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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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警告、先輩の言葉

 18時過ぎ、月曜日の授業が全て終わり、何気なくスマホのロック画面を目に通す。

 画面上にはソシャゲの体力全回復やイベントの通知だったり、日本のどこかで起こった出来事等が流れている。

 その中に一つ、とある人物からLINEが来ていることに気づいた。


 RINO:このあと時間ある?


 ついさっきまでサークルについての相談をしようと思っていた相手から、先に連絡が入っていたのだった。

 どうして呼ばれているのかには心当たりが全く無いわけではない、サークルの裏事情を俺に話したからには今の現状についての警告でも出しにくるんだろうな。

 

 滝上夏音:一応あります

 RINO:了解、悪いけど18時半に学食来てくれる?

 滝上夏音:俺金ないので学食以外でお願いします

 RINO:うーん、じゃあ私の部屋に来て

 滝上夏音:了解しました

 RINO:正門前で集合ね


 この際俺の部屋でもよかったんだけど、後輩の男子の部屋に女子の先輩を入れるのは恐れ多いからできるわけないな、とりあえず正門に向かうことにした。


 ・・・・・・・・・


「夏音、お疲れ様」

「お疲れ様です」


 まだ予定の時間まで20分あるというのに、鈴乃先輩は既に集合場所に着いていた。


「あとは音琶だけ」


 鈴乃先輩の今の言葉に俺の耳が反応した。


「音琶もいるんですか?」

「うん、今回は夏音と音琶に用があったから」

「......」


 俺はともかく、音琶には何の用があって呼び出したんだろうか、という疑問があったけど、音琶の抱えている事情についても何か聞き出せるかもしれないと考えたわけで、この呼び出しは俺にとって好都合かもしれないな。


「鈴乃先輩」

「ん、何かな?」

「今年の1年生って先輩達から見てどんな感じなんですかね」

「うーん、どんな感じって言われると難しいけど、少なくとも私の代よりは練習入れてるかなってところ」

「俺とか結羽歌がほとんどな気がしなくもないですけど」

「そうでもないよ。ほら、鳴香わかるよね? あのこも初心者だし私がギター貸したんだけどさ、結構練習見て欲しいって言ってきて個人練習も入れてるみたいだよ」

「その練習がちゃんと意味のある練習だったらいいんですけどね」

「......もう、相変わらずなんだから」

「それはどうも」

「褒めてないよ」


 泉鳴香とかいうやつが鈴乃先輩の中では割と高評価らしいけど、俺はまだそいつの演奏を見たことがない。

 そもそも顔すらまともに覚えてないくらいだ、まだ何も分からない奴の話をされてもどう返答しろというのだろうか。


「すみません、遅れました!」


 待ち合わせの時間から5分ほど遅れて音琶が現れた。

 大きく息を切らしているけど、授業が終わった後に学食でも行ってたんだろうか。

 飯食った直後に全力で走ると腹壊すぞ。


「お疲れ様、それじゃあ行こう」


 鈴乃先輩は遅れた音琶に注意しなかった。

 サークル内での話ならこれくらいが普通なんだよな、俺と音琶は鈴乃先輩の後をついていった。


 ・・・・・・・・・


「座っていいよ、お茶用意するから待ってて」


 鈴乃先輩の部屋に入り、小さめのテーブルの前に音琶と並んで座った。

 なんというか、いかにも女子の部屋、といったところだ、今まで異性の部屋に入ったことはなかったから複雑な心境ではあるけど、俗に言う芳香剤の匂いって本当にするんだな。

 部屋の周りは白と薄紅色の家具が揃っていて、隅にはギターが立てられている。

 音琶の部屋とかもこんな感じなのだろうか。


「今更だけど、夏音も呼ばれてたんだね」


 隣で音琶が囁くように先に話しかけてきた。


「俺としては早いとこ晩飯作りたかったんだけどな」

「いいじゃん、これはチャンスかもよ。サークルの不満とか聞いてもらえそうだし」

「お前はお前で告られたり大変そうだけどな」


 抑えてるつもりだけど、どうしてかそのことが頭から離れてくれない。

 口に出せば少しは楽になるかな、なんて思うけど果たしてどうだか。


「ちょっ! バカ! 嫌なこと思い出させないで!」

「お前のことからかうのって結構楽しかったりするんだよな」

「むうー!」


 今日の音琶は元気があるな、湯川からはもう何も言われてないのだろうか。

 実際に記憶があるかも分からないわけだし、しばらくは様子見ってところか。


 でもまあ、音琶は湯川のことをよく思ってないってことが改めて確認できて少し安心したというか、何というか、俺自身自分の感情がよくわかってない。

 そうこうしている内に、鈴乃先輩がお茶を持ってきて本題に入ることになった。


「今日集まってもらったのは2人に警告を出すためなの」


 いきなり何を言い出すのかと思ったら警告って......、不穏にも程があるっていうか、この前の俺のやったことを顧みればそう言われても仕方ないかもしれないけど、何も間違ったことはしてないはずだ。


