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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
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オーナー、音琶のことをどこまで知ってるか

 4月18日


 部会は部会でも意味のある時間だったと思う。サークルでのルールがいい加減な感じになっているのは否定出来ないが、やる気のある奴はちゃんと部会に出席しているし、バンドを組む話になると積極的に入ってくる。

 部員のやる気に関しては頭を抱える必要は無さそうだ。あとはサークルでのイベントや、活動していくに当たって何をしていくのかを考えていくべきだな。


 そんな中、バイトの土曜日を迎える。因みに、音同に歓迎ライブなるものは存在しない。やるならもっと部員を集めないと実現しない話だからである。


「オーナー、ちょっといいですか?」

「ん、どうした?」

「スタジオ予約の件なんですけど......」


 束の間の休憩時間、オーナーに話を持ちかけていた。一応この人は俺が音同に入ったことは知っているが、特に大きく言及することはなかった。

 3年以上前から音琶と関わっているのだから、和琶の話だって知っているはずだ。音琶とほぼ同じタイミングでサークルを辞め、別のサークルに入るだなんて不自然にも程があるしな。

 和琶がどういった経緯で死んだのか、詳しくは音琶も良く分かってないみたいだし、ある程度事情を知っているはずのオーナーでも断片的な情報しか耳に入ってないだろう。


 様々な事情を抱えてまず最初にするべきこと。それは2人のベーシストの件だった。


「何? 結羽歌と琴実が勝負?」

「はい、一応俺もどっちがバンドに相応しいか見ておかないといけないので」

「なるほどねえ......」


 やや呆れ気味のオーナーだったが、部員の少ない音同に入ったのだ。軽音部とシステムが異なる以上、人間関係が熾烈になるのは覚悟の上だ。


「別に良いけど、あんたからそんな言葉が出てくるなんてね」

「......どういうことですか?」

「今日、打ち上げ参加するよね?」

「質問の答えになってませんけど」

「まあまあ、詳しい話はライブ後にって言うでしょ?」


 言わねえよそんな話。

 とは言えず、黙って頷いていた。まあいいけど、オーナーからも重要な話聞けるのなら、打ち上げの時間までは仕事に集中しておくか。


 ・・・・・・・・・


「......それで、無事に打ち上げの時間になりましたけど。まだ話さないんですか? その詳しい話とやらは」

「あー、ごめんごめん。これでも音頭を取るのは大変なんだよ?」


 今日も酒は飲んでない。てことはまた運転当番なのか。

 何だかんだでこの人も大変だよな。ほぼ毎日スタジオの予約は入っているし、週末にはライブだってある。休んでる暇なんてないよな......?

 ま、自由な時間が与えられている学生があれこれ言う話ではないけどな。


「それくらい、見てればわかります。まずは本題に入って貰わないと帰りたくても帰れないんで」

「......そしたら、一旦外出るよ」

「......はい?」


 何故打ち上げの時間にライブハウスの外に出ないといけないのか。

 理由なんて簡単だ。誰一人にも聞かれたくない話をするからに決まっている。


「ごめーん! ちょっと夏音がシフトの件で話したいことあるみたいだから、10分くらい席外すねー!」


 飲み会が繰り広げられている中、オーナーが全員の注目を集めて席を外す。音琶だって居るのに、こんなことしたらまた質問攻めに遭う羽目になるだろうが。

 俺の心配なんて目もくれず、オーナーは『ついてこい』とばかりに出口へと向かっていった。



 仕方無く外に出る俺。オーナーは暫く後ろを向いたままだったが、まるで意を決したかのように振り返り、俺に問う。


「音同は......、楽しい?」

「......別に、まだ入ったばかりですし、楽しいかどうかなんてバンド組んでからじゃないとわからないと思います」

「......そっか」


 どこか嬉しそうに見えるが、この人が何を思ってこんなことを言っているのかいまいち掴めない。


「音琶の話は......、どこまで聞いたの?」


 突然何を言い出すのかと思ったらこれか。生憎音琶の真実は全て知っているから、あんたから説明があっても今更感が否めねえよ。


「......もう、全部聞きました」

「でも、新しいバンド組むんでしょ?」

「組みますよ。手遅れになる前にやらなきゃいけないことって、生きてれば誰でも何回かは経験するものです」

「......」


 そのためにスタジオ予約の話だって持ちかけた。機材が充実している所の方があいつらだってやりやすいはずだし、俺や音琶だって音の判別が容易に出来る。

 だというのに、オーナーは何に引っかかっているのだろうか。


「夏音、しっかり聞いて」

「は、はい......?」


 両手で俺の肩を掴み、真剣な表情で俺に告げるオーナー。何をそんなに改まっているのかと思ったが、人の命に関わる話をしているのだ。数年の付き合いである音琶がもうすぐ死んでしまうかもしれないと思うと込み入るのも無理はない。


「あのこね......、きっと夏音と出会ってなかったら、去年の段階で本当に死んでたよ」

「......突然何を言い出すんですか? 第一なんでオーナーがそんな話まで......」


 和琶とも間違いなく親交があったオーナーだが、病気のことまで詳しく知っている理由は何なのか。


「音琶がここに戻ってきた時ね、初めて会った時よりも顔色が良くなっていた。最初は自分がそんなに長くないことに怯えているように見えたんだよ。だけど、夏音に出会ってからの音琶はまるで今までの表情が嘘のように晴れていた」


 何言ってんだこの人......。顔色で判別できることなのか?

 確かに人は目を見れば考えていることが分かるって言うけど、音琶がバイトを辞めていた期間はかなり空いているはずだ。たかが顔色で命の灯が分かるものなのか?

 俺にはわからない。


「すいません......、俺にはオーナーの話がよくわからないです」

「ま、そう思われても仕方無いよね」


 一度大きく息を吸い、吐き出すオーナーだが、恐らく音琶も知らない事実がすぐ側に......。



「私ね、義理だけど音琶の母親だから」



 オーナーの言葉で、12月25日に告げた真実が思い返された。

 腹違いの兄、浮気した父親、顔を見ただけで判別できる命の灯......。


 義理でも家族、大切にしたい人が居る限り、立ち位置は隠していたとしても、血は繋がっていなくても、自分の子供は何よりも大事......。


 音琶の口からこの話が出てこなかったということは、間違いなくあいつは気づいていない。知らされていない。



 どうやら、音琶の真実はまだまだ秘密が隠されてそうだな。

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