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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第35章
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地獄絵図、根も葉もない噂

「裏サイトって......、どういうこと?」

「お前のとこには無かったのか? こういうもの」

「調べれば出てくるのかな? クラスのLINEなんか、入れて貰えなかったし......」

「......そうか」


 グループに入れて貰えただけ幸せってか......? 地獄絵図が拡がっているだけだから、あんなものには入らない方が気持ちは楽だ。音琶がどう思っているかは知らないけどな。

 調べても、出てこねえよ。俺が裏サイトを確認出来たのは、クラスの誰かがLINEでパスワードを載せていたからであって、ネットの検索で引っかからないような細工がされていた。

 グループは卒業と同時に抜けたけど、当時のパスワードやリンク先はスクショしてあるから、いつでも見ることは出来る。ほぼ毎日監視しているのだが、頻度は減ったものの今でも投稿は続いている。


 その中には勿論、匿名とは言え、俺に関する根も葉もない噂も投稿されている。


「読んでみろ」

「え!? あ......、うん」


 音琶にスマホを渡し、俺のことが書かれている画面を見せる。


 ''T.Nまじうぜえ、人より勉強出来るからって調子乗りすぎ。てかあいつ人間じゃなくてAIなんじゃね?''

 ''部活でも一人浮いてること気づいてないのかな? 空気読めよカス''

 ''目泳いでてキモい、ヤク中かよ''


「何これ......」


 ''授業中のT.N。尚勉強に熱心すぎて空気は読めない模様 →写真のリンク''

 ''あいついつもぼっち飯、クソワロタwww''


 教師バレを防ぐために、名前はイニシャルを使っていて、写真のリンクもパスワードが無いと入れない仕組みになっていた。

 敢えて俺にもパスワードがわかるようになっていたのは不快な気分にさせるためだったのだろう。だからグループにパスワードもリンクも載せられていた。

 撮られた写真は、俺が確認出来る限り200枚に達する。合成や加工で歪まされたものもあれば、顔部分を切り取って別の写真に添付しているものもあった。

 それらの写真が上げられる度に悪口のレスは返されるし、レスの数だけ嘘の情報も積み重なっていった。


 教師だって状況の把握は出来ていたはずだった。だが、大事にしたくない、という大人の事情ってやつのせいで公にされることはなかった。

 同じイニシャルの生徒は他に居たし、投稿者も多数居て特定が難しい、という理由で調査すらされなかった。

 学校の教師なんて、自分の仕事に精一杯で生徒のことも考えられない屑ばかりだ。あいつらの言っていることは一切信用出来ないし、あんな大人にだけは絶対なりたくない。


 それでも俺は、何食わぬ顔で学校に行くことを選んだ。

 あんな屑共のために引き籠もるのは馬鹿馬鹿しかったし、俺には信じられるモノがあったから、何とかやっていけていた。


 何でこんなことになったのか、原因は分からない。

 だが、所詮俺より優れていない馬鹿な人間が、嫉妬心を燃やしてエスカレートした結果だと解釈はしている。

 そんな奴らに構ってやってあげるほど暇じゃないし、周囲の人間以外は普通の生活を送っていたかった。


 俺が写真をSNSに載せることを嫌う理由、それがこのサイトにぎっしりと詰まっていた。

 平静を保ってはいたが、トラウマは生まれるものだ。何もかも信じられなくなった時期もあったし、何もかも捨ててしまいたいとさえ思ったこともあった。


 そんな俺を救ってくれたのは、出会うはずもなかった、たった一人の少女だった。


「夏音......!」


 サイトを見て数分もかからなかった。音琶の目元には涙が溜っていて、スマホを持つ手が震えていた。

 唇を噛みしめて怒りを抑えているようで、今にも溢れそうな涙がよく目立つ。


「......わかっただろ? だから俺は......、俺には、どうしても無理なことがあるんだよ」


 音琶の辛そうな顔を見ていると、こっちまで泣きそうになってしまう。

 全てを憎んで、この世界が滅んでも何も感じない所まで来ていた。生きる意味さえよく分からなくなっていた俺を救ったのは、上川音琶という少女。

 過去なんかどうでもいい、今と未来を精一杯生きたい。俺と最高のバンドを組みたい。そんな単純な願いが、音琶にとっては自分の命を賭けるくらいの大きな使命だった。


「......っ!」


 不意に音琶が勢いよく抱きついてきた。我慢していた涙は限界を超えていて、俺の上着が音琶の涙で濡らされていく。


「夏音は......、今までずっと辛かったんだね......! 辛かったけど、頑張ってたんだね......!」

「......」


 震える音琶の背中をゆっくり撫でてあげる。

 音琶はいじめに耐えられなくて学校を辞めてしまった。俺は、裏サイトの驚異に脅かされながらも、平静を装って学校に通い続けていた。


 どっちが正しいかなんて、答えは無い。

 少なくとも、俺と音琶は何も間違ったことはしていない。間違っているのは、周りの環境そのものなのだから。

 過去に囚われないよう、努力はしていた。だが、限界が無いなんてことはない。


 音琶からは泣き止む気配は感じられない。落ち着くまで、そっとしておくか......。


 一瞬視界が滲んだが、ここで俺が泣いたら格好付かないと思い、何とか我慢して音琶を宥めていった。

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