ドライブ、席替えの確率
「そう言えば、お昼はどこで食べるとか決めてる?」
車を走らせて1時間弱、そろそろお腹が空いてくる時間になってきた。結羽歌からはどこで食べるのかは聞いているけど、特に他の部員には聞かせていないみたいね。
後部席で利華先輩が質問してきたから、結羽歌もそれに答える。
「は、はい。あと30分くらいしたら、着くので......」
「そっか、ご飯の予定とかも琴実が考えたのかな?」
「あ、えっと......」
ご飯の予定......ね。一応2人で話し合って決めたから、他の部員の希望に添うかはわからないかしらね。
でも、こういう催しの企画を担当したからには、途中で下車する場所の把握くらいはしておかないといけないわね。道の駅とか行って、アイスだって食べてみたいし......。
「そんな所です。考えたのは私だけじゃなくて、結羽歌とも一緒に......」
一緒に考えたわよ。サークルのためにも、結羽歌自身のためにも。後ろで静司先輩の車も続いているけど、向こうではどんな会話が繰り広げられているのかしらね。
日高と千弦は一緒だし、2人で暑苦しい愛でも語り合ってたりするのかしらね。結羽歌の気持ちも知らないで。
「そっかそっか、今年の後輩は優秀なこばかりだね~。サークルの今後に希望が見えてきたよ~!」
フロントミラーから見える利華先輩の表情は嬉しそうだった。この人は軽音部を辞めてから音同に移ったのか、それとも最初から音同部員だったのかは分からない。だけど、4年生になっても幽霊部員にはならなかった。
部員としてどのような活動をしてきたのか詳しくは分からないけど、このサークルを自分の拠り所にしていることくらいは分かる。
私も、1年か2年後には、サークルを動かす人になれるのかしらね。いや、なってみせたい。企画が通ったんだから、私もサークルの原動力になれる自信がついた。
「優秀になるには、もっとサークルの詳しいこと、知っておく必要がありそうですけどね」
後ろは振り向かず、フロントミラーに映る利華先輩に向けて返事をしていた。
結羽歌は相変わらず真剣に運転しているけど、もう少し速度上げてもいいんじゃないかしらね。
・・・・・・・・・
予定の30分より10分ほど遅く目的地に辿り着いた。相変わらず安全運転第1な結羽歌のことだから遅くなることは想定出来ていたけど、ね。
でも結羽歌は満足そうだった。事故も無く、サークル内での初めての重役を果たせていることが嬉しいのね。
事前に結羽歌と話し合い、昼食に決めた場所は蕎麦や丼物の定食屋になった。値段もお手頃だし、大学生が集団で食べに行く場所に相応しいと思ったから、というのが理由よ。
駐車場に車を停め、全員が降りたことを確認したら中に入り、それぞれ食べたいものを注文していった。その間も部員に不満の表情は見えなくて、安心すると共に達成感も得ていた。
誰かに貢献出来るのって、こんなにも楽しいことなのね。今まで何もしてこなかったことが情けなく思えてくるわよ......。
「琴実ー。こんな美味しい店紹介してくれてありがとね」
「いや、私もここ来るの初めてですし......」
不意に利華先輩が箸を動かしながら私に感謝してきたけど、そこまで言われる程のことはしていないわよ、全く......。
「初めてでも、ちゃんとググってここまで来たんでしょ? うちらは結構計画立てないで行き当たりばったりばかりだからさ~、ホント有難いよ~」
「.........」
自分では大したことしたとは思ってなくても、他の人からしたら私の考えとは違った意味で捉えられているのかもしれないわね。
何はともあれ、先輩達含めた音同部員が満足してくれたなら、もっともっと企画を考えていこうかしらね。部員だって増やしていかないといけないんだし、何かきっかけが必要なはずよ。
全員が食べ終え、会計を済ませたら再び車に戻る。その前にやらなければいけないことがあって......、
「えっと、車の席替えをしようと思います。さっきの割り箸用意したので、引いて下さい!」
最後まで同じメンバーだと面白くないから、昼食を済ませたら運転者以外は席替えすることにしていた。結羽歌が日高と同じ車内になる確率ははっきり言って賭けだけど、何回か試せば数打ちゃ当たるってもんよ。
今回当たらなければ、どこか適当なタイミングでもう一度席替えすればいいんだから。
「......!」
全員が引き終え、私は祈るように結羽歌と日高の結果を確認したわけだけど......、
「えっと、静司先輩の車に千弦と私、結羽歌の車に利華先輩と、日高ね」
思わず言葉が詰まりそうになったけど、どうやら結羽歌の希望は叶ったようね。
あんたと違う車でドライブを楽しむことになるけど、私が居なくても、ちゃんと自分の力で頑張りなさいよね。




