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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第34章
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負けず嫌い、いつか勝つために

 完全に即興だった。

 響先輩が奏でる旋律を頼りに、自分の中で相応しいと感じたコードを形にしていって、アコギと共にベースの音が形になっていく......。


 優しい音色に低音が混ざって、少しイメージしたものとは違うメロディーが流れていく。だけど、なんか気持ちが良い。久しぶりに誰かと音を合わせることが出来て、不思議と心が満たされていく感触があった。

 別に誰でも良いってわけじゃないけど、1人で弾くよりはマシってことよ。


「琴実のベース、こうして目の前で聴くのは初めてだね」

「そうですね、私も響先輩のアコギを真面目に聴いたのは初めてに等しいです」

「そんな俺のアコギに対して、何か言いたいことがあるように見えるけど?」

「......言いたいことは、勿論あります」


 1人だけ仲間はずれは嫌だ。周りのみんなはバンド組めているのに、私だけ孤独だなんて、そんなの嫌だ。

 結羽歌に及ばないのは分かっている。だからといって、バンドを組む権利が与えられていないわけではないんだから。

 私だって、思いついたことを現実にしたい......、なんて夢を見てもいいのよ。


 響先輩からしたら、合わせるだけの時間だったはずだけど、私は違う。音楽に対する熱は、ベースを触っている限り、冷めることが無いのよ。



「私と、ユニット組んでくれませんか?」



 精一杯の気持ち、危機感を感じていた私の我儘......。だけど、たった今奏でた音が、何となくだけど『上手く行ける』可能性を感じさせた。

 即興の譜面だったけど、しっかり合わせられた私のベース。ブレることの無かった響先輩の弦の音。2人でバンドを組めたら、良い曲が出来上がるんじゃないかって思った。


「......唐突、だね」

「バンドなんて、唐突に始まるものだと思ってるので......」

「バンド組めてないことに、後ろめたさでも感じてた?」

「そりゃ......、結羽歌に負けた悔しさはありますよ? あのこには叶わなかった事実は変わらないし、願った所で譲ってくれるわけでもない......。でも、このままじゃ嫌だったんです......」


 自分のことしか考えて無いわよ......。いつだって、私は危機を感じたら、願望のために手段を考えず動き出す......。そうやって上手いこと生きてきた。


「私は、私のベースを沢山の人に見て欲しいって思ってます。今のは完全に思いつきですけど......、このままじゃ同期の仲間外れになる様な気がして、辛いんです......」

「......」


 ただの我儘、傲慢、自己中。自分の立場が危うくなるのが怖くて、僅かに可能性を感じられる状況を逃すまいと頑張っているだけ。

 でも、引き下がれない。だって私には、結羽歌という最大の好敵手が居るんだから、何もしないままあのこよりも遠い存在にはなりたくない。


「......今回のライブ限りだからね。それ以降は、君の演奏次第だから」


 響先輩も、私達が入ったことでサークルに大きな変化が生じたことに呆れているのね。今までとは違って、サークルに対するやる気が違っている。幽霊部員なんか許さないくらいの勢いが私達にはあって、バンドを組まないと気が済まないくらいの熱がある。


「私......、必ず結羽歌を超えてみせます。そのために、一度ちゃんとバンド組んでおかないといけないって、思ったんです」

「......」

「今回限りなのは、構いません。それまでに、私は納得の行く演奏を手にしますので」


 超えたい相手が居るからこそ、本気になれる。

 本来なら出演バンドは二つだけ、ということで話は進んでいるはず。

 まだ間に合う。まだ2ヶ月あるんだから、間に合うはずよ。


「......これで、めでたく部員全員が出演出来るんだね」


 呆れたように、響先輩は言った。アコギから手を離して、私に真っ直ぐな視線を向けてくる。


「私......、中途半端な気持ちでは挑みませんから」


 私の意思だって固い。私には私のプライドがある。

 負けたから終わりではなくて、負けを勝ちに変えられるように頑張れば良い。


 次の部会までには、部員全員に通達されるかしらね。

 私が我儘過ぎなくらい、負けず嫌いだってことを。

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