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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第35章
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難儀、取り戻すためなら

 不思議と足は重くなかった。音琶に励まされて吹っ切れたのか、自身が抱えていた目標を思い出せたのかはわからない。

 だが、与えられた使命は決して忘れたりなんかしない。大切にしたい人、叶えなければいけない夢、まだ辿り着けない未来。

 全て取りこぼすことなく達成させるには、俺自身が行動を起こさないといけないのだ。


「あ、夏音君来た......!」


 教室に着き、奴らが座っている席へと向かうと、まず最初に結羽歌が反応した。


「全く、昨日全部すっぽかしといて平気な顔で来るなんて......」

「きっと昨日は、調子が悪かったんだよ、多分......」

「ま、1日休んだくらいでこいつがそのままフェードアウトするとは思えないし」

「そうだね......」


 席に着こうとしたら結羽歌と立川が根も葉もない話で盛り上がってやがる。悪口じゃないからいいんだけどさ。


「......」


 無言で座り、鞄から教材を取り出す。ここまでの流れは今まで通りだ。この後は、休んだ分の資料や課題があれば3人の誰かに聞けば良い。今まではずっとそうしてきた。

 講義が始まるまではまだ時間がある。その間に、日高達に言うべきことを伝えないといけない。なるべく早く済ませないと、取り返しの付かないことになりそうな気がして仕方が無い。

 教材を持つ手が震えている。謝罪の言葉を告げるだけのことなのに、どうしてかいつも通りの動作が出来ない。


「......何してんだよ。この教科書、午後使うやつだろ」

「......!」


 動作に戸惑っていると、日高が低い声で指摘してきた。我に返って見ると、どうしたことか机の上には午後に使う教材が置かれていた。どれだけ不安定なんだよ俺は......。

 いや、そんなことより......、


「どうしたんだよ滝上、何かあったのか?」

「......」


 何かあったのかって......お前がそれを聞くのかよ。

 まあいい、間違いなんて誰にだってあることだ。正しい教材を置き直せばいいだけのことだ、何も気にすることではない。


「何かは......あったな」

「へえ、それって何のことだよ」


 分かってて聞いてるなこいつ。当然何かはあったさ、俺が原因でバンドメンバーを怒らせ、大事な時期なのにエゴを貫いた。

 事情も知らない奴らに碌な説明もせずに......いや、これは説明するまでの話ではないな。なぜなら、こいつらと高校時代の奴らは違うのだから。


 ただ単に、俺がバンドメンバー、そしてサークルの奴らのことを信用出来ていなかったから起きたことなのである。


「そりゃ勿論......、俺がお前らのことを信じ切れてなくて、勝手にエゴを貫いて、大事な時間を無駄にしたことだ」

「......それで?」

「悪かったって、思ってる。確かに俺は写真を撮られるのも、SNSに上げられるのも嫌いだし、自分を守る為なら何だってするくらい融通の利かない人間だ。だけどだな、時と場合によっては、大切にしないといけない奴らのことを考えないと物事が進まなくなる時だってあるし、何よりもお前らの信用を失うのは......辛かったんだよ」

「......」


 日高は視線を合わせてはくれなかった。だが、下を向きながら何かを考えているようには見えた。

 俺の誠意がどこまで伝わるかはわからない。許してくれないかもしれない。それでも俺は、もう一度こいつらとスタジオに入って、本番に向けて進んでいきたい。



「スタジオなら、まだもう1回入ってるだろ。あとは滝上がどう行動するか次第だ」



 迷った末に日高が告げた言葉はこうだった。


「もうすぐ講義始まるだろ。昨日の分見せて欲しかったら言え」

「......ああ」


 許してもらえるかどうかは、次のスタジオ次第ってことか......。

 ......それでいい。口ではなく行動で示すことこそが、相手の信用を取り戻す第一歩なのだから。


 一度失ったモノは元通りの形に修復するしかない。

 過去を取り戻すことは出来ないが、今大切にするべき人達を守り抜く事は出来る。


 自分を守るのも大事なことだが、自分を守ると同時に他の誰かのことも考えないといけないのだ。

 難しい人間関係、何度失敗しても這い上がって見せてやるよ。

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