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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
462/572

意気、組んでからが本番

 4月24日


「何ぼーっとしてんのさ!? 大事な話してんのにさ!」


 気づけば1週間が経っていた。その間俺は何をしていたか、特に何も考えていなかった。スタジオ借りて多少の練習くらいしておけば良かったのに、オーナーから告げられた言葉のせいでガイダンス以外の事柄に集中出来てなかった。

 今週から授業が始まったわけだが、まだ1週目ということもあって、予定よりも早めに終わるものが多い。そのお陰もあってか、本来なら5限の最中であるにも関わらず、俺は部室で音琶達に囲まれていた。


「ああ、考え事してた」

「人が大事な話してんのに考え事!? しっかりしてよね!」

「......すまんな」


 音琶から軽く説教を受けたが、1週間ずっとオーナーの言葉を頭の中で思い返しているのが現状だ。俄には信じられない話ではないが、覚悟を決めて聞いたわけでもないし、予想とは異なる展開が広げられているのだから、動揺するのも無理はない。


「部会が始まる前に集まれたんだから、時間は大事にしないとだよ!」

「はいはい」


 時間は大事に、ね。

 音琶にどれくらいの時間が残されているのかは知らないが、限りある時間をどうにかしようと頑張っている奴が言うと説得力あるな。

 オーナーに告げられた真実も音琶に教えないといけないことだが、果たしてそれを音琶が生きている間に伝えることが出来るのだろうか。


 まずはバンドが結成されない限り何も始まらないけどな。


「スタジオは明日の夕方5時から2時間、その間に私達が組むバンドのベースが決まる。結羽歌か琴実、2人のどっちか」


 音琶の説明が始まり、2人のベーシストが息を呑むように頷く。


「審査員は私と夏音、そして日高君。3人のうち、票が多かった方がメンバーとして選ばれる。異論はないよね?」


 最終確認と共に音琶がその場に居る全員に質問を投げかける。誰一人首を横に振る者は居なかった。


「異論はないみたいだから、今のルールで明日を迎えるからね! 審査対象の2人は当日まで頑張って!」


 そう言って部会の時間までは自由行動となったが、果たして最高のバンドの第一歩として誰がベーシストになるのだろうか。

 そもそも結羽歌も琴実も、バンドの本質を理解しているのだろうか。音琶に隠された秘密、オーナーとの関係等々......、何故音琶がここまで必死になっているのか、疑問に思わないのだろうか。


 結局誰もがバンドを組むことに精一杯で、他の人の事情は考えてもいないだろう。結羽歌と琴実もベースを始めたときからライバル関係を築いているのだし、音琶の事情を知らずともバンドに対する意欲は強い。

 俺だって、音琶を守りたい、支えていきたい、最高のバンドを組みたいと思っているわけだし、少しでも長く音琶と共に過ごせる時間を大切にしていきたい。


 出会ってからは災難が続いているが、これもまた一興。必ず報われると信じている。


「夏音!」


 一旦立ち上がり、パイプ椅子から離れる。荷物を部室の端に置こうとしたその時、音琶から一際元気な声が聞こえてきた。


「どうした」

「いよいよ近づくんだよ! 私達のやりたかったことにね!」


 出逢った頃と何も変わらない無邪気な笑顔を振りまく音琶。本当にこいつは、もう少しで死ぬのだろうか。話を聞いた時から何かの間違いとしか思えない。


「......何言ってんだよ。組んでからが本番だろ」


 組む前から満足されては困る。

 この旅は、音琶にとって最期の思い出になるのかもしれないんだからな。

 中途半端な気持ちで挑むつもりは毛頭無い。

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