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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第35章
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黙秘、消したい記憶

 すっかり暗い外、繁華街は盛んな時間になり、人通りが絶える気配は無い。

 そんな中、私は夏音を追いかけて近くの公園へ誘導することに成功した。何だかんだ私の言うことは聞くんだから、もっと他の人にも素直になれば良いのに......。


「ねえ夏音、どうしてあんなこと言ったのか聞かせて欲しいな!?」

「......」


 ベンチに隣り合って座り、缶ジュースでも飲みながら夏音に問いかける。当の夏音は、私の質問に答える気配は無くて、ただ下を向きながら俯いていた。

 普段から目が死んでいる夏音だけど、今回ばかりは本当に生気が感じられなくて、このまま一言も発することなく座り尽くしたままなんじゃないか、って思っちゃうくらいにはなっていた。


 これ、夏音が元に戻るまで私もここに居なきゃダメな奴だよね......?


 ***


 やらかしたとは思っている。久しぶりに誰かの機嫌が悪くなる様を見た。今までは第三者が勝手に俺に反発していただけだったけど、今回ばかりは俺が原因だ。

 俺が原因で、バンドメンバーの雰囲気が悪くなった。取り返しが付くかも分からないレベルまでには悪くなった。


「......」


 隣で音琶が静かに座ってくれているが、声を掛けてはくれない。いや、ここは俺から音琶に何か言わないといけない場面だな。

 だけど、何を言えば良い? さっきのことを謝ればいいのか? それとも『早く変えるぞ』とでも言えばいいのか?


 口は達者な自信はある。だけど、あまり遭遇したことのない場面には弱いようだな。


「夏音......、いつまでこうして黙っているつもり?」

「......」


 不意に音琶が問いかけた。いつまで黙っているんだろうな、俺は。何も知らない奴らに自分のエゴを押しつけたのは認めている。だけどな、エゴで突き通してでも恐れるものがあるんだよ。

 あいつらからしたら大したことではないのかもしれないが、俺からしたら自分の身を守るためにもどうにかしないといけないことだったんだよ。

 Twitterだって始めたんだし、いつどこで奴らが見つけるかもわからない。いや、もう見つかっているかもしれない。宣伝のために鍵だって外しているんだし、可能性は充分だ。


「なあ、お前は俺の過去なんかどうでも良いって、前に言ってたよな?」


 念のため確認を取る。音琶と出会ったばかりの頃に言われた言葉だ。その言葉があったから、過去はなるべく振り返らずにここまでやってこれた。

 だが、状況が変わってしまっては、忘れようとしていたことが嫌でも思い起こされてしまう。二度と思い出したくないし、記憶を消せるのであれば迷うことなく消したい。記憶力の良さは、時に人を苦しめるのだ。


「夏音、やっと喋ってくれたね」

「......」


 黙ったままでは分かってすらくれない。例えそれが音琶でも、だ。


「夏音の過去......か。確かに、私からしたら知る必要の無いことだったよ。だって、夏音と私が出会う前のことなんて、この目で見たわけじゃないし......。辛い出来事なら、知らない方がいいって思ったんだもん」

「音琶......」


 まあ、いくら音琶でも初めて会ってから1ヶ月振りの再開で、俺の姿が変わり果ててしまったように見えたんだから、その間に何か良くないことがあった、って察せられるよな。

 知る必要は無いとは言っていたが、今回の出来事で納得行かない状況にまで追い込んでしまったか......。


 俺だって話したくない。話すだけで吐きそうになるし、奴らの顔を思い出すだけで気分が悪い。だけど......、精神を蝕んででも話さなければいけない時が来たのかもしれないな。


「さっきのことって、夏音の過去と何か関係あるの?」


 やや身体を前に向けながら、音琶が優しく聞いてくる。わざわざ確認までしたんだよ、関係無いわけがない。


 意を決して、音琶に打ち明けることにした。

 話して何が変わるかは分からない。だが、話さないといつまで経っても時間は止まったままなのだ。ならば、音琶が話した時のように、俺も話さなくては、な。

 音琶だって、俺のことを知らないまま死にたくはないはずだ。音琶の心情を考えれば、どうでも良いと言った過去も、2人を繫ぐ糧となるだろう。


「関係は、ある。無かったら、あんなことは言わない」


 そう言いながらスマホを開き、音琶にとあるサイトを見せる。


「これって......?」


 音琶とはあまり縁の無いものかもしれないな。そもそも音琶はほとんど学校に通ってなかったのだし。

 だが、俺は音琶とはまた違った地獄を味わった。不登校でも無かったし、小中高ともに12年間、休むことなく学校に通い続けていた。


「裏サイトだ」


 音琶に見せたのは、俺が通っていた高校の裏サイトである。

 出来れば二度と見たくないが、自分の身を守るために監視は今でも続けている。

 その度に、俺は忌々しい出来事を思い出している。


 当時の記憶が消えてしまえば、こんな苦悩とは無縁のはずなんだけどな。

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