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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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本性、遂に出たか

 ***


 飲み会の基本、まずは後輩が先輩に酒をつぐ。

 年上の者から飲み物が渡っていき、俺ら1年は最後につがれる。

 いきなり1年生が酒を飲む、というのには抵抗がある人も勿論いるだろうけど、この場の1年生全員はソフトドリンクを選んだ。

 

「飲み物全員に渡ったな、それじゃあ乾杯するぞ」


 紙コップを片手に、乾杯の用意をする。


「乾杯!!」


 そしてコップを突き上げ、乾杯をする。

 こういう礼儀とか作法も採点に含まれてるのだろうか、だとしたら頭に入れておく必要がありそうだけど。

 テーブル上には大きな土鍋、肉のパックが数個、切られた野菜、鍋のスープの素、そして焼酎やワインの瓶達。


 兼斗先輩が奢ってくれたおかげで今日の晩飯代が浮いたのは有難いし、こんな大人数で食事をすることが初めてで、音琶も一緒だ。

 表情には出せないけど、全く嬉しくないという訳ではない、少しくらい先輩に感謝した方がいいのだろうか。


「よーし、まずは野菜入れるぞ」


 キムチペーストのスープの中に白菜やニラが大量に投入されていく。折角だから沢山もらっておくか、野菜にスープが染み渡ったら取り出そう。

 鍋はしたことないけど、野菜の食べ頃のタイミングとか、肉や豆腐の入れる時間とかは長年の料理経験からある程度は把握できる。


「おいしそー」


 さっきから音琶が鍋の中を覗き込んでは目を輝かせている。まだ入れたばっかだってのにこいつは食欲旺盛だな、こいつと会うときはいつも何か食べてる気がするし、今度からペコ○ーヌって呼んでやろうか?

 ある程度煮込めたら肉と豆腐を入れ、さらに煮込む。そして鍋の蓋を閉じ、蓋に開いてる気孔から湯気が出るのを待つ。


 その間兼斗先輩からは様々な質問をされた。

 ドラムを始めたばかりの頃だったり、高校の部活の話だったり、バンドは過去にどれくらい組んでただったり......。

 どれもこれも俺にとってはどうでもいい話だったが、一応先輩ということもあって全部正直に、とはいかずとも、ある程度は適当に答えた。

 音琶には聞かれたくなかったけど、桂木とか他の奴らと話してたから聞かれてはなさそうだった。


 ある程度話し込み、21時をまわろうとしている。

 鍋もほとんど食べ終わった頃、兼斗先輩があることを聞き出してきた。


「そういえばさ、さっきから気になってたんだけど、みんなお互いの名前覚えてる?」


 兼斗先輩はさっきからほぼ一人でビールだの焼酎だの結構飲んでるから、顔が赤くなってるし酔いもまわってるように見えた。


「「「......」」」


 1年生は兼斗先輩の眼を見ているのに、俺を含め誰も喋ろうとしない。


「お前ら......、まさかだよな?」


 いや、俺は全員の名前くらいわかるぞ、鈴乃先輩からは特に言われてないけど部員の名前は早い内に覚えておいた方がいいだろうし、これライブハウスだったら相当ヤバいことになる。


「......わかった、それじゃあみんながちゃんと名前わかってるか確かめるから」


 俺はともかく音琶とかは大丈夫なのだろうか、もし覚えてなかったらどうするつもりなのだろうか。


「それじゃあまず俺の名前わかるか? 分かる奴挙手!」


 全員が手を挙げた。

 まあこれだけ目立ってるんだし、分からない奴は今まで何を見てきたのか、と言いたくなる。


「それじゃあまず、俺から見て正面に座ってる人に答えてもらうか」


 兼斗先輩の正面に座ってる音琶に回答権が与えられる。さっき名前読んでたから大丈夫だよな?