「......そんなことだと思ってました」


 先に音琶が口を開いた。


「この前の部会の時、私も夏音のことで部長と言い合いになりましたし、きっと点数の方も......」

「......あまり言いたくないんだけど、相当まずいことになってる......」

「ですよね......」


 納得いかないな、大体あの時は勝手に予定を決められて他人の都合を変えさせようとしたわけだし、せめてもう少し早めに言ってくれればよかったものを。


「それに、勘違いしてるとは思いたくないけど、私がサークルを変えて欲しいって言ったのは先輩の言ってることに反対しろっていう意味ではないの。あくまで1年生の間は先輩の機嫌をとって、2年生以上になったら1年の時の点数で得られた先輩の権力を使ってサークルにおける掟とかを比較的自由なものにしていこう、ってことなの」

「......」


 確かに、鈴乃先輩の言ってることの全てが間違っているとは思わない。

 でも、間違ったことをしている人間共の作り出す空気に流されるよりは自分の正しいと思える意見を押し通すのが筋だとは思う。


「不満があるのはよくわかるし、私だって1年生のときは嫌な思いをたくさんした。今だって前ほどではないけど全く無いわけではない。でも頑張って乗り越えればきっと変えていけると思うの」

「鈴乃先輩......」


 部長の意見には反論できても鈴乃先輩には何も言えなくなってしまっているのは、完全に鈴乃先輩を否定できないからなのは自分でもよく分かっている。

 折角自分の味方をしてくれている人を敵にまわすなんてことは、昔の事を思い出すだけで出来るわけがなかった。

 僅かな善意が後に裏切りを産むというのに。


「それじゃあ俺はどうしたらいいんですかね」

「夏音は少し我慢が足りないところがあるから、嫌なのは痛いくらいわかるけど、少しでも周りに合わせてもいいんじゃないかな。辛かったらいつでも私が相談に乗るからさ」


 俺の今までしたことがサークルを悪い方向に導くというのなら、今からでも変わらなければならないだろう。

 部長とかの先輩の為に変わろうなんてことは全く思わないわけだけど、同期の奴らや鈴乃先輩の意見くらいは聞いても罰は当たらないだろう、とは思えなくもない。


「......仕方ないですね、それならいくらでも頼るんで覚悟しといてください」

「任せなさい!」


 俺としても1人で解決できるような問題だとは思えないから、本当に信用できる相手に頼るしかないだろう。

 鈴乃先輩もその一人ではあるけど、音琶もそうだし、結羽歌も、サークルの人間ではなくても日高や立川に話す位のことはできるはずだ。


「それと音琶も、夏音の味方したいのはわかるし、辛い思いをしてきたってことは何となく分かる。でもみんなで頑張って乗り越えていこう?」


 音琶の表情が少し曇りだした。

 この表情を見るのは慣れてるはずなんだけど、何故か今は心のモヤモヤが取り切れてない。

 いつもなら明るく振る舞って流してたはずなんだけどな。


「......私、大丈夫かな......?」


 こいつもこいつでどれが本来の姿なのかよくわからんな。

 不安なのは俺も同じだ、きっと結羽歌も、他の奴らも。


「大丈夫だよ、音琶なら大丈夫」


 鈴乃先輩が音琶を宥めているけど、今の言葉は説得力がない。


「......頑張ります」


 消えそうで小さい、それでも偽りのない、そんな声で音琶は答えた。

 よっぽど悩んだ結果だとは思うけど、大きな決意をしたということには変わらない。


「......よかった、それじゃあこれから頑張って行こう! きっと君たちなら乗り越えられるって信じてるからね」


 鈴乃先輩はそう言ったけど、それで俺の精神がキープできればいいんだけどな。

 不満があっても耐える、か。


 俺には明らかに足りないものの一つではある。

 だとしても、自信が無いのを理由にしてはいけないと何となく感じる。この先俺は上手くやれるのだろうか、本当に少しだけ、少しだけそう思った。



 鈴乃先輩の部屋を出て、今度こそ音琶の家がどこにあるのかだけでも突き止めようとしたわけだけが......。


「ねえ夏音、今日夏音のご飯食べに行ってもいい?」

「はあ!?」


 唐突にそんなことを言われ、結局できなかったのである。

 お前学食行ってたんじゃなかったのかよ、と言いたかったけど、別に音琶になら飯くらい作ってやってもいいか、なんて思ってしまっていた。

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