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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第33章
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呆笑、内から籠もる意気

 5月7日


 授業が再開し、休み明けの身体をどうにか駆使する。

 気怠さを残しつつも、俺に当てられた役割を果たすため、何事も油断は出来ない。


 そう言えば結羽歌の表情が以前より明るくなったように見えたが、何か良いことでもあったのだろうか。それとも、長い間抱えていた悩みから解放されたのか、理由は聞かなかったが、バンド内の人間関係はそれなりに良い方向に向かっていると捉えてもいいだろう。


 後は、これからどう活動していくかに掛かっているわけだが、何から始めればいいのかはもう決めている。昨日の今日で急過ぎるかもしれないが、善は急げという言葉があるのだし、一秒たりとも躊躇っている暇は無い。


 授業が終わった後、迷わず部室へと足を運んだ。もしかしたら響先輩が居るかもしれない。いや、確実に響先輩は来る。毎日欠かさず部室に立ち寄って、サークルの様子を窺っていることくらい、俺は知っている。

 響先輩は部長の役割をしっかり理解しているし、口に出さなくても部員を大切に思っている。幹部ですらない俺が出しゃばることでは無いのかもしれないが、俺だって必死なのだ。叶えるためなら何度だって部長に意見を投げかけるし、簡単に引き下がったりはしない。


 響先輩が卒業した後は、俺が響先輩の後を継ぐ。そう決めたのだから。


 ・・・・・・・・・


 音琶には少し遅くなるとLINEで伝えた。未だに無人の部室だが、俺が来るまでは誰かが入った痕跡は無かった。

 ほぼ毎日部室に顔を出し、少しでも散らかっている所があったら片付けをして帰る響先輩のことだ。人が入ったか入っていないかくらい、すぐに分かる。もう少し待ち続ければ、響先輩は必ずここに来る。


 20分ほど経過した頃、外から足音が聞こえてきて、扉の前で止まった。間もなく響先輩が現れ、1人黄昏れていた俺を見て驚いている様子を見せてきた。


「夏音? 1人でどうしたんだい?」

「お疲れ様です、先輩」


 想定外だったのだろうか、目を丸くして暫く固まっていたが、やがて響先輩は部室の中へと入り、奥に立てかけてあるアコギを取っていった。次にパイプ椅子を取り出し、足を組みながら座って適当に弦を鳴らし始めた。


「響先輩、唐突ですけどお願いがあります」

「......」


 俺の問いかけにギターを鳴らす手が止まる。


「二日連続でお願いするなんて、本当に君は先輩の扱いが雑だね」

「皮肉ならいくらでも言って構いませんよ、慣れてるんで」

「まさかここまで図々しいとは思って無かったからね。俺も夏音のこと甘く見過ぎていたみたいで」

「甘く見られては困ります。色々と本気なんで」

「だったら言ってみなよ、夏音の本気ってのを」


 流石にストレスが溜っている、よな。ただでさえ忙しい学生生活、思い出したくもない様な過去話に付き合わされ、挙げ句の果てに後輩から目的不明の願望を聞かされようとしている。

 苛立ちが抑えられなくても無理は無い。だが、時には誰かを苛立たせてでも動かなければ、叶えたい願いも叶わなかったりする。時と場合ってものが、この世界にはあるのだ。



「俺らのバンドに、ライブをさせて下さい」



 音琶と最高のバンドを組む。そのためには、まずライブをしないと始まらない。

 いつ死ぬか分からない少女のことだ、叶わないまま終わってしまう可能性だってゼロではないが、信じられる分は全力で信じていきたいし、出来ることは早急に実現させたい。


 勿論、ただライブをするだけではない。音楽同好会というサークルを知ってもらうためにも、人が集まりそうな場所で開催させる必要がある。

 何も考えずに発言しているわけではない、ということを響先輩に伝えたいのだ。


「はぁ......。全く、君の情熱には頭が上がらないよ」

「......!」


 響先輩は、溜息を吐きながらも僅かに微笑み、俺にそう返した。


「昨日からずっと複雑だったけど、夏音は本当に音琶のことを大事に思っているんだね」

「大切な人を大事に思うのは、当たり前のことですから」

「だけど夏音は少し熱が高すぎる。顔には出ていないけど、内から籠もる意気が全てを赤裸々にしているね」

「別に......、熱はないです」

「まあまあ、そんな本気にならなくていいから」


 最高のバンドを組み、音同を大きなサークルへと進化させる。限られた時間の中でどこまで俺は行けるのだろうか。

 その意気がどうやら響先輩に伝わったようだ。部長が味方に付けば、心強い。


「音楽を心の底から愛している人のことを否定なんかしないよ。本気で頑張ろうとしている人に協力するのは、部長の役目だからね」


 好きなこと、やりたいことに真摯に向き合う姿勢。これから先、忘れないように動かないといけない。

 これは始まりに過ぎないのだ。まだまだ山積みの課題を乗り越え、完成へと導くためなら何だってやってやる。

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