ない仕事なんてない。今日だって、最後の予約の人が帰ったら私も夏音の元に帰るだけ。

 普通の人なら、何も変わらないありふれた日常でしかない。退屈かもしれない仕事も、たまに忙しい休日も、私以外の人からしたら、当たり前で平凡な日々......。

 私が求めていたものがどんなものだったのか。1日1日を過ごしていく内に、どんどん鮮明になっていくな......。


 ・・・・・・・・・


「音琶、今日もお疲れ様。ほら、これご褒美」

「あっ! ありがとうございます!」


 オーナーの洋美さんから缶ジュースを受け取り、その場で空けて一気に飲み干す。疲れていた身体にジュースの甘味が染み渡っていく......。美味しい......。


「ねえ音琶。まだ時間大丈夫?」

「えっ?」


 ジュースを飲み終えたその時、洋美さんがいつもより低い声で問いかけてきた。今まで平日のバイトは終わった後直帰だったのに、今日に限っては何か用事があるのかな?

 声のトーンが低かったから、大事な話でも......?


「大丈夫、ですけど......」

「そっか」

「......?」


 確かに洋美さんは、私の事情を知っている。病気のことも家族のことも、ほとんど和兄が話してくれたから知っているようなもんだけど、私の秘密についてはほとんど知っている。

 だから、私がもうすぐ死んじゃうかもしれないことも......、きっと把握しているはず。


「実は私さ、音琶にずっと隠していたこと、あったんだよ」

「えっ......?」

「和琶からは音琶の事情を良く聞いていたし、音琶が初めてここに来たときから、和琶は音琶のことをすごい心配していたよね」

「はい......。私がバイトするって言ったとき、和兄はすごく驚いていましたし......」

「和琶のやつ、本当に妹のこと、大切に思っていたんだよね」

「はい......」


 和兄は少し心配性な所があった。毎日気に掛けてくれて、まともに学校に行けなくなった私をどうにかしようと頑張っていた。



「でも私ね、和琶が言わなくても、音琶の事情は全部知っていたよ」



 えっ......? それってどういうこと......?

 洋美さんは和兄が説明したから私の事情を知ったんじゃないの? 今の言い方だと最初から全部知っていたみたいな感じに聞こえるんだけど......?


「どういうこと、ですか?」


 思わず聞き返しちゃう。前々から洋美さんはどこか不思議な雰囲気は纏っていた。でも、それは私が勝手に思い込んでいただけのことでで、今は雇ってくれた恩人としか思っていない。



「和琶が言う前に、音琶のことは全部知っていたから。病気のことも、父親のことも、お母さんのことだって......」



 どういうこと......? なんで和兄に聞く前から私のこと知ってたの?


「私があんたのこと知っているのはね、私が和琶の本当の母親だからなんだよ」

「洋美さん......? それって一体......」


 洋美さんが和兄の母親? お父さんからは和兄のお母さんの話はまだ聞いてなかったけど、言わなかったんじゃなくて、言えなかったからってこと?

 もし本当に洋美さんが和兄のお母さんなら、私は和兄とは腹違いの浮気相手の子供だから、洋美さんからしたら私は邪魔者でしかない......?


 いやでも、初めてバイトした時から可愛がってもらってたし、私のこともきっと大切だって思ってくれてるよね......?


「戸籍上はね、音琶は私の義理の娘なんだよ」


 突然打ち明けられた真実に、身体が強張る。

 何を言えば良いのかわかんなくて、今はただ''怖い''という感情しか出てこない。


 何か隠しているとは思っていた。でも、まさかこんな重いことだとは思っていなかった。最後の最後まで何が起こるかはわからないって言うけど、ここまでのことが起こるとまでは信じていない。


 本当に私、生まれてきて良かったのかな......? これから洋美さんに告げられる言葉も、想像を絶するものだったりするんじゃないかな......?


 逃げ出したいけど、身体が上手に動いてくれない。残酷すぎる真実なんて、私ももう嫌だよ......?

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