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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第32章
483/572

交わる本音が、私に力をくれた


「.........」

「.........」


 数十秒の間、沈黙が流れた。

 足は震えているし、心臓の鼓動も落ち着いてなんかくれない。

 今すぐこの場から逃げ出したい。そう思っても、どこに逃げればいいのかもわからないし、まず足が自由に動いてくれない。


「あ......、あの......」


 長い間言えなかったこと。それを全て曝け出して、日高君がどう思っているか、何て言ってくれるか、ちゃんと返事を聞かないといけない。

 振られることはわかっている。でも、何も言えないままじゃ嫌なんだ......。


「......やっぱり、か」

「......」


 日高君の第一声はこうだった。

 やっぱり、ってことは、薄々勘付いていたってことなの、かな......?


「何て言うかさ......。今まで俺、無意識に結羽歌に辛い想いさせてた......よな?」


 右手で後頭部を掻きながら、日高君は話し出す。視線が泳いでいて、動揺しているようにも見えた。


「えっと......」

「別に遠慮しなくていいからさ、正直に言ってくれた方が助かる」

「あ......、うん......。ちょっと......ううん、かなり辛かった、かな」

「......」


 本当のことを言うべきだと悟り、正直に今までの気持ちを伝える。


「だよな......」


 申し訳なさそうに言葉を渋らせる日高君。すっきりはしたけど、日高君に負担かけることになっちゃったかも......。

 こっちも申し訳ない気持ちになっちゃうよ......。


「あの......」

「あー、あんま重く考えなくていいからな。好かれて嬉しくない奴なんていないし......」

「でも......」

「まあほら、俺には千弦が居るから、結羽歌の気持ちに頷くことは出来ないな」

「......だよね」


 今の言葉で、私は完全に振られてしまった。でも、決して後悔はしていない。言いたいことが言えて、返事も貰えて、気持ちは満足していた。

 あとは、ちゃんと日高君と話して、今後どうするか、はっきりさせないといけない、かな。


「なあ結羽歌、座りながらゆっくり話さないか? 二次会には少し遅れるって連絡しておくからさ」

「あ......。うん、そうだね......」


 日高君に連れられて、近くの公園のベンチで話すことになった。


 ・・・・・・・・・


 近くの自販機でジュースを買ってもらって、ベンチに腰掛けながら2人で言葉を交わした。

 少し距離を感じたけど、今まで楽しかったこととか、辛い想いをしたこと、一度全部話しちゃったら、気持ちが軽くなる気がした。


「去年、ドライブ誘ってくれたよな? サークルとか関係無しに」

「うん......」

「あの時、一瞬そうなんじゃないか、って思ったんだよ」

「......」


 やっぱり私、わかりやすかったんだ......。そうだよね、普段積極性が全く無いくせに、好きな人には自分に正直だったんだから、怪しまれても仕方無い......よね。


「勿論嬉しかったし、いつその日が来るのか楽しみにはしていた。勘違いならそれでいいって思って、普通に千弦と仲良くしてたけど......」

「......?」


 一瞬言葉が詰まる日高君に対し首を傾げたけど、その後私がしたことを考えると、疑問が確信に変わっても仕方が無いように思えた。


「結羽歌が授業来れなくなってた時期あったし、軽音部を辞めたって話も聞いて、原因は少なからず俺にあるんじゃないか、って思ったんだよ」

「......ごめん」

「いや、謝らなくていいって。結羽歌は何も悪くないんだし」

「......」


 膝の上で拳を固く握り、自分に対する怒りを抑えるのに必死だった。

 沢山の人に迷惑掛けたし、心配もされた。それなのに日高君はこんなにも優しくて、自分が情けなくなってしまう。


「俺もさ、結羽歌の気持ちにほとんど気づいてたけど、現実逃避してたから」

「......それって、どういうこと......?」

「千弦と付き合うのは楽しいし、別れるつもりなんて全くない。でも、その気持ちが結羽歌を傷つけてる、なんて思いたくなかったんだよ」

「日高君......」


 私は、日高君が今まで私の気持ちに全く気づいていないと思ってた。だけど、違った。

 日高君自身が、私を傷つけてることを、認めたくなかったんだ......。


「ほら、こういう類いの話ってさ、気づいててもなかなか本人には言えないだろ? 本当は思いきって、もっと早くから結羽歌に聞いておくべきだったかもな」


 日高君はそう言いながら、少し遠くの方を眺めていた。もうすぐ日が暮れる。オレンジ色の空が紫色に変わりつつあって、辺りには街灯が付いている。


「人間関係って......、難しいね」


 私に言えることはこれくらいだった。日高君の本音は、これで全部のはずだし、私も日高君も、お互いに対する気持ちを難しく考えすぎていた......。


「そうだな。本当に、どうしてこんなにも面倒で......大切にしなきゃいけないものなんだろうな」


 そう言って日高君は立ち上がり、私に視線を向ける。


「そろそろ行こっか、みんなを待たせるわけにはいかないからさ」

「うん......!」


 日高君に続いて私もベンチから離れ、利華先輩の家へと足を運んでいった。


 こうして、私の長くて面倒な恋は、終わりを迎えることができた。

 叶わない恋だったけど、不思議と力をくれた気がしたし、本音を話すことで身体も軽くなった。


 日高君、今までありがとう。そして、これからもよろしくね......!

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