「兼斗先輩、岩内兼斗先輩ですよね?」


 なぜか疑問形で答える音琶。自信無いのかよ、合ってるけどさ。


「ああそうだよ」


 どういうわけだか理解できないが、つまらなそうに返す兼斗先輩。そして次の問題が出される。


「それじゃあ俺の右隣にいる2年生のこいつ、わかるか? 俺の左隣のお前、答えろ」


 次の回答権は桂木に移った。

 因みにこの先輩、普段はあまり目立たないし、部室でも会うことが少ないから俺もあまり話したことがない。でも名前は流石にわかるからな。


「えっと......」


 桂木が言葉に詰まっている。いやいや、まさかだろお前。


「すみません......、わかりません」


 申し訳なさそうにしながら謝る桂木。

 まさかとは思ったけど本当に覚えてないとは、こいつチューニングの時も少し不安要素があったから心配になってきたぞ。


「そうか、なら仕方ないな」


 やや呆れ気味に兼斗先輩が呟き、床に置いていた焼酎の瓶を開けて新しい紙コップに注ぎだした。

 え、この人何するつもり。


「先輩の名前を覚えてなかった罰だ、飲め」


 さっき音琶が正解したときよりも楽しそうに言いながら、コップいっぱいのストレートの焼酎を桂木に突きだした。酔っ払い恐ろしい。


「え......?」


 桂木が戸惑っている。

 まあ無理もない、たかがと言ったらまずいかもしれないけど、何か失敗したからといってその代償として酒を飲むなんてどう考えてもおかしい。

 ライブハウスの飲み会でもこんな飲み方をするのかはわからないけど、だとしてもだ。


「あの、俺酒はまだ飲んだことないので......、せめてジュースにしてくれませんか?」


 その場の空気が凍り付いている。

 兼斗先輩は笑顔だけど、笑い方がいかにも悪人そのものだし、音琶に関してはまた俯いて考え事をしているみたいだ。流石にこれは止めた方がいいな、


「兼斗先輩、桂木......、いや、淳詩は飲みたくないって言ってます。確かに名前を覚えてなかったのはまずいことですけど、飲みたくない人に無理矢理飲ませるのは良くないと思います」


 言ってしまったが、別に間違ってるとは思わない。俺だって同じことされたら不愉快だし。


「夏音、お前は何か勘違いをしてないか?」

「何をですか」

「出会ってそれなりに経ってる人の名前を覚えてないってことがどれくらい失礼なのかわかるか? これが会社だったらどうするんだよ、お前は上司の名前を呼ばないで仕事を放棄するのか?」


 俺の言いたいことと兼斗先輩の言ってることに食い違いが生じてるんだけど、俺酒のことしか言ってないんだけど。

 あとサークルと会社は違うからな、何でもかんでも一緒にするなよ。


「まあいい、お前も飲め。逆らった罰だ」

「飲みません」

「なんでだよ!!」


 なんでだよ、はこっちの台詞なんだけど。

 それに俺酒弱いから無理だし。一度思い切ってビール買って飲んだことあるけど、たった一缶で身体が熱くなって頭がボーッとしたし。

 酔うってことがどういうものなのかわかったけど、そんなことの何が楽しいのか俺には理解できない。


「俺飲めないんで、ちょっとでもすぐ酔うんで」

「それなら飲めるようになるまで飲むことだな、ほら」


 そうして兼斗先輩は無理矢理俺の口を開け、コップの酒を口の中に注ぎだしたのだった。

 言っとくけど、飲む量を増やしたからって決して強くなるわけじゃないからな、体質的に。


「ちょ......!!!」


 さっきまで俯いていた音琶が止めに入ろうとしたけど手遅れだった。

 アルコールの刺激が喉を突き、流し込まれてしまった焼酎のせいで頭の中が熱くなる。なんだこれ、この世の飲み物とは思えない。


「音琶、お前今何しようとした?」


 兼斗先輩の目線が次は音琶に向けられる。これは......。


「何って、止めるためですよ!」

「何だよそれ、ならお前も飲め」

「っ!!」

「音琶!!」 


 たった一杯とはいえ焼酎は焼酎、ビール一缶でふらつくような奴がそんなもの飲んだらどうなってしまうかは察しの通り。

 音琶が飲まされそうになっているのを止めようとしたけど、俺の意識が遠くなるのも時間の問題だった。


 結局あの後どうなったのかはわからない。、より恐ろしかったのは兼斗先輩が終始笑っていて、怒っている様子が全くなかったってことだ。

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