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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第34章
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策、頑張っただけではない


「部室に置く分と、個人的に預かる分で分けるしかないね」

「はい......」


 特に連絡無しに大量の機材を部室に置いてしまい、響先輩からは説教を受ける羽目になった。まさか俺もここまで入ってくるとは思わなかったし、いくらLoMとは言え機材数には限界があると勝手に決めつけていた。だが、その決めつけもただの思い過ごしで、''音琶のためなら何でもする''という父親の責任と娘への愛が成立したから起きたことであった。


「でも......、こんなに機材が音同の元に入ってくるなんて、ね」

「......これなら機材問題も無事に解決したと思います。事情は響先輩なら察してくれると信じてますけど......」

「音琶のお父さん、だよね?」

「はい......、他の部員は知らないんで、口外しないようにお願いしたいんですけど......。結羽歌達に聞かれたら俺が上手く誤魔化すので」

「勿論誰にも言わないよ。夏音も隠し事がバレないように、上手くやっていかないといけないけど大丈夫?」

「生憎言葉の使い方と選び方は一人前なので、誤魔化すくらいは簡単に出来ますよ」

「そっか。なら、大丈夫だね」


 比較的大きな機材は個人の部屋で、マイクやシールド類と言った細かい機材は部室で保管する、という方向に至った。

 1番大きな機材は当然PA卓なのだが......、これは俺が預かることになった。いや、''なった''と言うより''された''の方が適格か。


 ''何も言わずにみんなを手伝わせることになったんだから、あんたが1番重くて大きい機材預かるのは当然よ!''


 琴実からの一言がこれだ。まあ当然と言えば当然である。以前響先輩には、和琶絡みの件で音琶の父親や過去のことを話しているから、事情はある程度察することができる。

 だが、他の奴らは音琶の過去を一切知らない。知らないからこそ、適当に作り話をしないといけない。


 知らないままでも......いや、知らない方が良いだろう。

 少女の壮絶な過去を話してしまったら、気を遣ってしまってサークル活動に支障を来すことになるかもしれない。

 音琶だって、自分の秘密を知られたくないはずだ。第一、音琶は俺の過去のことなんてどうでも良いって言ってたしな。


 過去よりも今が大事だってことを音琶が教えてくれた。だから俺も、音琶の今を大事にすると決めた。


 ・・・・・・・・・


「何とか運び終えたわね。疲れたわよ」

「お疲れ様だな」

「誰のせいよ......」


 部室の体裁を整えるためにも、部会を始める前に機材をそれぞれの部屋へと運ぶことになった。そのために約1時間遅れでの開始となる。

 静司先輩が車を出してくれたから割と早く片付き、何だかんだで琴実以外は文句の声を挙げる者も現れなかった。


 部室に戻る途中には、琴実も言いたいことは言い切ったようで......、


「ま、あんたらもよくやるわよね」

「......何がだよ」

「あんなに過酷な状況に居たのに、ライブを成功させるためにどんなこともやってのけているじゃない。私には到底出来ないことよ」


 部室までの暗い道を部員全員で歩いていたら、隣にやって来た琴実が遠い目をしながら言ってきた。


「ねえ、今回の機材の件、本当にどうやって策を練ったのよ。ただ頑張っただけで出来るようなことじゃないわよね?」

「......」


 機材で溢れた部室を見て、真っ先に突っ込んできたのは琴実だ。もしかしたらこいつは何かを察しているのかもしれないな。

 学祭の時、音琶の様子がおかしくなっている所をこいつは見ている。あの時のことと今回を重ねている、とまでは断言出来ないが、琴実は何かを怪しんでいる、と言った所だろう。


「策なんてねえよ。知り合いから貰っただけだ」


 別に嘘は言ってない、はずだ。音琶の父親のことを『知り合い』と呼ぶべきかは微妙な線だが、人から貰ったという点は共通している。ただの一般人から貰ったとは到底思えない量だが、これ以上踏み込んだら音琶の事情にまで到達してしまう。深追いされないように気をつけないといけないな。


「......完全に納得は出来ないけど、あんたのことだから嘘では無さそうね」


 琴実の返答からして、これ以上は質問してこないだろう。もうすぐ部室に辿り着くのだし、この話はここで終わりになった。


 ......まあ、音琶の過去話や病気のことなんて、''その日''が来たら知ることになるのだ。

 だから、今はライブのことだけを考えてれば、良いんだよ。

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