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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第35章
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殻、部長になるためには

 6月3日


 新しくアカウントを作った翌日、教室に入るなりお馴染みの面子に弄られることとなった。


「あれあれ滝上~? 昨日の発言は何だったのかな~?」

「撤回するの早すぎじゃね? ま、サークルからしたら大助かりだけどな!」

「夏音君、自分の意思貫くの、意外と苦手な方......?」


 まあ、たった1日前に『Twitterはやらない』発言した癖に、数時間後にアカウント作って部員全員をフォローしたのだ。からかわれない方が不自然か。


「......サークルのためだからな」


 多少の恥ずかしさはあるものの、こいつらに弱みを見せたら負けな気がするから平静を保ちながら何とか返答する。

 偉大な音琶の説得力が1番の原因だが、そんなこと話したら頭部全体が熱くなって授業どころではなくなってしまうのだ。


「サークルのためと、あともう1つあるんだろ?」


 何食わぬ顔で席に着き、教材を取り出していると日高が腕を俺の肩に掛けて聞いてきた。身体の一部が拘束されてしまっては筆記用具が出せないだろ、いいからその手を離しやがれ。


「ねえよ」

「いやいや、お前には授業が終わったら巨乳の可愛い彼女が待ってるじゃねえかよ」

「自分の彼女の前でそれ言うかよ......」

「思ったことをそのまま言っただけだから、千弦に害はなしだぞ?」

「信頼してるんだな」

「お前はもう少し、視野広くしろよ」

「はいはい」


 日高の腕が離れ、ようやく身体が自由を取り戻した。この話はこれで終わりにしてくれると思ったが......、


「それで、もう一つの理由は上川なんだろ?」

「......」


 しつけえな、結羽歌も立川も面白いもの見るような目でこっちに視線送ってくんな。


「まあ音琶には......昨日色々言われた」

「......」


 俺が答えると、日高が口元をニヤリと緩ませ、自分の席に戻る。


「滝上は、上川無しではサークル引っ張っていけないかもな」

「......どういう意味だ」

「部長になりたいって思ってるんだろ? だったら、誰かに言われて行動している様じゃ、まだまだじゃないか?」

「......」


 日高の言っていることを否定は出来なかった。弁解の余地も無かった。音琶が現れてからも俺の殻は完全には壊れていない、ということか。

 少しずつ自分の考えを変えて、誰かの言葉に耳を傾けようと思っていた。だが、それと同時に自分の意思が弱くなっていた。


 俺が取るべきだった行動は、音琶に言われなくてもサークルを宣伝すること、だったのだ。


 来年は部長になる。そう決めた。

 部長になりたいと思っている人間が、自分の力でサークルを宣伝しようとしなかった。サークルのルールに従おうとしなかった。

 そんな奴が、部長になる資格など、あるわけがない。


「ちょっと日高! 滝上固まっちゃったじゃん!」

「あ......、悪ぃ......」

「ごめんね、悪気があるわけじゃないんだけど......」


 そんなこと言われなくてもわかってる。今までこいつから深い話を持ちかけられたことが無かったし、自分自身の失敗に気づいてなかったということが重なって、少し驚いただけだ。

 別に固まってなんか、いねえよ。


「まあ......、頭の片隅に置くくらいでいいからさ、今の俺の話......」

「いや、助かった」

「え?」


 我に返って申し訳なさそうな顔をする日高だったが、俺は奴の言葉を否定する気は一切ない。


「来年は部長になるからな。部員の意見、一つや二つ聞かなくてどうする」

「滝上......」


 3人は目を丸くしていたが、一体何を思っていたのだろうか。


 ''本当にこいつが部長になって大丈夫なのだろうか?''

 ''こんな奴には着いていきたくない''

 ''もっと有望な人がいるはずだ''

 

 ''この人が部長なら安心だ''

 ''きっと大丈夫、信じてる''

 ''今もこの先も、サークルを引っ張って行って欲しい''


 負の感情と正の感情を照らし合わせてみたが、思ったより疲れるなコレ......。

 今までこうして誰かの顔色を窺っていた。そんなことももう終わりにしたいのが本音だが、辞める事が出来ていたらとうの昔に辞めている。


 こんな人間に生まれてきて、碌でもない人生を送ってきた。

 一度習得した性格は、そう簡単に離れてくれはしない。


「来年までには、部長に相応しい人間になってみせるさ」


 授業も始まることだし、この会話はここで終わりにしよう。

 部長になるに当たって、大切なことを一つ、得ることができたしな。

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