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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第1章 熱い想いが辞めさせないよ!
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見学、見るだけでは済まされない

「お邪魔しまーす」


 日高が威勢の良い声で挨拶をする。

 今は個人練習の時間なのだろうか、長い髪を後ろで結んだ1人の女性がギターを弾いていた。

 それにしても、やっぱり機材に恵まれている。高校の時とは比べものにならないくらいの量と質がいかにも部費がかかってそうな雰囲気を醸し出していた。


「見学来たの?」


 ギターの先輩はそう聞いてきた。


「えっと、まあ......」


 適当に答えたが言葉になってない、嘘下手かよ俺。


「それじゃまず何のパートやりたいか聞くよ、まずは左の君から」


 おいおいまだやるなんて言ってないのにやる前提で話進めんなよ、ましてや俺なんてやる気ないのにさ。


「ギターやりたいと思ってます!」


 先に指名された日高が答えた。そう言えばギターやってみたいって言ってたなこいつ。


「私今ギター持ってるから、少し弾いてみる?」

「いいんですか? ではお言葉に甘えて」

「でもその前に、もう1人の後輩君の希望パートも聞かないとね」


 ギターの先輩の視線が日高から俺に移った。ここまで来て逃げるのも性に合わないから適当に答えるとしよう。


「一応ドラムです、ちなみに初心者ではないです」


 初心者ではない、という言葉。これがいけなかった。

 俺も少しは学習すべきだったな、誤魔化し方とかその他諸々。


「本当!? 実はうちドラマーが足りてなくてさ、しかも経験者だよ経験者、これは貴重な人材になるよ!」


 これはまずい、自分の些細な発言が大きな墓穴を掘ってしまった。あまりにも断りづらい状況だ。

 先輩、テンション上がってるし......。


「今ドラムの先輩居ないから叩いてもらうことできないけど、明日ならできるからさ、君の名前と電話番号教えて!」


 まずい、非常にまずい。

 こんなことで自分の決心をねじ曲げてしまうのか、もしも叶うのならば俺を数分前に戻してくれ、なんて思ってもそんな都合の良い展開にはならない。


「いや......、俺は......」


 ギターの先輩は顔を輝かせながら、新入生の名簿リストが書かれた紙を差し出してきた。


「ここに名前、電話番号、希望パート、書いてね。あとペンは私の使っていいから」


 どうしたらいいのだろうか、もしこの場に日高がいなかったら即座に逃げ出していただろう。

 だがそうはいかない、ここは素直に書いた方がいいのだろうか。


「どうしたの? 書かないの?」


 うるせえな......。

 さっきから思ってたけどこの人相当ぶっ飛んでる、話し方からしてやばい。


「滝上、早く書けよ。むしろ俺はここまで歓迎されるお前が羨ましい」


 やかましい俺の意思は堅いんだ、誰かの言葉にのせられてたまるか。


「よし、じゃあ先に俺が書く」


 日高はそう言ってペンを取り、名簿に自分の名前を書いた。


「これでよし。ほら、滝上、次はお前の番だ」


 こうなってしまっては仕方ない、名簿に必要事項は書くけど明日以降部室に顔出さないからな、そうすればこの場は落ち着くだろう。

 見学に来た奴全員が入部しなければいけないとかいうわけでもないんだからな。


「わかったよ、書くよ」


 名前と電話番号を記入してギターの先輩に返した。


「それじゃあ俺はこれで失礼します。日高、お前はまだいるのか?」


 部室を後にしようとしたが、日高はFenderのギターに夢中になっていて俺のことにはあまり気に掛けていないようだった。

 どうせこいつは機材の名前もろくに知らないのだろうけども。


「俺だけギター弾いててお前がずっと見てる、ってのも悪いしな。先帰ってていいぞ、明日色々話聞かせてやるよ」


 その言葉のおかげで俺は部室を後にすることができた。

 今日だけで3人の人間に振り回され、とてつもなく疲れる一日だったが、本来送るべき学校生活とはこういうものなのかもしれないと感じてしまい、今までのことを思い出すとどうも調子が狂う。


「とりあえず、資料見とかないとな」


 そう呟き、部屋に戻った俺は机に向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  等身大の大学生が見事に形成されていて、文章も読みやすく、スラスラと次に進むことが出来ました!  主人公たちの行く物語の向こう側、ゆっくりですがまた覗かせて頂きます! [一言] ツイッター…
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