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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第33章
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音琶と和琶、ギターに触れて

 3年半前、音琶の兄、上川和琶の真実。

 俺も音琶も、息を呑むようにして響先輩の話を待つ。


「あの日はね、サークルでクリスマス会をしていたんだよ」


 そこまでの流れは音琶から聞いているので、特に驚くような要素は無い。だが、恐らく冬休みに入るか入らないかの微妙な期間だし、当時の部員達は普段以上に羽目を外していたのだろう。

 俺が辞めた直後もクリスマス会なるものが開催されていたのだろうか。まあ、あいつらと俺は一切の関わりが無くなったから、今更気にするような話でもないか。生き残った1年の内誰がどんな役職に就いてどんな苦しみを味わっているのかは気になるかもしれないけどな。


「まあ、あいつらのことだから、夜が深くなればなるほど酒も深くなっていって、いつも通り1年生から犠牲になっていったんだよ」

「......」


 結局サークルのやり方は響先輩達が居た頃から何も変わっていない、ということか。驚くようなことでもないな。


「質問、いいですか?」


 話を遮るようで申し訳ないが、一応聞いておきたいことはある。


「何?」

「その時、響先輩は、サークルのやり方を変えようと思ってたり、してたんですよね?」


 前に聞いた話だが、今一度確かめたかった。音同に入ったのは、間違った先輩にならないためでもあるはずだし、何より本気で音楽を楽しみたい。そんな願いがあったからだろう。


「勿論だよ。そう思ってなかったら、もうとっくに辞めていたからね」

「......!」


 迷いの無い返答だった。響先輩の気持ちは、軽音部に居た頃と変わっていない。当時の意思が、音同へと繋がっている。疑う必要のないことだった。


「......だけど、もっと早く音同に入っていたら、和琶は死なずに済んだんだよ」


 だが、響先輩の意思は、後悔も引き起こしていたようだ。

 そして、今の言葉に音琶が食いついてしまう。


「どういう、ことですか......?」


 仕方の無いことだろう。兄が死なない可能性も秘めていたのなら、衝動的に音琶が割り込むのも無理は無い。


「和琶はね、一度俺にこう言ったんだよ。クリスマス会より2、3ヶ月くらい前の時、だったかな?」


 音琶の突っかかり具合から、響先輩の表情に緊張が走ったように見えた。だが、嘘は吐けまいと思ったのか、数秒間隔を開けて口を開いた。


「『軽音部を辞めようと思っている。家族のこともあるし、妹の面倒も見ないといけないから』ってね」

「はっ......!」


 知らなかったことを目の当たりにしたからなのか、将又別の何かに気づいたのか......。音琶が声にならない叫び声を上げそうになっていて、思わず俺は彼女の顔色を窺っていた。


 ***


 響先輩の話......。

 和兄が、自らの意思で、私のために、軽音部を辞めようと思っていた時期があった......?


 家族だからといって、抱えている闇を全て暴けるということはない。だけど、和兄が私のことを思ってくれていたってことが知れて、少し嬉しかった。

 でも、冷静になって考えてみると、和兄が結局辞めなかったのには何か大きな原因があるからで......。


「和琶が妹と2人暮らしって話は聞いてたから、サークルを離れるには丁度良い理由だったんじゃないかな? あのサークルの掟やら何やらに従えば、段々自分の時間が無くなっていくしね」

「和兄が私を心配するのは、当たり前のことです。だって、和兄は私の事、何よりも大事にしてくれてたから......」


 少し皮肉を込めた言い方にムッとしながらも、自分の意見を伝える。


「......ごめん、ちょっと言い方が悪かったね。でも、あいつは家族のことを大切にしている奴だった。サークルに時間を奪われて、家に帰るのが遅くなるのが嫌になっていたのは本当だよ」

「サークルのやり方とか見れば、嫌になる理由はそれだけじゃないはずです......」

「勿論、和琶だって先輩の居ない所では愚痴を零していたし、俺や留魅達とお互いの不満を共有していたさ

。それは君達も同じじゃないかな?」

「......はい。私も夏音や、結羽歌達とも......色々ぶちまけてました」

「なら安心。それで、話を戻すけど......」


 本題に戻れば、和兄が引き留まった理由がわかる。

 やっぱり、当時1年生だった兼斗先輩や聖奈先輩達と揉めたからなのかな? それともまた何か別の......、


「和琶の奴、辞めようかなって言った数日後、やっぱりサークルは続けるって言ったんだよ」

「えっ......?」


 どういうこと......? 私の面倒を見るために辞めるつもりだったのに、急に気が変わったってこと?


「一応理由は聞いたけど、最後まで話してくれなかった。和琶の話を聞いて、俺も考え直したんだよ。サークルを変えるより、音同に入った方がいいのかもってね」

「でも、和兄は......」

「うん。『変な事言ってごめん、今回のことは忘れてくれ』って言って、この話は終わったんだよ」

「そんな......」


 和兄は、言ったことをコロコロ変えるような人じゃなかった。私の知らない所では、こんな感じだったのかな? でも響先輩がわざわざ話題に出すってことは、珍しい行動だったからってことだよね?


「ともかく、あの時無理矢理にでも辞めさせていれば、和琶は死ななかった。だから、後悔は、している」

「......」


 和兄が死んだ日の2、3ヶ月前......。あの時、私は何をしていたっけ。

 その時にはもうXYLOでバイトしていたっけ。それとも、まだ部屋でゲームばかりしていた時期だったっけ。


「......!」


 頭の整理をしていたら、ふと引っかかるものがあった。


 和兄のギターを初めて触ったのって......、大体それくらいの時期だったはずじゃ......。


「助けようと思えば助けることは出来たし、まさかあんなことになるとは思っても居なかったさ。今更悔やんでも和琶が戻ってくるわけじゃないけど、今でも胸の奥が苦しくなるときだって......」

「待って下さい......!」


 思わず立ち上がり、周りの人達の視線が私に集まる。


「あっ......!」

「取りあえず、落ち着こっか」

「はい......」


 一旦冷静になって座り直し、あくまで可能性でしかない話をすることにした。



「和兄の気が変わったのは......、多分私が原因です」



''何だよ音琶、ギターに興味でも持ったのか?''


''うん、ちょっとね''


''それなら俺が教えてやるよ''



 初めてギターに触れた時、和兄とそんな会話をしたのを、今でも覚えている。

 その時の和兄がどんな気持ちだったのかは完全にはわからないけど、私に演奏している姿を見せたかったから、踏みとどまったのかもしれない。


「私があの時和兄のギターに触れたから、ギターに興味を持ってくれた私を見て、嬉しかったのかもしれないです......! もう一度頑張ろうって気持ちになったのかもしれないです......!」

「音琶......」


 隣で夏音が心配そうな声を掛けてくれる。だけど、私の口は簡単には止まらない。


「響先輩のせいなんかじゃないです。あの時、私が和兄のギターを触ってなければ、きっとそのまま軽音部を辞めていたと......思います」


 和兄がこの世に居ない限り、和兄の気持ちは誰にも分からない。

 でも、可能性があるなら、私の行動が和兄の全てを変えてしまった、と捉える事が出来てしまう。


「えっと、音琶が和琶のギターに触ったから、あいつが死んだってことになるのか? 俺にはよくわかんないんだけど......、もうちょっと深く説明してくれてもいいかな?」

「あっ......、すみません......」


 気が動転したせいで話の流れがぶつ切りになっていた。

 ちゃんと心を落ち着かせて、わかりやすいように説明しなきゃ......!

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