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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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意見、とりあえず聞け

 5月17日


 夜勤も無事に終わり、一眠りして言われた時間通りに目的地に向かう。

 昨日音琶がバンドの話を持ちかけてきて、メンバー全員で図書館に集まることになったのだ。

 本番まであと1ヶ月と1週間、最低でも曲と練習時間の確保くらいはしておかないといけない。


「それじゃあ始めるよ」


 音琶の合図と共にバンド内での会議が始まる。

 ちょうど音琶がホワイトボードの前に立ち、他の3人は椅子に座りながら音琶に近づき、話を聞く姿勢をとる。

 なんかこの風景、日高が居た頃にも一度あったような気がする。


「今のところ決まってるのと、今日までに決めておきたいことまとめるから」


 そう言って音琶はホワイトボードに水性ペンを走らせた。

 

 決まってること


 ・バンドの構成

 ・楽器の確保

 


 決まってないこと


 ・曲

 ・コーラスの有無

 ・バンド名

 ・練習日

 ・目標(?)


 ざっとまとめるとこうなったらしい。

 見てわかる通り決まってないことがあまりにも多い、最後のはなぜ「(?)」をつけたのかはわからんけど。


「こんな感じだと思うけど、他に何かある?」


 音琶が問い、その場の全員が首を横に振って答える。


「わかった、そしたら決めれることから決めちゃおう」


 さて、この会議はいつまで続くのだろうか、意見がぶつかり合ってかなりの時間を費やしてしまいそうな予感がした。


 ・・・・・・・・・


 1時間経過


「ねえ、そろそろ......」


 曲を決める段階で早くも意見がぶつかり合った。

 簡単にまとめると、結羽歌はまだ初心者ということもあり比較的簡単な曲をやりたいと意見が出ていた。

 それに対して湯川は経験者と言うこともあり、簡単な曲をやってもつまらないとか言い出したのだった。

 俺と音琶は結羽歌の意見を尊重していて、今は湯川と3対1の対立をしている状況なのである。


 確かに湯川は初心者と組んでもつまらないとか言ってたな、1年生のベースは経験者がいないということもあって、結局どのバンドに入っても同じことになっていたんじゃないかと思うけど、それでも面倒なことには変わりはない。

 そもそも時間が無いんだし、今からいきなり難しい曲をやったところでまともな演奏ができるとは思えない。


 それならまずは最低限簡単な曲をやって、基礎を身につけてもらった方がバンドのためにもなるし、結羽歌のためにもなる。

 難しい曲をやりたければもう少し待って、今回のライブが終わった後にでも誰かと組んでやればいいだろ。


「え、何? みんなそうして俺の考えを否定するの? 結羽歌だって今から難しい曲やったほうが身につくと思うんだけど、それに夏音も音琶も経験者なんだし、2人だって本当は簡単なのより難しいのやりたいんじゃないの?」

「いや別に」

「私はそんな難しいのやろうとは思わないよ、それにギタボなんて今までしたことないから簡単な曲の方が助かるし」


 音琶も即答だった。

 まあそうだろ、別に俺は難しいのをやったところで凄いとは思わない、演奏するからにはどんな曲でも最後までいい形で完成させるのが普通だろうし難易度とか正直どうでもいい。


「あとさあ、湯川......、じゃなくて武流がやりたいって言った曲男の人のだよね? 私歌えないよ?」


 そしてもう一つ、湯川がやろうと思ってた曲は男性ボーカルの曲だったのである。

 声のキーを調整すればできないこともないけど、それだとギターとベースの音程まで調整しなければいけないし、何より歌い辛いだろう。

 楽譜通りに演奏しても違和感しかないだろうし、これでできると思い込んでる湯川の思考回路が全く理解できない。


「歌えないなら俺が代わりに歌ってあげるよ?」

「ボーカルは私であんたはリードでいくって決めたでしょ!? 今更変えられないよ? だいたい最初は私武流がバンド入るの断ったんだからさ、せめてみんなの意見くらい聞いたげてよ!!」


