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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第36章
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認めない、それは誰もが......

 6月20日


 ライブまであと2週間。覚悟を決めて毎日を過ごさないと、想定内の事態にも対処出来なくなりそうだな。

 最高を限界突破するとかいう音琶の迷言も飛び出したことだし、言葉以上の実力を発揮しないといけないことは分かっている。

 俺に出来ることはわかっているからこそ、簡単そうで難しい最高のバンドを求め続けなければいけない。音琶が求めているのは、初めて会った時の俺の演奏を取り戻すことだ。あれを見ていなければ、俺は音琶のことを大切な人と認定することは出来なかった。俺に欠けているモノ、俺にとって手放してはいけないモノが何なのかを教えてくれた。


 大切な人を失う前に、取り戻すべきモノを形にしないと、取り返しの付かないことになってしまう。

 失いたくないからこそ、俺がどうにかしないといけないのだ。


 ・・・・・・・・・


 土曜恒例のバイトの日。出勤前に部室でPAの確認を取ったのは別の話として、義理の娘の最期の勇姿になるかもしれないライブが控えているのだから、当日はオーナーも見に来てくれることを期待している。

 結局最後の最後まで音琶には真実を伝えないつもりなのだろうか。義理とはいえ家族の話はしておいた方が音琶のためでもあると思うが、本人の意思次第では知らないまま最期を迎えることになってしまう。


 音琶は知った所で満足するのだろうか。オーナーは言うことで満足出来るのだろうか。

 自分とは関係無い話のようで関係があって、俺としてもどうしたらいいのか分からない状況には落とされている。

 そんな時......、


「夏音、ちょっとこっち」

「......はい?」


 本番までは時間があるからなんだろうけど、突如オーナーが手招きしながら空いてる控え室に呼び出してきた。


「突然何ですか」

「まあ、色々とね」

「......」


 部屋の電気を付け、誰も居ないことを確認してオーナーは扉を閉める。

 何ですかね、これから年上女性とのナ二かが始まるんですかね。生憎俺には音琶という胸のでかい可愛い彼女がいらっしゃるから、あんたのような年齢不詳の女性には興味が無いのであってだな......。


「音琶は、どうなの?」


 下心は置いといて......、義理の娘でも大人の女ってのは心配に思うのだろうな。


「どう、とは?」

「元気でやれてる?」

「......そんなの、オーナーも毎週数回は会ってるんですし、元気かどうかは分かるんじゃないですか?」

「そうだけど、音琶はもうすぐ......」

「......わかってますよ」


 ああ、そうだよ。俺はもうすぐ音琶と永遠に別れることになってしまう......のかもしれない。信じたくないけどな。

 残酷な真実を認めるべきなのか、これから起こることを否定するべきなのか、どっちを選ぶかは決めている。

 そりゃ俺だって、これから音琶と共にバンドを組み続けて、ずっと一緒に過ごしていきたいと思っている。病気なんて関係ないと言えるくらいには、な。


 だけど、現実は甘くない。ということも認めてはいる。


「夏音はさ、次のライブで最後だって思ってる?」

「......」


 この人が何を言いたいのかは分からないけどな、質問の答えなんて決まっているさ。


「......思いたくないですよ」


 思っているでも、思っていないでもなく、思いたくない。

 二十歳が限界、とは言われているらしい。だが、最高のバンドが限界突破出来るなら、残された時間だって限界突破出来るはずだ。

 未来がどうなるかなんて誰にもわからないが、可能性を信じることくらいなら誰にだって出来る。だから俺は、音琶の''可能性''を信じている。


「やっぱり私も、音琶が居なくなる直前にホントのこと、教えておかないとね」

「言うんですね」

「旭のためにも、ね。それに、血は繋がってなくても、音琶は私の娘なんだからさ。もう一人のためにも、ね」

「......もう一人?」

「あー......、これも言ってなかったね」

「......?」


 何なんだよ、それ。言ってなかったって、あいつもオーナーも、秘密だらけの存在じゃねえかよ。

 一体音琶って何なんだよ。言ってなかったことって何なんだよ。



「音琶は双子だったんだけど、音琶の産みのお母さんは、2人目を産む前に死んだって、旭から聞いたんだよ」

「は......?」

「私も離婚した後だったから聞くのが遅くなったんだけどね、2人目の方も母親が死んだと同時に降ろしたって、旭が言ってたんだよ」

「......」


 何なんだよ、ソレ。


「音琶も知らないことだし、旭も黙っていて欲しいって言ってたから」

「......」


 分からない。俺は音琶が、分からない。

 いや、オーナーの方が分からないか? いくら迫っているとは言え、ライブ直前に知るような話なのだろうか。

 

「あ、こんなこと、夏音に言うべきじゃなかったよね。忘れなくてもいいけど、今はまだ出来ないことだから......」


 だったら何で俺に言うんだよ。音琶に直接言えば早いだろうが。


「それに私、音琶はまだ生きられるって信じてるから。あの子が死ぬまでには、全部伝えられる自信くらいは持ってるよ」


 ああもう訳分かんねえ。

 義理の娘の死期が近づいているからって矛盾を孕んだことばっか言ってんじゃねえよこの野郎。

 俺だって認めたくねえし、毎日毎日期日が来るだけで怖くて仕方ねえんだよクソが。


 辛いのはあんただけじゃねえんだよ。

 俺だって......、

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