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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第34章
504/572

オリジナル、いつもと違った世界

 +++


 5月20日


 新たにバンドを組んで、今日が初めてのスタジオ練習の日になった。

 先々週、部室で響先輩と即興して勢いで決まったユニットだけど、軽い気持ちで挑んでいるわけではない。


 他のみんながステージの上で自分の演奏を露わにしている中、私一人だけが袖で雑用するなんて嫌にも程があるのよ。

 何の為に音同に入ったのか真剣に考えた結果、残された少ない選択肢の中で私に出来ることを探さなければならなかった。

 そうしていく内に、響先輩の弾き語りからヒントを得られた。知らない曲だったけど、即興で音を合わせて納得の行く演奏が出来た。

 勿論、弾き語りの曲はそんなに速くないし、難しいフレーズが襲いかかることもほとんどない。だからこそ経験を活かすことが出来たんだと思うけど......。でも、出来ないよりはずっとマシだし、切ないメロを奏でて見てくれる人達を感動させることだって出来るはずよ。


 だから、私は響先輩と組む道を選んだ。出来ると思ったことを、実現させたいと思った。




「前から思ってたんだけど、琴実って良いベース持ってるよね」

「そ、そうですか? お小遣い頑張って貯めてるので、いつかはMk-Ⅱなんて試してみようとも思ってますけど......」

「夢が大きいのは良いことだけど、高い楽器を持ってれば誰でも上手くなれる、なんてことはないからね」

「はい......」


 自分に合う楽器を選ぶのが1番なのは分かってるわよ。だけど、ちょっとくらい見栄張っておかないと、ベースに対する気持ちが薄れてしまいそうで怖いのよ。

 低いハードルで挑むより、目標は高めに設定したら頑張れる。それが私のモットーなのよ。


 1ヶ月前に買った黒一色のBacchusを手にして、チューニングを始める。響先輩もマイクの調整に入ったみたいで、あとは準備が整えば2人合わせての練習が始まるのだけれど......。


 先輩と2人だけで組むバンドって、何か圧力を感じるのよね......。そりゃ去年散々な目に遭ったのだし、先輩という言葉に抵抗を感じてしまっているのかもしれないけど、この人はあいつらとは違うわよ。

 先輩のやり方には必ず従わなければならないだとか、先輩の酒は絶対に飲まなければならない、みたいなノリは音同には無い。そんな間違った集団じゃないってことは分かっているのだから、ちゃんとした環境で人間関係を育んでいかないと、いつまで経っても成長出来ないわよね。


 まあ、響先輩も昔は''あの場所''に居たのだし、私達と同じ苦しみを共にしていたのよ。きっと私の演奏が良くなることを願っているに違いない、なら私も自信を持ってライブに臨めるわよ。


「チューニング、出来ました。響先輩も準備は大丈夫ですか?」

「大丈夫、いつでも始められるよ」

「私もです」


 アコギを軽く4回叩いたら、曲が始まる。予め響先輩から貰った楽譜を思い出して、最初のフレーズへと指を動かした。


 ・・・・・・・・・


 全体時間の半分が経過し、一度軽く休憩を取ることにした。

 今回演奏する曲は全部で3曲、どれも響先輩が作ったオリジナルなのだけど、思った以上に弾きやすい。今まで私が好んでいた曲とは真逆のタイプだけれど、BPMが遅いせいか身体の動きもしなやかになっているような気がした。


「琴実、練習頑張ってるみたいだね」

「えっ......? そうですか?」

「うん。この前より音がよく聞こえるし、身体も動いている。ベース新しくしたからかな?」

「うーん......、それはわかんないですけど......」


 この前、ってのは即興した時のことよね? 曲もあの時より頭に入っているから、良くなっているのは当然っちゃ当然だけど、1番の理由は前述の通りだと思うわよ。


「曲の感じが、私の得意分野と重なってるからだと思いますよ」

「......それは有難いね。俺の作った曲がこんな形で認められて、嬉しいよ」

「......」


 懐かしそうな顔をしながら淡々と語る響先輩だけど、曲を作るってことはこれまでに沢山の挫折を経験したから......よね?

 誰かの曲をコピーするよりも、自分で作詞して、作曲して、譜面も考えて......。そんな途方も無い道を辿って1つの曲が出来上がる。


 身近な存在である音楽だけど、作るともなればまた違った世界が見えてくるのよね。


「さてと、そろそろ再開しようか?」

「そう、ですね。あんまり休んでると勿体ないですし......」


 再びBacchusを手に、フォームを整える。

 1ヶ月半後に迫ったライブで、私はどこまで行けるのだろうか。絶対に成功させてやる、という気持ちと、負けたくない相手への気持ちが交わっているせいで、今まで以上に頑張れる気がした。

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