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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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鳴香、ギタリスト同士

 5月15日


 午前中の授業を何とか全て片付け、午後は自由時間になった。

 上手いこと食材を使いこなし、賞味期限もよく見て何を作るか決める。昼食も食べ終え、外に出る準備をする。

 別に今回は部室に行くわけではないけど、この前日高と行けなかった用を果たすため13時に正門前に集合し、それに間に合うように足を速める。


「お、来たか。後は結羽歌だけだな」


 正門に着くともうそこには日高と立川がいた。今から集まる全員が午後の選択授業を取ってなかったわけで、集まることが出来たのだ。

 何というか、大学生活って本当に自由だよな、授業の時間割を自分で決めて空いている時間は遊んでもよし、勉強してもよし、居眠りしても(俺はしてないからな)注意されないってことを考えると高校の時とは比べものにはならない。

 多少の校則はあれど、他人に迷惑掛けるなくらいのことしか書いてないし。


「なあ滝上、サークルのほうはどうなんだ?」


 日高が唐突に聞いてくる。

 最近こいつとサークルの話はほとんどしてなかったが気に留めてくれてたんだな。

 どうって言われても、何から話せば良いのかってことになるけども。


 この前はアルハラ紛いのこと、というよりもアルハラだなあれは、日高に言ったら何て言われるだろうか。

 今まで授業で寝るなんてことがなかった結羽歌がこの前の授業で睡魔に勝ててなかったし、少しばかりは心配してるのかもしれない。

 俺としては音琶のこともあるし簡単に辞めるなんてできない、鈴乃先輩の協力だってある、ただ飲まされることに嫌悪感を抱くより何か対策を考えることにしたのだ。

 勿論あんな思いはしたくないのもある。


 日高に相談したい気持ちもあるけど、こいつの場合だと今すぐサークルを辞めるように促しそうだし、最初に誘ってきたのは日高なわけだから「自分のせいで友人が酷い目に遭った」みたいなこと言い出して責任を感じられそうな気がする。

 俺としてはそんな風に思われたくはないし、別にサークルに入ったのは誰のせいでもなくて、結局は引き下がれなかった俺だけの問題なのである。

 解決できそうなことくらい自分でどうにかしてみせる。


「別に何も変わったことはねえよ」

「へえ、まあ何か困ったことあったら相談してくれよ」

「相談しないと解決できないほど俺はガキじゃねえよ」

「はいはい、ライブ見に行くからな」


 後々思えば、せめて何か言っても良かったんじゃないかと思う。

 解決だとか、変えていくだとか、単純だと思ってたことがあんなに困難な話だなんて思いもしなかったんだからさ。


「お待たせー。ごめんね、待たせちゃったよね」


 日高と立川と他愛もない話をしている内に結羽歌も到着して全員が揃い、目的地に向かった。


 ***


 ギタリストの集まりで色々あって、私は鳴香と仲良くなった。

 バンドは高島さんと組むみたいで、結羽歌のことをライバル視している高島さんのことだから私たちのバンドのこともライバル視しているらしい、何というかあのこらしい。

 LINEのバンドグループの方では話が一向に進んでないからそろそろ何か言おうと思うけど、大事な打ち合わせは今週の部会の時にみんなで直接話し合った方がいいとは思う。

 鳴香の方はそれなりに話が進んでいるらしく、もう次の土曜日には練習に入るらしい。


「それで、音琶の方はどうなの?」


 鳴香が肩まで伸びてるセミロングの髪を後ろで結びながら聞いてきた。

 昼休み、学食で鳴香と偶然会い、一緒にお昼ご飯を食べることになった。学食の場所はそれぞれのクラスの教室によって分かれてて、正門から一番近い場所にある。

 鳴香とは同じクラスだから遭遇してもあまり驚かない。


「うん、今週の部会の時に色々話し合おうかなって思ってる」

「そうなんだ、なんかごめんね。うちのベースが......」


 一応高島さんとの一件も集まりの後の飲み会の時に鳴香には話している。

 そもそも私が鳴香と仲良くなったのは、鳴香が高島さんとバンドを組んでるってことを知ったからで、あの時は私も鳴香も酔っていたからその場の勢いで言ってしまったようなものだったりする。


「高島さん、ほんと凄いよね。この前のLINE見る?」

「見る見る」


 2日前、高島さんから夜中に届いたLINE。

 文章とか時間帯からして何をしていたのか全く読めない。


 高島琴実:あんたのバンドに勝つから、そして池田さんにも活から!!


 追加で猫のイラストが描かれたスタンプが送られていた。

 しかも10個以上、所謂スタ爆ってやつだ。それと「勝つ」を「活」って打ち間違えてるし。


「うわぁ......、これはほんとに凄い」


 とても正常な人なら絶対にやらないであろう誤字とスタ爆、それを見た鳴香は驚きと共に苦笑している。


「うん、しかも送ってる時間がね......」

「これは飲んでたんじゃないかな」

「あー、あるかも」


 高島さんがこんなLINEをわざわざ送ってくるってことは、もしかしたら結羽歌と何かあったのかもしれない。


 だとしても、ドラマーの飲み会に飛び入り参加してもらった時の経験からしてドラマがあったのは確実だよね。

 まだギタリストの飲み会のほうがマシに思えるし、特に兼斗先輩が酷かった。夏音と同じ1年の桂木君が標的にされて夏音はすぐに潰れ、桂木君も暫くして眠ってしまった。

 私も気づいたときはお腹を出して床にうつぶせになっていて、目が覚めた夏音に起こされたのだった。

 あんなあられもない姿まで見られて凄い恥ずかしかったけど、まだ酔いが残ってたからそのときは大丈夫だった。

 完全に酔いが覚めてから思い出すと顔から火が出るくらいのものだけどね。


 ......それに起こされるとき、夏音が何をしようとしていたのかを考えると居ても経ってもいられない。

 あれは一体何だったんだろう、嫌ではなかったけど、聞き出そうにも恥ずかしくてできない。


「まあお酒はほどほどだね」

「そうだねー」


 鳴香が私と同じこと思ってて安心した。

 お酒は嫌いではないけど、飲み過ぎるのはよくない、XYLO BOXでバイトしていたときも、明らかに限度を超えた飲み方している人を何人も見てきたけど、そんなのにはなりたくないし。


 ふと正門の方向を見ると、夏音と日高君と、あともう一人、名前の知らない女の子がいるのが見えた。

 これからどこかに遊びに行くのだろうか、3人とも随分と楽しそうにしている。私の前では夏音はあんな表情しないのに......。


「音琶?」


 鳴香が怪訝な表情で尋ねてきた。

 いけない、今はそっちに集中しちゃ駄目だ。


「あ、ごめん。大丈夫」

「ならいいんだけど、早く食べないと三限始まっちゃうよ?」


 ふとテーブルの料理を見るとまだ半分残っている。

 鳴香と話すのと正門にいる夏音達に夢中になっていて箸が全然進んでいなかった。


「うん、そうだね!」


 箸を進め、ご飯を口に運んでいった。

 夏音と一緒にいた女の子は一体誰なんだろう、笑ってないにしても私と話すときより微妙に表情が違っていて楽しそうにしているのがわかった。


 夏音は私と話すときよりも、あの女の子と話す方が楽しいのかな。

 そのことが頭からなかなか離れなくて、三限の授業はあまり集中できなかった。

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