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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第33章
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見えてるものと見えてないもの

 音琶と共に居れる時間は残り僅かになってしまうかもしれない。だけど、音琶が永遠に俺の隣に居る前提で話を進めるためには、サークルの進化も問われるのである。

 俺の考えに同期の部員達は納得してくれた。納得するだけでなく、サークルが少しでも良くなるように協力する、とも言ってくれた。ほとんど1人でどうにかしようと思っていたのに、あいつらと来たら自分の時間を犠牲にしてまで......。


「また考え事してるよ? また何か嫌なこと思い出しちゃった?」


 夕飯を食べ終え、就寝時間までに授業の復習をしていたのだが、部会後の出来事を思い出したせいですっかり手が止まっていたようだ。


「別に、嫌なことは考えてねえよ」

「へえ~、夏音がここまで思い詰めるのも珍しい気がしたからさ!」

「サークルの未来を勝手に想像していたんだよ」

「私と一緒に最高のバンドを完成させてる未来でも見えてる?」

「......」


 このまま上手く行けば、サークルは部費もそこそこ稼げて、大学構内でもそこそこ有名になれて、それなりに良い機材も手に入れることが出来るはずだ。未来視能力があるわけではないが、考えられる範囲で明確にすれば、事は上手く行く計算になる。

 だけど、音琶と組む最高のバンドの形は見ることが出来ていない。


「夏音......?」


 黙り込んでしまった俺が心配になったのか、音琶が覗き込むようにこっちを見てくる。これはもう、勉強どころではないな。


「......見えてねえよ」

「えっ......?」

「具体的に示さないと、最高のバンドがどういったものなのか、見えないんだよ」

「......」


 ハッとしながら、音琶は俺の返事を受け入れる。

 サークルの計画が明確になっても、約束を果たすまでの過程に注意は向けられていないから......。


「......すぐに、見えてくるはずだよ。今はまだ、他にやらなきゃいけないことがいっぱいあるんだから......」


 最高のバンドを創り上げる前にやっておかないといけないこと......。それは今まさに直面している問題だ。その問題をどうにかしないと、果たしたい約束も果たせない。


「大丈夫だよ、私のことも心配してほしいけど、それと同時にさ、サークルのみんなのことも考えていかないとだもんね」


 そう言いながら、音琶は後ろから優しく身体を抱き寄せてきた。柔らかな胸の感触が背中全体に拡がり、考え事どころではなくなってしまう。


「いつも夏音は、私達のために頑張ってくれたよね。だから、私もちゃんと夏音に付いていかないといけないね」

「......」


 甘い吐息に胸の感触。二度と離れないで欲しいものが盛り沢山だな、そう遠くない未来には跡形も無く消えてしまうというのに。


「私ね、明日から楽しみなんだ。サークルの進化に関わることが、ね」

「......」


 自分の命よりもサークルの方が心配......ってわけではないな。生きている間は好きなことがしたい、

そう願う少女は当たり前のことを俺に告げているだけだ。


「......俺に任せておけば、音琶の願っていることが全て叶うんだからな。だから、それまでは......、俺の隣から離れたりするんじゃねえぞ」


 せめてもの願い、約束を果たす前から音琶が居なくなるなんて思いたくない。


「そんなこと、言われなくても分かってるよ。夏音が頑張ってるのに勝手に離れるなんて、そんな無責任なこと出来ないよ!」


 音琶の覚悟は、決してぶれたりしない。不安に思っているのは俺の方、そんなの分かっている。


「明日は洋美さんに機材借りれないか聞かないといけないんだから! 思い立ったことはすぐに実行しないとダメだよ?」


 何を抱えていようがいつも通り、明日からの日々に駆ける想いは、今までと変わる気配すら感じなかった。


「そうだな、ゆっくりなんかしてられないな」


 時間は決して無限ではない。

 出来ることを最大限に活かさないと、手にしたい物は付いてこないのだ。

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