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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第32章
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要素、超えるべき壁

 これから始まる予定のバンドが、どのように動いていけば響先輩達みたいになれるか考えることにした。

 サークルとしては目立っていないかもしれないが、市内での活動範囲はそれなりに広く、様々なライブハウスで彼らのことを知る人が居るらしい。

 最早音同は、響先輩達のバンド無しでは語れない要素が散りばめられているようだった。彼らが居なくなった後、サークルの存続は危ういかもしれないな。


「なあ、俺まだ響先輩達のバンド見たことないんだけど、結構凄いのか?」


 転換の時間に日高が話しかけてきた。いやお前な......、俺が今作業中だってことわかってんのか?


「自分の目で確かめろ」


 こっちだって忙しいのだから話すなら打ち上げの時にしてくれよ。転換って言うのも響先輩達のバンドに対してやってるわけだし、尚更適当に済ませるわけにもいかない。

 見るのは去年の12月以来だが、それまでの間どれほど実力を上げてきたのかわからない。だが、先輩達のことだから想像以上の出来を披露するに違いない。俺の目に狂いが無ければの話だけどな。


 一応と言ったら何だが、昨日集まったメンバーは全員XYLOに集まっていて、1番身近なバンドを参考にしていこうという話になっていた。

 勝負に負けた琴実も来てるし、自分が今後どうしたら結羽歌を超えることが出来るか見つけよう、という算段だろう。


 時間は押すことなく転換が終了し、機材の状態も良好、スムーズにライブが進んでいる。

 上手く行きすぎているからこそ圧が強く感じる人も居るだろうが、先輩達は余裕の表情を浮かべていた。ライブ慣れしていると感覚が麻痺していくのだろう、未だに緊張する癖がある時点で最高のバンドなんて見つかりそうもないな。


 一瞬の暗転からギターのサウンドが鳴り響き、響先輩達のバンド、LAST ENERGENCYの出番がスタートした。

 演奏している曲は以前聴いたLoMのコピーではなく、聴いたことのないものだった。俺の知らないバンドか、それともオリジナルか。どちらにせよ難易度の高い曲をやっていることは確かだった。


「......」


 圧倒的な実力に気圧されそうになるが、自分の仕事を思い出してライブを進めていく。音琶、結羽歌、琴実、そして日高には、それぞれ自分と同じパートの動きを見て欲しい所だが、このライブを通して自分に足りないモノが何か見つけられるだろうか。

 まだスタジオにすら入ってないけども、最初の全体練習では経験の差が大きく現れるはずだ。ではそこで現れる『差』をどのようにして埋めていけばいいのかが問題だが、やはりそういうのは上手い人の演奏を参考にする以外に他は無いだろう。

 ましてや今の状態でオリジナルなんて夢のまた夢だ。何とか1年以内で2曲程度完成出来ればいいのだが、音琶のことを考えると難しい問題になってしまう。


「最低でも、あの人達は超えないと意味無いよな」


 ステージの奥で繰り広げられる演奏には隙が無かった。楽しそうに演奏出来ているし、ミスだって無い。明らかに軽音部で見たものとは違っていた。


 第一俺の演奏がまだ音琶の理想に届いていないのだし、去年の3月に音琶が出会った俺のドラムを取り戻さないと意味が無い。

 日高だってメンバーで唯一初心者なわけだし、ギターに慣れるまでは大幅な時間を掛けることになるだろう。まあそこは音琶に教えてもらいながら技術を磨いてけばいいと思うが、あいつに人を教える力があるのかね。


 結羽歌に関しても人間関係に不安要素が残る。直接本人から深い話をしたわけではないが、日高と立川の関係があるから、バンド内で拗れる可能性は決して低くない。

 ましてや昨日の勝負で日高は琴実が適任だと判断していたわけだし、結羽歌の心情がやや複雑になっているのは明確だ。


「......結局ここでも悩むことになるのかね」


 人間関係は面倒だ。19年生きてきて数え切れない程感じたことだ。

 だけど、そんなこと百も承知で音同に入ったのだから、今度こそここで上手くいけるように努力してやる。守りたい人だって出来たのだし、こんな半端な所で願いを諦めるわけにもいかないのだ。


 ・・・・・・・・・


 勝手に人間関係を分析しながら卓を操作していたら、いつの間にかライブが終わっていた。一応響先輩達の演奏は目に焼き付けたし、今後の対策だって考えはした。

 まあ、大事な話は打ち上げでするつもりだったし、日高にもライブハウスというものをどのように感じたか聞こうと思っていたからな。


「なあ滝上、打ち上げって何時までやんの?」

「その日によって前後するけど、大体11時(23時)くらいまでだな」

「うわまじかー。帰ったらすぐ寝よっと」

「一次会の間だけでも色々な人と話しとけよ」

「お、おう......」


 ライブハウスがどんな所なのか、日高はある程度理解しているだろうか。明日は授業だから一次会で上がらせてもらうけど、次の日が休日とかだったら朝までコースもあるから覚悟しとけよ。


 作業着から私服に着替え終わり、打ち上げ会場へと向かう御一行。日高はと言うと1番後ろで様子を窺うように付いていた。

 こいつ陽キャの癖してこう言うノリ苦手な方だよな。そういや高校の時は運動系の部活入ってたって言ってたし、先輩達との間で何かがあったのかもしれないな。

 でもまあ、音同に関しては悪ノリは今のところ無いし、日高自身にも辞める気配がないのだから、少しずつ時間を掛けて慣れていけばいい。


 歩いて約10分、目的の打ち上げ会場に辿り着いた。俺を含めた新入部員5人が、バンドにとって大切な何かを得て帰ることが出来るよう、健闘を祈るとするか。

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