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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第32章
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ドライブ、求めていた展開

 ◈◈◈


 と、とうとう助手席に日高君が来ちゃったよぅ......。

 緊張する......、だけど琴実ちゃんが折角ここまでしてくれたんだから、何も話さないなんてことは、絶対ダメだよ......。

 そもそも、去年日高君達とドライブするって約束したのは私自身なんだし、今更怖がってたら、変に思われちゃう......!


「よろしくな、結羽歌」

「は......はいっ!」


 シートベルトを締め終えたら車を発進させて、予定していた場所へと走らせる。気を紛らわせようとナビのBluetoothで音楽を流しているけど、あんまり効果はないかな......? やっぱり、特別に感じている人の隣で運転するのは、難しいかな......。

 後ろの利華先輩は、暫く喋らない私を心配しているのか、運転席と助手席の間から顔を覗かせていた。ハンドルを握る手は機械のように固くなってるし、何より私自身も固まっている。運転に集中出来てないと事故に繋がっちゃうから、しっかりしないといけないのに......。

 そんなとき......、


「今更言うのもアレだけどさ、ありがとな、結羽歌」


 不意に日高君が話しかけてくれた。


「日高君......?」

「去年の約束のこともあるし、いつか必ず結羽歌とはドライブしないといけないって思ってたからさ」

「いやでもあれは......、その場の勢いみたいな感じで......」

「何言ってんだよ、俺は誘われてから結構楽しみにしてたけどな」

「......」


 勢いで言ったのは事実。だけど、日高君と一緒にドライブしたいって気持ちも、事実でしかない。

 あの時はまだ、日高君が千弦ちゃんと付き合っていること、知らなかったし......、私だって言いたいことははっきり言えるんだってこと、日高君に分かってもらいたかった。

 1年近く前の約束でも、果たしたいって気持ちが2人にはあったから、日高君はこうして私にお礼を言えた......ってことかな......。


「ご、ごめんね。なんか、あんまり運転上手じゃなくて......」

「そんなことないぞ、俺なんて本来なら親から車引き取れるはずだったのに、2回くらい事故起こしそうになって『お前に運転は向いてない』って言われる始末だからな」

「それって、日高君のお父さんから言われたの?」

「ああ、そうだよ。お陰で暫くハンドルには触りたくないね。このままだと将来が不安だな」

「......ふふっ、なんかおかしい......」


 さっきから動揺しまくりで、運転と会話が上手く出来ていない。流れがころころ変わっているように感じられるし、ハンドルの動きだってぎこちない。

 だけど、ほんのちょっとでも日高君と話を繋げることが出来て、少し心が軽くなった気がする......。胸の中のモヤモヤが取れて、次は私から話題を振らないと、って思えるようになった。


「そ、そう言えば、日高君は、ギターの方どうなってるの......?」


 1週間前、久しぶりにバンドを組むことになって、メンバーを一通り集めることが出来た。本格的な練習はゴールデンウィークが明けてからになりそうだけど、個人練習の期間中、日高君はどこまで出来るようになったのかな......?

 なんて思っても、6日前に見た日高君の演奏......。楽器は違うけど、始めたばかりの頃の私と比べても......。心配な部分が沢山あった。


 同じ弦楽器同士、意気投合しないとちゃんとした音は作れないし、バッキングだって弾くのは簡単かもしれないけど、みんなと合わせるのはリードより難しい......はず。

 音楽の世界は決して甘くないし、そんな厳しい世界に入った日高君は、どんな気持ちでギターと向き合っているんだろう......。


「あー、ギターの方ね......」


 少し、日高君の声が小さくなったように感じた。やっぱり、慣れないことに苦戦しているのかな......?


「色々調べながら弾いてるけど、コードとかはさっぱりだな~。ああいうのって、全部頭で覚えるよりかは身体を慣らした方がいいのか、って思い始めてさ、基本的な技の解説動画を見たりしてる」

「そ、そうなんだ......。あとは、やっぱり、響先輩に見てもらうとか、した方がいいんじゃないかな......?」


 私も、最初の内は先輩に見てもらってはいた。教えてくれる先輩が意地悪な人だったから、その後はほとんど自力で頑張ったけど......。


「やっぱり先輩に頼るのが1番良いよな~。もう少し弾けるようになった響先輩にみてもらうつもり」

「そっか......、早く一緒にライブ出来るの、楽しみにしてるよ......!」

「おう、俺も楽しみにしてるぞ」


 何気ない日高君の優しさに、私はまた救われた。緊張で固くなっていた身体がいつの間にか軽くなって、ハンドル操作もスムーズに出来るようになっていた。


 日高君と話しながら、車を走らせることが、こんなに楽しいことだったなんて......。ずっとこんな時間が続けばいいのにな、なんて思ったけど、夢はいつか溶けるもの......。

 溶けてしまう前に、''楽しかった'' 、''幸せだった''って思える時間を、作っていきたいな。

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