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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第33章
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一人で、それとも全員で

 音楽が好きな俺を、周りは否定した。

 生きがいと感じていたものを、否定された。


 ''お前のような奴が居るから''

 ''全部お前一人でやれよ''

 ''お前には付いていけないんだよ''


 同じような言葉を何度も何度も浴びせられた。


 俺に必要だった物は何だったのか、音楽が俺を駄目にしてしまったのか。

 それとも、周りの人間が駄目な奴ばかりだったのか。


 今更答えを探しても意味は無いだろう。

 だが、昔と似たような状況に陥り、今回の件を背水の陣で挑んだのは確かだ。


 二度と同じ展開にはしたくない。今度こそ分かり合えると信じているから。


 ・・・・・・・・・


 部会終了後、2年生6人が部室に残って机を囲んでいた。


「あんたってそんなに行動力ある方だったかしらね? ちょっと......いや、かなり驚いているのだけれど」

「まあ、やるときはやる位には」


 反対意見が多かった先輩達とは裏腹に、同期組からは特に不満の声が上がる様子は無い。これも経験とやる気の差だろう、何故か琴実には驚かれているけど。


「でもさ、ライブ出来るのは有難いけど、まだ俺ら、曲すら決めてないわけじゃん? ライブの構成とかはどうするつもり?」


 次に日高が質問をしてきた。不満はなくても疑問はある、ってか。こいつはまだ練習中の身だからライブについての詳しいことは分からない状態だ。ライブの構成よりはまず自分の演奏の心配をして欲しい所だな。


「少なくとも、ライブハウスでやるよりは体育館でやった方が客は集まりやすいし、時間設定や日程だって組みやすい。それに、2年生のバンドと先輩バンドの二組だけで集客が出来るとは思えないからな」

「あー、なるほど......、俺の恥ずかしい演奏がこの大学の生徒に知れ渡ってしまうのか......。出来ればあまり人が来ないことを願うよ」

「馬鹿かお前、始まる前から諦めてどうする。練習のやり方さえ掴めば2ヶ月で上達させることだって出来んだよ。いきなりムズいのは無理かもしれねえけどな」

「......一応、響先輩とは連絡も取り合って練習はしてるよ。出来れば簡単な曲からにしてくれれば少しは自信付くから、滝上もサポート頼むぞ」

「それは言われなくても分かってる。最初の内は慣れることから、だからな」


 日高は未だに不安を拭えていないらしい。2ヶ月でどこまでやれるかしっかり見ておかないといけないな。


「......ってか、機材はどうするのよ。一応小さいアンプとか個人の楽器ならあるけど、ドラムや音響機械とかはどうするのよ?」


 次に琴実が質問を投げてきた。まあ、貧乏サークルが不安視するものと言えば機材だよな。ただでさえ金が掛かるものを部費でどうにか集めて会場を完成させないといけないのだから、上手く工夫する必要がある。

 勿論個人で持っているものは掻き集めてもらうつもりだが、どうしても足りない場合のこともしっかり考えている。


「ドラムなら俺の電子ドラムを使えば良い。体育館にもボーカル用のマイクや音響機械くらいならあるだろ。配線とかボーカル以外のマイクはわからないけどな」

「もし無かったらどうするのよ? いくら持ってるのかは知らないけど、どうせ部費も雀の涙なんでしょ!? 新しく買う、なんてことになったら借金どころじゃ済まされないわよ!?」

「取りあえず落ち着け」


 自分だけ出れないことに憤りでも感じているのだろうか。お前だってもう少し頭を使えば二人組のユニットくらいは組めると思うけどな。


「わざわざ機材を一から買う、なんてことはしねえよ。借りるんだよ」

「借りる? 一体どこからよ、まさか軽音部と手を組むなんて考えていないでしょうね!?」

「なわけねえだろ。バイト先から借りるんだよ」

「......!」


 これはあくまで機材がどうしても足りなかった場合に限るのだが......、強く懇願すればレンタル代も安くしてくれると思いたい。


「まずは下調べから始めないといけないけどな。体育館だって幾つかある内のどこを使うかも徹底的に調べないといけない。まあ、ほとんど俺と響先輩でやるけどな」


 明日はバイトだし、その時にオーナーと話し合えばいい。まあ、あそこは機材も豊富だし、出勤前に体育館を廻っていけば効率良く進むだろう。


 これから決めることを纏めると、


 ・どの体育館を使うか

 ・時間設定と予約

 ・足りない機材の確認、招集

 ・バンド名

 ・曲目

 ・配線や音響、照明をどうするか

 ・宣伝のポスター、チケット作り


 といった所だろうか。

 どれもこれも明日からしっかり計画を立てて始めればすぐに終わることだ。勉強とも上手く両立させないといけないが、これも全てサークルのためだと思えば頑張れる。


「ちょっと......! 待って、欲しい......かな?」


 上手く纏めて話を終わらせようとした時、不意に結羽歌が立ち上がって何かを言おうとしていた。


「何だよ」

「全部、夏音君と、響先輩がやるの......? たった2人で......?」

「まあな。これは俺が響先輩に提案したことだし、お前らを巻き込んでいる分負担は掛けられねえ」


 別にこれくらい1人で出来ることだ。サークルを大きくするためには、これくらいの過程は必要なことだ。


「私も......ううん、私達も、夏音君の力になれることがあったら、協力したいよ......? だって、これはみんなでやるライブなんだから、ね?」

「......」


 座ろうとせず、真っ直ぐな目で俺を見つめる結羽歌。それに続くように、他の奴らも何かと俺に本音をぶつけてきた。


「全く、あんたっていつも1人でどうにかしようとしているわよね。いい加減その悪い癖、直しなさいよ?」

「出来ることあれば何でも言ってくれよ。宣伝なら俺もやってみたいし」

「音響ってなんか面白そう! 滝上って音楽のこと色々知ってるみたいだから~、頼りにしてるぞっ」


 琴実、日高、立川と続き、最後に音琶が言う。


「今更私が夏音の手助けしないとでも思った? これくらいの我儘、いくらでも聞いてあげるんだから!」


 ......どうやら俺はこいつらを甘く見過ぎていた様だな。

 さっきまでの先輩達の反応を見て、少し昔の事を思い出してしまったようだ。


 過去が上手く行かなかったからといって、良くないことが起こり続けるというわけではない。

 自分一人で出来る、と思っていても、時に誰かを頼らないといけない場合だっていつか必ず訪れる。


 なら、少しでも不安を感じたら......いや、不安を感じていなくても、''全員''で創り上げるライブにしないといけないのだ。


「......そうだな、だったらお前らのこと、頼りに頼ってやるよ」


 感謝の気持ちを伝えようと思ったが、どうしてか皮肉に近い言葉になってしまった。


 そろそろ俺も、自分に正直にならないといけないのかもしれないな。

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