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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第35章
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裏、捻くれた過去

 学校裏サイト。

 それは、教師や学校の関係者では開けない仕組みで出来ている、質の悪い学校の非公式サイトのことを差す。

 投稿者以外の奴らが入れないようにパスワードがかかっていて、それなりの工夫が施されているから簡単にアクセスもできない。誰が何の目的で始めたのかは知らないが、最終的には俺が標的になっていたようだった。


 匿名なのを良いことに、滝上夏音という1人の生徒の個人情報や有りもしない虚偽の情報、まるで俺を自殺に追い込むかのような悪口や誹謗中傷......、ましてや俺の顔写真や日常風景の隠し撮り、誰が作ったかも知れない合成写真が掲示板にまで載せられる事態になっていた。



 当時の軽音部に入っていた俺は、部長では無かったものの、自由を尊重するサークルのやり方に多少の不満を覚えていた。

 一応1つのサークルなのだし、大会に参加しているわけでもなかったから、せめてもの定期的なライブを開催することを望んでいた。

 なのに、部長や副部長はやる気無しに等しいし、顧問に関してはほぼ無干渉。ただ放課後に部室で雑談を繰り返し、まともに音楽を奏でることのない場面が続くだけの毎日。

 一応俺はドラムに対する気持ちが強かったから、部員のやる気が低いことに不満を感じていた。

 なのに......、


 ''お前とは住んでいる世界が違う''

 ''1人だけの意見が通じると思うな''

 ''俺らのやり方に不満があるなら、部活なんか辞めちまえ''


 当時のバンドメンバーに言われた言葉がこれだ。

 高校二年の時まではそこそこライブに参加するほどの実力を備えていたが、受験を皮切りに活動は停止。それは仕方無いと思っていた。

 毎年、緑宴高校の軽音部には卒業生主催のライブが開かれることを知っていたから、受験で切りの良いタイミングが得られたら卒業ライブが開かれることを知っていた。

 俺が組んでいるバンドも、この時期には参加することになる。高校最後の大舞台に立てることを、俺は誇りに思っていた。


 せめて、高校最後の瞬間には、組んでいたバンドにも輝ける瞬間を信じていた。

 ライブの直前だって......、


 ''今までお前の意見を聞かなくて済まなかった''

 ''滝上は間違ってなんかいなかったよ''

 ''最後に、最高の舞台を作り上げようぜ!''


 高1から組んでいたメンバーはそう言っていた。

 その言葉を、俺は信じた。やっと俺の言葉を理解してくれたと思い込んだ。


 ライブが始まって、不思議な少女の姿を捉えた。俺の演奏に興味を持ち、俺の世界に足を踏み入れようとする少女の姿が、俺の視界に写った。

 演奏中はどうでも良かった。ただ、分かり合えたと思い込んでいた奴らと音楽を奏でられている事を幸せと勘違いしていたから......。


 信頼していると思い込んでいた奴らは、ただの言葉合わせでしかなかった。


 最高の舞台を作り上げよう。その言葉は、自己満足でしか無かったんだよ。





『さっきのドラム凄かったね! 大学はどこ行くの?』





 演奏終了後の少女の言葉、今思えば形だけのバンドに魅力を感じた馬鹿な少女の言葉でしかなかった。


 形だけのバンドに心を打たれた......なんて思いたくない。だってあいつは、バンド全体のことより、俺のドラムを凄かったと言ったのだから。


 あの時の俺は、気づいていなかった。

 大切にしなきゃいけない人が居たのに、目の前のクソ野郎共を肯定する方法しか考えられなかったんだよ。

 結局、ライブが終わった後は......、


 ''お前は上手いから、卒業ライブで利用しただけだ''

 ''最初からお前の熱量には付いていけなかった''

 ''幹部でもない癖に、調子に乗るな''


 メンバーに掌を返され、再び俺は独りになった。

 謎の少女を一人残し、打ち上げにも参加せず、元居た家に帰り、唯一信じられた家族との時間を過ごそうと思っていた。

 大学に入ったら、信じることの出来る人達とは離ればなれになってしまう。そうなる前に、せめてもの団欒の時間を大切にしようと思っていた。

 だというのに......。


 ・・・・・・・・・


 夏の音色はいつか滅びるもの。

 冬になれば、冷たい雪が降り注ぎ、夏の暑さなんていとも容易く壊してしまう。


 俺の心は、冷たい雪に翻弄されるように脆くて、夏の熱でさえ簡単に打ちのめされる。夏の音色を背負った名前なのに、心は完全に冷え切っていて、暖かさなんて微塵も感じられない。


 でも、そんな捻くれた名前も今は相応しいのかもしれない。

 バンドメンバーにも裏切られ、頼れるはずの奴らさえ嘘を吐き続けていた。


 俺の顔写真だって、悪い形でしか使われてないんだよ。

 過去の世界を知ってしまえば、俺の抱えていることなんて簡単に打ち明けられてしまう。


 音琶に対しても打ち明けるのに抵抗はあったが、ここまで尋問されては答える以外の選択肢は無さそうだな。

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