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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第36章
533/572

1年前、それぞれの約束

 ◈◈◈


 一波乱あったけど、無事に撮影は終わって、あとは練習を積み重ねて本番を迎えるだけになった。

 結局、夏音君がどうしてあんなに写真を嫌がっていたのかは分からなかったけど、夏音君にも人には言いたくない何かがあったのかもしれないし、今回の件は良い形で片付いたから、私はそれで大丈夫かな?


 実は私にも、本番前に頼んでおきたいことがあって......、


「何? ライブ中動画撮って欲しい?」

「うん......」

「別にいいけど、どうしていきなり?」

「実は......」


 スタジオが終わった後、私は琴実ちゃんと駅前のモールで買物をしていた。楽器は勿論だけど、暑くなってきたから新しい服でも買おうかな、なんて思っていたら琴実ちゃんも着いていくことになって......。

 今回のお願いはLINEででも良かったんだけど、折角だから直接伝えることにした。


「実羽歌に私の演奏動画、見せたいんだ」


 妹との約束は、去年からずっと果たされていない。私が途中でサークルを辞めたから時間がだいぶ延びちゃったけど、ベースは辞めなかった。

 実羽歌は私が軽音部を辞めて音同に入ったことを知らない。実羽歌はまだ、私が軽音部に入っていると思っている。

 辞めたことを言うかどうかはともかく、姉の私が今も元気にベースを弾いているということを伝えたい。実羽歌にも、私の演奏に興味を持って欲しい。もっともっと、私のことを好きになって欲しい。


 だから私は、大事な妹との約束を果たさないといけないんだ。


「そう、実羽歌にね......」


 遠くを見つめるように琴実ちゃんは呟く。真っ直ぐ斜め上の方向を見ているけど、その目は何を感じているのかな......?

 琴実ちゃんも、私と方向性は違うけど何か思うことがあるのかな?


「良いわよ、撮ってあげる。ってか実羽歌は直接来ないの?」

「部活の大会が近いみたいで......。あとお小遣いピンチみたい......」

「そっか、そしたら動画で精一杯伝えるしかないわね」

「うん......!」


 優しく微笑みながら琴実ちゃんは言った。圧はかかるけど、実羽歌のためにも自分のためにも、そしてサークルのためにも頑張んなきゃ......!


「あ、実羽歌で思い出したんだけど......」

「うん?」


 突然、琴実ちゃんが何かを思い出したみたいで、早足でお店を出て行こうとしていた。慌てて私もついていって、琴実ちゃんの後を追いかけていった。


 ・・・・・・・・・


「琴実ちゃん.......。これって......」

「私もあんたと約束したこと思い出してさ。もうすぐ海の季節だし、そろそろ準備してもいいと思ったのよ」

「えぇっと......、まだ早いんじゃないかな......」


 何の前振りもなく連れられた先は、水着売場だった。

 そう言えば去年、琴実ちゃんと次の夏はビキニで海に行く。みたいなこと話したような......。


「そんなことないわよ。テストの日程次第だけど、あと1ヶ月半前後で夏休みじゃない。今年もまた実羽歌と海行くんでしょ?」

「うん、一応そのつもりだけど......」

「だったらいいじゃないのよ。私、ちょっと胸大きくなったみたいで去年のサイズだと合わないのよ」

「......」


 去年より大きくなった......。


 私には無縁の言葉かな......。測ってはいないけど、見た感じだと去年からほとんど成長していない、と思う......。去年着たワンピースタイプの水着でも問題ないかな......。

 第一ビキニなんて......、恥ずかしいよ......。ワンピより胸無いのがわかりやすいし、おへそ出てるし、なんか色々抵抗しか感じられない......。


「や、やっぱり、去年の話、無かったことに出来ない、かな......?」

「えぇ......。てか結羽歌顔真っ赤」

「うぅ......」


 目の前に拡がる、陳列した水着。どれを見ても、私に似合うものがほとんどなくて、こんな貧相な身体でビキニ着ている自分を想像すると、情けなくて消えてしまいたくなっちゃう。


「そしたら、私からも提案あるんだけど」

「な、何......?」

「別にビキニ着たくないんだったら、着なくていいわよ。その代わり、私もライブの動画は撮らないってことで」

「えっ......」


 着たくなかったら、着なくていい。でも、その代償は大きい。

 もし私が琴実ちゃんにお願いしてなかったら、こんなことにはならなかった。ううん、そもそもお願いするタイミングを間違っていた。

 時間を巻き戻したいけど、そんなことは出来ない。


 実羽歌との約束を犠牲にしてまで......ううん、琴実ちゃんがダメなら千弦ちゃんにお願いすることだって出来る。

 でも、それで全てが丸く収るのかな? 千弦ちゃんを選ぶことは簡単にできるけど、琴実ちゃんは納得してくれるのかな?


「どうするかはあんたの自由よ。それに、撮影係は私一人だけじゃないんだし、どっちみちあんたの願いは叶うわね」

「......」


 たかがビキニを着るか着ないかの問題だけど、大事な友達との予定を拗らせるのも、何か嫌だ。

 これがもし、琴実ちゃんとのやり取りじゃなかったら、ビキニは着なかったと思う......。


 すっごく恥ずかしくて、消えちゃいそうなくらいだけど......、


「私、ちょっとだけ、勇気出してみるね」


 迷った末に決意を固めることは出来た。


 でも、後日琴実ちゃんから、『まさか本当に良いって言ってくれるとは思わなかったな~』なんて言葉が出てきたのは、ちょっと許せないかも。

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