 昨日の部会終わりの湯川の発言でこいつが俺らの敵だってことは理解したわけだけど、せめてバンドを組んでいる以上は自分のことばかりでなくみんなの意見を聞いてほしい。

 音琶が怒るのは当たり前だし、それ以前にもっと話し合いに協力してもらいたい。

 元々人間関係に恵まれてなかった俺だけど、またここでも繰り返すのだろうか、俺に罪はないし何か間違ったことをしたわけではない。

 それなのに、意見すら聞いてもらえず相手の思うがままにされてしまうのは、納得がいかない。


「......とにかく、私はこの曲無理だから。結羽歌もそうだよね?」

「うん......」


 一息置いて結羽歌も頷く。


「結羽歌だってそう言ってるもん。あまり時間ないんだしさ、本当は今日で全部決めたかったんだけど、もう無理そうだね」

「仕方ないね、ここまで言うんならみんなのやりたい曲やってあげてもいいよ。でもライブ終わったら俺のやりたい曲もやらせろな」


 音琶の激昂に応えたのかはわからないけど、何とか意見を通すことができたみたいだ。

 それにしてもこいつはどこまで自分中心なのだろうか、折れたとはいえ「仕方ない」だとか「やってあげてもいい」とか言うのはどう考えてもおかしい。

 こんな奴とこれから練習していくってことを考えると不安で仕方がない。

 きっと練習中も音琶は今みたいなことになってしまうだろうし、結羽歌も結羽歌でその場の空気に馴染めずにバンドが嫌になってしまうかもしれない。


 結局今回は曲だけ決めて解散になった。

 あとのことはLINEで話し合う事になったけど、上手くいくだろうか。

 少なくとも練習日だけはなんとか確保するしかない、その前に曲を覚えてからになるけどさ。


 図書館を出ると湯川は練習したいからと言って部室に行ってしまった。

 もう19時だから早いとこ部屋に戻って夕飯食べて、それから夜勤に行くとするか。


「ねえ夏音」


 不意に音琶が俺を呼ぶ。


「私さ、何か間違ったこと言ったかな?」


 お前がこんなネガティブになるなんて珍しいな、と言おうとしたけどやめた方がいいと悟り、別の言葉を探す。


「......何も間違っちゃいねえだろ」

「そう、かな。それだといいんだけど」

「間違ってると思うなら最初から言うなよ」


 なんだか音琶らしくない、こいつのことだから湯川の姿が見えなくなったあとに散々愚痴をこぼしていそうなんだがな。


「音琶、ちゃん?」


 結羽歌も違和感に気づいたのだろうか、音琶の顔を覗き込むように尋ねている。


「......とにかく曲が決まった以上練習するしかないだろ、今はまずそれが一番だからな」

「そう、だね。私まだまだだけど頑張るよ」


 やらなくてはいけない事は何よりも優先して片付けた方がバンドのためだ。先は不安だけど何かしないと何も始まらない。


「私、自分の部屋でも練習してるんだ、琴実ちゃんにも負けられないからね」


 そう言って、結羽歌は部屋に戻っていった。

 きっとその後はベースを抱えて曲の練習をするんだろうな、この前見たときよりもどれくらいの腕前になっているのか実に気になる。


「結羽歌、頑張ってるみたいだね」

「そうだな」


 音琶の口調は未だにさっきまでと変わらない。

 前から思ってたけど、何か抱えてるなら相談くらいしてくれてもいいだろ、顔に出てて隠し通せてないんだしさ、このままだと何でかはわからないけど俺も落ち着かない。


「なあ音琶」

「何?」


 もう結羽歌はいない、今は音琶と2人だけの状況、これなら聞き出しやすいし、もうこの際何か言ってくれても良いと思う。


「お前が何か抱えてるのはわかってる、もういい加減隠さないで教えてくれてもいいだろ」


 少し強引な感じになったけど言えた。

 これで音琶が何か言ってくれればいいのだけれども。


「まだ心の準備ができてないんだけどな......」

「いいから言えよ、言ってくれれば何か俺にも協力できることとかあるかもしれないだろ」


 自分でも何を言ってるかわからない、でもこいつにだけは隠し事をされたくない。

 これと言った大きな理由はないと思うけど、本心がそう悟っていた。


「そこまで言うなら、仕方ないかな......」


 そう言って、音琶はとうとう口を開いた。

 

「この前さ、湯川に付き合ってって言われたんだ」

 

 違う、そうじゃない。俺が知りたいのはそれじゃない。

 そうじゃないはずなのに、今音琶の口から出たその言葉が頭の中から暫く離れなくなっていた。

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