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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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桂木、初心者の意地

 そろそろバンド内で何をするのか話し合う時期ではあるだろう。

 新入生ライブまであと1ヶ月と1週間、練習の打ち合わせや曲、決めなくてはならないことが沢山ある。


 それだというのに......。

 

 何が楽しくてあんなことをしているのか、俺には理解できない。

 今度こそバンドというものを嫌になってしまうかもしれない、バンドという概念が悪いわけではないのに。


 数少ない信じることができる奴らのことも、もしかしたら信じられなくなるかもしれない。

 そんなことになるのは、もう御免だ。



 

 5月13日


 夕飯を食べ終え、取りあえず部室に向かうことにする。

 バンドの予約が入ってなかったら適当に少しだけでもドラム叩いて満足したら帰るとするか。


 部室の前まで歩いていくと、微かにドラムの音が聞こえてきた。誰か個人で練習してるのだろうか、ここまで来たからには部室には入ることにするけど、待ち時間取られそうだったら帰るとしよう。

 部室に入ると練習しているのは桂木だった。こいつも頑張るよな、こんな環境下にいて色々不満とかあるだろうに。

 一通り叩き終えたのだろうか、一度スティックをスネアタムの上に置き、スマホで何かを確認している。

 ......こいつは俺がここにいることに気づいてないのだろうか。


「桂木」

「!!」


 声を掛けたらスマホに夢中だった奴の眼は俺の前に向けられた。

 やっぱり気づいてなかったか。


「お前もよく頑張るよな」

「そうかな? 俺初心者だし、他の人よりもっと練習しなきゃいけないかな。って思ってるだけだけど......」

「練習量なんて初心者も経験者も関係ねえよ、やる気があるかの問題だ」

「へえ......、やる気はあるかな」


 まあやる気がなかったら最初から練習なんてしないよな、もう一人の1年生ドラマーに至っては部会以外で会ったことがほとんどないし、そいつこそ名前忘れそうなのだが。


「なあ夏音......」


 桂木が俺からやや目を逸らして聞いてきた。


「なんだよ」

「この前の飲み会のことなんだけどさ......」


 こいつも何かを感じたんだろう、そうでないとこんなことは俺には言ってこない。

 一番最初に標的にされて、それを俺が止めようとして結局俺が飲まされることになった。


「俺があの時、榴次先輩の名前覚えてなかったから飲まされそうになって、それで夏音が止めに入ってくれてさ、ありがとうね」

「別に大したことじゃねえだろ、飲みたくない奴に飲ませようとしてる人を止めるのは当たり前のことだろ」

「でも......」


 島野榴次(しまのりゅうじ)先輩、2年生のドラマーの先輩なわけだけど、桂木はその榴次先輩の名前がわからなくて、兼斗先輩に罰として焼酎をストレートで飲まされかけた。

 結果として俺が止めに入って返り討ちに遭ったのだ、その後意識を失ったのだが桂木はそれを自分のせいだと思い込んでるようだ。


「今後あんなことされたくなかったら先輩の名前はちゃんと覚えたほうがいいかもな」

「うん、ごめん」

「別に謝るようなことじゃねえだろ、少しの失敗であそこまでさせる兼斗先輩が間違ってるんだからさ」

「でも夏音が......」

「お前って結構面倒くさいな、気にすることないだろ」

「そう、なのかな」


 自分のせいで俺が飲まされた。

 責任感が強い奴はそう思うのかもしれないけど、俺はそんなの気にしない。限度を考えないで平気で人の嫌がることをする奴が一番悪いのだから。


「それよりお前のドラム俺に見せてくれ」

「うん」


 桂木はスティックを持ち直し、ドラムを叩きだした。

 初心者とは言え相当練習をしていたんだろうなと思う。ある程度簡単な曲なら完コピくらい余裕とも言えるし、日曜日の集まりの時もそれなりに叩き方に工夫がされてたし、技術も決して低くない。

 この前の集まりで配られた楽譜よりもやや難易度が高いくらいだけど、そこも迷うことなく叩けていた。

 そしてもう一つ、あることに気づく。


「この曲、LoMのやつだろ」


 Land of Mystery、通称LoM。

 俺がドラムを始めることになったきっかけとなったバンド......、桂木が今叩いているのはそのバンドの曲だったのだ。


「そうだよ、やっぱり経験者はすぐ気づくんだね」

「まあな、俺も練習してたし」

「そうなんだ」

「お前もLoM好きなんだな」

「そうだね、何回かライブ行ったことあるよ」

「そうなのか、てことはこの前のツアーも行ったのか?」

「行ったよ。俺の実家、緑宴(りょくえん)市にあるんだけど、ついこの前の行ってきたし」


 緑宴市は俺の実家がある街だけど、こいつもなのか。

 多分高校違うよな、あそこも鳴成市ほどじゃないけど割と栄えてる方だし、周辺に幾つか高校があったし。


 高校の卒業ライブの日にLoMのライブが近くであったのは覚えてる。

 卒業ライブは昼間にやったからそれが終わった後には行けるはずだったんだけどな。


「ああ俺それ行こうと思ったんだけど、チケット取れなかったんだよな」

「へえ、じゃあ夏音は実家そこらへんなのかな」

「まあそうだな」

「それじゃあどこかですれ違ってたかもね」


 あまり昔の事は思い出したくはない。

 それのせいで一度ドラムを辞め、LoMのことまで忘れてしまおうと思ったくらいだ。

 まあ桂木になら、好きなバンドのライブの話くらいしても特に問題ないか。


「お前のドラム、完成するの楽しみにしてるからな」

「ありがとう、頑張るよ」


 そう言って桂木はまたさっきの曲の途中を叩き始めた。この曲、アンコールの時に歌うことで有名なやつだろ、なかなかセンスあるなこいつ。


 暫くすると扉が開いて浩矢先輩を先頭にベーシスト達が部室に入ってきた。

 まさかとは思うけど、今からギタリストとかドラマー同様ベーシストも似たようなことを始めるというのだろうか、今は19時だからそこまで時間がないとは言えないけど。


「これからベーシストの集まりあるからお前ら手止めろ」


 浩矢先輩が俺と桂木にそう言い放った。


「は、はい! すみません」


 謝るようなことではないと思うが、このままだとまた嫌味を言われそうだから俺もすぐに退散した。

 ギタリストは人数が多く、ドラマーは作業量が多い。それに比べてベーシストは人数も程よく、やることも演奏とアンプの扱い方以外は特にない。それならあんな時間に始めても文句は言えない、飲み会さえなければな。


 次の日、結羽歌はなんとか一限の授業には出席したものの、授業中ずっと睡魔と闘っていて結局最後には無事敗北していた。

 何があってそうなったかは、昨日の経験から簡単に察することができた。

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