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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第33章
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意決、人を動かす力

 5月6日


 ゴールデンウィーク最終日、授業再開の前日だからゆっくりしたかったのだが、急な予定変更が入ったせいで休む所の話ではなくなっていた。

 昼過ぎ、響先輩と大学近郊の喫茶店に集合し、音琶の兄・上川和琶の真相を探ることにした。音琶が死ぬ前にやらなければいけないことを果たすには、一秒たりとも時間を無駄には出来ないのだ。


「休日の最終日に突然呼び出すなんて、よっぽど焦ってることでもあったのかい?」

「まあ、そんなところです」

「別にいいよ。俺も研究室の方は常に余裕を持ってやってるから」


 響先輩はコーヒーを啜りながら、俺と音琶の話題を待っているようだ。

 響先輩は軽音部を辞めて音同に入った身。考えていることは俺と同じはずだし、少しだけだが当時の話も聞かせてもらったりもした。

 間違いなく和琶のことも知っているし、あの時何があったのかも音琶以上に知っているはずだ。軽音部の奴らからは得られなかった情報も、響先輩なら教えてくれると信じたい。


「そしたら、少し時間が掛かっても文句は言えませんね?」

「全く......、君達は先輩の扱いが少し雑だよ?」

「雑なくらいにしておかないと、知りたいことも知れないと思ってる身分なので」

「そうかい」


 やや呆れながらも、響先輩は俺の意見に同意してくれたようだ。

 そして音琶も、響先輩へ自分の意思を伝え出す。


「響先輩、私はどうしても知りたいことがあるから、こうして呼び出しました。だから、どんな質問にも答えるって約束してくれますか......?」

「......」


 覚悟を決めた音琶の表情を見るや否や、響先輩の表情は強張る。まるでこれから聞かれることを予見しているかのような顔つきで動揺していて、どう言い訳しようか考えているようにも見えた。


「......答えられる限りのことなら、答えるよ」


 音琶の真剣な顔に気圧されたのか、響先輩も決心してくれたようだ。そろそろ本題に入るとするか。


「音琶、もういいぞ」

「うん......!」


 音琶も意を決して、聞きたかったことを言葉にした。


「響先輩は......、上川和琶のこと、知ってますよね?」

「......」


 上川和琶。その名前を聞いて、響先輩の表情が僅かに曇る。

 元同期で、本来なら共に同じサークルを過ごしていた仲......だったはずだ。


 ある日突然目の前から居なくなり、信じがたい現実を受け入れることになったのは、響先輩も同じはずだ。

 音琶の知らない背景が明らかになるなら、響先輩を頼るしかない。そう感じたから今日こうして話している。


「勿論知ってるよ。和琶が突然どうしたんだい?」

「どうしたも何も、名前で察しませんか?」

「......まあ、察せないこともないね」


 諦めが付いたかのように、響先輩は質問に答えた。


「察せないも何も......、私と和に,,,,,,和琶は名前が似てますし、響先輩なら分かってくれるって思ったんです......」

「......名前は......、初めて音琶の名前を知った時点でまさか、とは思ってたよ。でも、俺から聞き出すわけにもいかない話だからね」


 確かに、音琶に亡き兄の話をするのは非常識だ。トラウマを抱えている可能性も秘めているし......現に抱えているわけだが、家族に関する話を何も考えずに持ち出すわけにはいかない。

 だけど、音琶は響先輩に少しは気遣って欲しかったのかもしれない。兄のことを知っている数少ない人物なら、距離を縮めて近づきたいに決まっている。


「私は......、上川和琶の妹です。生みの親は違いますけど......、同じ屋根の下で過ごした大切な家族なんです......!」

「......」

「だから、和兄が最期を迎えた日に何があったか、知りたいんです......!」


 音琶は本題を伝えることが出来た。あとは響先輩次第だが、果たして音琶に包み隠さず知っていることを話してくれるだろうか。



「......わかった。俺の知っている限りのことは話すよ」



 躊躇っていた響先輩も、音琶の言葉で気持ちが変わったようだ。

 やはり音琶の言葉には、人を動かす力が備わっているのかもしれないな。

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