写真、載せてる数以上の思い出を
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5月4日
午後から診察の予約は取ってある。音琶の病態を知る日に入ってしまったが、緊張したところで現実は変わらないだろう。
俺は今でも音琶の最期が近づいていることを信じてない。まだまだ果たしていない約束があるのだから、叶うまでは絶対に音琶を死なせたりはしない。
不可能だと誰かが言うかもしれないが、俺は不可能だと思ってないのだから、このまま正しいと思っている道を貫く。そう決めた。
そのためにも、まずは音琶の状態を把握しておく必要がある。結果次第でどうするか、音琶の意思はどうなのか。全てを繋げてから次の行動へと進んでいく予定だ。
だが、結果次第では、バンドメンバーに音琶の真実を伝えないといけないことになるかもしれない。
いや、バンドメンバーだけでなく、サークル全体に......。いつかは知ってもらわないと、いけないことになるかも、な。
一つの可能性が脳を過ぎったその時、音琶が呑気な声で俺に話しかけてきた。
「ねえ夏音~、昨日からLINEの通知が止まらないんだけど~」
「......それは俺も同じだろ」
「みんなが羨ましいよ~......」
昨日は結羽歌達がドライブに出かけていたから、サークルのグループLINEが写真の送り合いになっていたわけだ。
車内でカメラ目線になっている写真や飯の写真、中には隠し撮りとも取れる写真も入っていた。その全てがかけがえのない思い出に見えなくもなくて、行けなかったことを残念に思ってしまう自分が居た。
音琶も相当行きたがっていたからな、次こそは必ず、絶対に、何が何でも行ってやりたい。
「......大丈夫だ、次に行く時は、俺もお前も絶対に一緒だ。結羽歌達が載せてる数以上の写真撮って、LINEのアルバム埋め尽くしてしまおうか」
「う、うん......!」
音琶の表情には不安も残っている。だけど、希望を捨てているわけではない。
「......早いとこ受けちまって、これからどうするかしっかり話し合おうか」
簡単な問いかけだったが、音琶は無言で頷くだけだった。
無理も無い......よな。だが、俺だって似たような気持ちを抱いているのだ。
俺とお前は一心同体。音琶にそう言った。
数分の時間さえ惜しいくらいだ。だが、現実を避けることは出来ない。
決めた事は、最後まで成し遂げないといけないのだ。
「俺が付いてる。だから、そんな暗い顔するな」
俯きがちな音琶を優しく抱き寄せ、耳元で囁いた。




