表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第32章
471/572

相談、リードギターとボーカル

 グラスを片手に戸惑っている様子の日高。周りは威勢良く乾杯をしていると言うのに、日高ただ1人が辺りを見回したままだった。

 無理もないか......。俺らより一年遅れながらも、本格的に音楽に触れることになったのは良いが、特にこれといった説明も無しに打ち上げ会場に連れられ、いかにも飲みサーの雰囲気を醸し出した環境にぶち込まれては、咄嗟の行動も思いつかないだろう。


「なあ音琶」

「ん? 何?」

「日高のとこ、行くぞ」

「え? うん......」


 音琶は既に話し相手を見つけていたようだが、誰とも話せていない日高を見ると察した様子で返事をしてくれた。

 これからバンドを組んでいく以上、ライブハウスだけでなく打ち上げの環境にだって慣れていかないといけない。負担を掛けないように上手くバランスを取りながら、日高の緊張を和らげるくらいのことはするつもりだ。


 少し離れた席だったが、生憎日高の両隣には誰も居なかったのですぐに座ることが出来た。普段は陽キャな日高だが、バンドマンという変人の集いには全く溶け込めていなかった。

 まあそうだよな、所詮バンドマンなんて陰キャが集まって陽キャになろうと努力して滑っている奴らばかりだしな。そんな滑っている奴らが悪い意味で意気投合してしまい、奇行に走るからこそ人の心を惹きつける曲が生まれるのだ。

 天才と奇人は紙一重という言葉があるが、それはまさに音楽家に相応しい言葉だ。才能を持っている奴にまともな要素なんてどこにも入ってないんだよ。


 ......日高は常識人だと思うし、いや、常識人だからこそ軽音部をすぐに辞めた。部会で配られた掟を見て、ヤバい場所だということを瞬時に察した。


「日高」

「あっ、滝上。どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、ここは打ち上げ会場だからな。誰とも話せてないお前の姿が見ていられないからこっちに来た」

「全く、別にそこまで俺に気遣わなくていいってのに」

「良くねえ。これからバンド組む奴がこんなことで良いわけがねえ」

「......だよな」


 一呼吸置いて、日高の表情が曇った。こいつのこんな暗い顔、今まで見たこと無かったのだが。


「まあ、そんなすぐ慣れろとは言わねえ。けど、行動を起こさないと何も始まらないから、まずは俺と音琶で話さないか?」

「......全く、本当に滝上は良い奴だよな」

「嫌味か?」

「全然」


 別に自分のことを良い奴だなんて思ってはいないが、陽キャにそんなこと言われるとは思ってもいなかった。


「あ、それでさ。ギターのことなんだけど」

「買ったのか?」

「いや......」


 まさかまた辞めるとか言い出すのだろうか。いや、流石にそれはないな、今回日高は自分の意思で音同に入ると言ったのだ。

 軽音部をすぐに辞めたのは賢いやり方だが、それでもこいつは責任を感じていた。同じ事を音同でも繰り返すわけにもいかないだろう。


「今日のライブ見て思ったんだけど、みんな凄すぎてさ......、まだまともに曲も弾けない奴がこんな所に居ていいのかって思ったんだよ」

「......なるほど」


 今の言葉に対して音琶も複雑な表情をしていた。確かに完全な初心者が上手い人に声を掛けるのは抵抗を感じることだし、ましてや開始数秒で酒がつぎ込まれているのだから、あまり飲まない日高にとっては居心地が悪いのだろう。


「ほら、上川がギタボだとしたら、俺の担当ってリードギター......とかいうやつだろ? 一応軽音のライブだって何回か見てたけどさ、どう見ても経験者に囲まれた初心者がやるような役じゃないと思うんだよな」

「......」


 メンバーが4人とも初心者だとしたら問題はないのだろう。だが、今回組んだバンドは初心者と経験者の比率が1:3なのだ。その中でリードギターともなれば、かなりのプレッシャーになる。大抵の曲は2サビ終わりのソロパートで上手く決めないと、曲のイメージを大きく損うことにもなる。

 そんな状況をさっきのライブで感じ取ったというのかこいつは。実力に関しては演奏を見ないと何とも判断出来ないが、ちゃんと周りは見れているのだな。


「それでまあ、ちょっと考えてることあってさ」

「あ、何だ?」


 リードが出来ないなら音琶と役を交代してくれ的なことだろうか。まあまだどんな曲をやるとか、どんな方向性でいくか話し合ってないし、不可能ではない話ではある。

 仮にそうだとして、音琶と結羽歌が了承するかに掛かっているが......、



「実は千弦も音同入りたいって言ってて、もしお前らが良いって言うんなら、ボーカルとしてメンバーに入れてくれたりしないかな?」



 ......そう来たか。

 確かに立川の奴も一時期軽音部に興味を寄せていたし、カラオケ行ったときには歌唱力の高さを目の当たりにした。

 だけどな、立川を入れたら人間関係が......なんて言ってる場合でもねえんだけどさ、全くどうしてこうも嫌な予感しかしない事態に追い込まれるのかね、いつもいつも。


 まあ、リードがきついのなら音琶にやらせて、日高はバッキングやればある程度は形になると思うし、そこに歌唱力の高い立川を入れたら質の高いバンドにはなれるだろう。

 だが、問題は結羽歌だ。日高は結羽歌が軽音部を辞めた理由を恐らく知らない。てか知ってたら立川の話にもならない。


 結羽歌も結羽歌なりに気持ちを切り替えて授業やサークルに臨んではいるが、日高に自分の想いを伝えてない。ましてや当の本人が気づいていないのだから余計に質が悪い。

 悪気がないのはわかってる。わかってるけど、100パー面倒なことにはなる。


 一瞬音琶の方に視線を寄せたが、明らかに同様している。だがここで本当のことを話すわけにもいかないし、それはそれで日高に申し訳がつかない。


「ま、まあそこは色々話し合わないといけないから、明日授業終わった後にでも部室に集まるか」


 今までの冷静さはどこへいってしまったのか。声が上ずりそうになりながらも一旦話を終えることに成功した。



 また本来の目的を見失いそうになるのか?

 いや、そんなことはない。人間関係は面倒だし、毎日が試練の連続だ。

 だけど、最後に見るべき景色が分かっている以上、ゴールに辿り着くまでの過程を大切にしていかないといけないのだ。


 ......どうにかして上手くやっていくしかないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