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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
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結羽歌vs琴実、自分を信じて

 序盤が肝心......、親指の動きを統一して、余計なことは一切考えない......。


 曲が始まるまでの数秒間でフォームを整え、フゥッと息を吐き、少しでも緊張感を減らしていく。

 さっきまで琴実ちゃんが上々の演奏をしていたんだから、私はそれを超えなければならない。自分の演奏も意識しないといけないけど、少しだけでも琴実ちゃんの動作を思い出しておかないと、自分に何が足りていないか見つけることは出来ない。

 自分に出来ている部分を極めるのも大事だけど、出来ていない部分をどうやって乗り越えればいいかを考えないと、いつまで経っても良いバンドなんか、組めないよね......?


「......よし!」


 意を決して、指を弦に当てる。親指からスラップ音を鳴らし、イントロの終わりまで同じリズムを続けていく。

 指の動きはほとんど繰り返しだけど、それでも充分難しい。始めたての頃の私だったら、絶対に弾けないフレーズだったし、多少慣れてきたとしても指の皮が剥けて絆創膏だらけになっていたに違いない。

 それでも、琴実ちゃんとの勝負が決まってから......ううん、それよりも前からずっと、欠かすことなく弾き続けていた。

 軽音部を辞めた時、何もかもが嫌になりそうになったし、人間関係でも悩み続けた。辛い事なんて無くなっちゃえばいいのになんて思いながら毎日を過ごしていた。


 でも、ベースを手放すことはなかった。

 何も無かった私に、希望をくれたから。


 それに、サークルを去っても琴実ちゃんは私を見捨てたりなんかしなかった。失敗はしたけど、最後までサークルから私を取り戻そうと必死になっていたし、先輩達と違って、最初から居なかった様な扱いもしなかった。

 学祭の時のことを、私は決して忘れることはない。周りに誰が居ても気にせず、私への想いを真っ直ぐに教えてくれた。

 必ずどこかに希望はある。だからこうして、琴実ちゃんと本気でぶつかることが出来ている。


「......っ!」


 何とかしてイントロを弾き切り、一サビの最後までは単純なフレーズが続く。自分の得意分野だし、ここは冷静に、心を落ち着かせながら人差し指と中指を交互に動かして......。

 うん、大丈夫。調子は悪くないどころか、今までに無いくらい身体が動いている。簡単なフレーズは弾けて当然だけど、ただ弾けるだけじゃ意味が無い。弾きながら音程を整えたり、コンマ1秒のズレが無いように集中しないといけない。それに、自信のある部分だからという理由で演奏が走る人だって居るんだし、油断は出来ない。

 数分前の琴実ちゃんを思い出す。琴実ちゃんは、身体の動きが軽快だった。見ている側からしても、非の打ち所が無くて、簡単に弾けているように感じられた。私はそんな演奏が出来てるかな......?


 数秒しか経ってないのに、考え事をすると時間が長く感じられる。その間も指は動いていたし、音ズレは発生していない。

 鏡を見ていることを想定して、自分の演奏とさっきまでの琴実ちゃんの演奏を比較する。今の手の動きだったら、どういった所に差があるのか、右腕の高さはどれくらいだったか、左手の移動速度は......、


 ......大丈夫、大丈夫。上手くやれてる。単音弾きは正確だし、気持ちに余裕も出てきた。

 むしろ本番は次から......。2サビが終わった後のギターソロの部分......。転調もそうだけど、3秒くらいギターの音が無くなって、ベースとドラムだけになる部分がある。そこのベースが私の中では1番難しくて、練習でもあまり上手く行ってなかった。

 琴実ちゃんはそんな部分も軽々と弾き切って、ラスサビからアウトロまで駆け抜けていった。アップダウンからの転調、どう考えても出来る方がおかしい......は流石に言いすぎかな。


 でも、そこが出来ないと勝負に勝てるとは思えないし、どんな難しいフレーズにも立ち向かわないと、いつまで経っても琴実ちゃんには勝てないし、実羽歌を楽しませることも......、きっと出来ない。


 果たしたい約束のために、勝ちたい人のためにも、自分の出せる力を最大限に出していくだけ......!


 もうすぐ、例の部分を弾くことになる。

 少し心臓が速くなったように感じたけど、身体の動きは順調かな。


 何よりも、まずは自分を信じなきゃ......! 私なら、絶対に琴実ちゃんに勝てる......!

 そう思ってなかったら、最初から私はここに居ないんだから......!

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