ドライブ、企画者と先輩
結局私は、結羽歌の車に乗ることになった。運は良かったのかしらね。
「私は.....っと! 結羽歌の車だね、よろしく~」
割り箸を見つめながらこっちに向かってきたのは利華先輩だった。音同で唯一活動が出来ているバンド、LAST EMERGENCYのギターボーカル担当......。
音同の先輩達との関係......、軽音部の時に響先輩と少し言葉を交わした程度だし、後輩の私が先輩に怖じ気づいてどうする、ここは音同で軽音部なんかとは全然違うのだから。
「よ、よろしくお願いします......!」
緊張しながらも先輩に挨拶をする結羽歌。目線が下がっていて相変わらずだけど、これから長時間運転するんだから無理も無いかしらね。
「あー、利華先輩。一応結羽歌、まともに運転するの今日が初めてなので、その......」
あ、やばいわね。次に出てくる言葉がなかなか出てこない......。去年軽音で脅されたこともあってか、先輩とどうやって話せば良いのか分かんなくなってきているわね......。
普段は同期としか話していないのだし、年上の人に苦手意識を持つのは仕方無いかもしれないけど、企画者がこんなんじゃダメよ......。
「琴実も肩の力抜きなよ」
「えっ......?」
言葉に戸惑っていると利華先輩の手が私の頭に置かれ、緊張の糸が解ける。
「ドライブ、企画してくれてありがとね。うちのサークル部員少ないからさ、休日にどこか行くなんてこと、なかなか無かったんだ」
「そ、そうだったんですね」
「もしかしたら今後、琴実はサークルの在り方を大きく変えてくれるかもね」
「......」
サークルの在り方......って一体何なのかしらね。幽霊部員ばかりで満足のいく活動はそんなに出来ていない。
だけど、今年は部員が増えて、バンドだって一つ結成された。音楽以外にも打ち込めることがこのサークルにあるのなら......。
「べ、別にそういうのを狙って企画したわけじゃないんですから......! 今回はただ......」
素直に『頑張ります』って言わなきゃいけない場面なのに、恥ずかしくなってしまった。私はいつもこうなのよ、言いたいことをはっきり言えなくて、時間が経ってから後悔する......。
「ふふっ、詳しい話はまた車の中で、結羽歌も入れて3人でガールズトークしようね」
「は......、はい......」
「そう言えば席どうする? 私か琴実のどっちか助手席に乗った方がいいよね?」
「えっと......」
「琴実が選んでもいいけど、もし迷ってる感じだったら、私が先に乗っちゃうけどいい?」
「い、いえ! 私結羽歌が少し心配なんで、助手席乗ります......!」
「そっか、結羽歌のサポート頼んだよ」
そう良いながら後ろの扉を開け、席に乗り込む利華先輩。私も後に続き、助手席に乗る。
「あ、琴実ちゃん助手席なんだ。色々、よろしくね」
「ちゃんと安全運転するのよ。いや、あんたは逆に安全過ぎて危なっかしいくらいね」
結羽歌とならこうしてまともに話せるのに、ね。後ろの利華先輩は、今の私と結羽歌の会話を聞いて、どう思ったかしらね......。同じ部員なのに距離を感じられて、さっきみたいに優しくしてくれなくなったり......なんて。
「大丈夫、法定速度も、交通ルールも、ちゃんと復習してきたから......」
どうやら運転に関しては心配要らないみたいね。1番心配なのは、企画者である私が、ちゃんと部員を引っ張っていけるのか、よね。
「相変わらず真面目すぎるのよ、あんたは......」
「えっ? 琴実ちゃん、今なんか言った......?」
「別に、何も言ってないわよ」
思っていたことが口に出ていたみたいね。そんなことしている内に車は発進して、どう転ぶかも分からないイベントが幕を開けた。




