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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
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ベーシスト事情、2人から1人

 バンドを組む為に必要な楽器の一つであるベース。今、このサークルにはベーシストが合計3人居るが、部員の数からして3バンド以上を結成するのは難しいだろう。

 しかも1つのバンドに付きベーシストは1人しか選ばれない。楽器の人数合わせを考える限り、本気で部員を集めないと全員がバンドを組むことは出来ない。

 そんな状況であるからこそ、2人のベーシストは燃えているのだ。音琶と2人で並びながら結羽歌と琴実に話し合いの場を設けさせ、今後どうするのかを決めていこうとしている所だ。


「本格的にサークルが始まってからバンドの話を持ちかけてくるなんて、流石夏音よね」

「やっと私も......、バンド再開出来るんだね......!」


 結羽歌、まだ組めるって決まったわけじゃないからな。

 まあ、一度サークルに対してトラウマを植え付けられた2人も、ベースへの熱意は出会った頃と変わっていないようで安心した。


「それはそうとお前ら、練習とかはどうしてんだ? やっぱり定期的にスタジオ借りてんのか?」


 一応本題に入る前に素朴な疑問を2人に投げかける。部室で大きな音を出して練習出来ない以上、設備の整った環境で楽器を弾くしか手段はないと思うのだが......。


「えっとね、一応自分の部屋でも練習はしてるよ。アンプ繋げてやりたくなったらスタジオには行くけど......、お金のこともあるから、1ヶ月に2回くらい......かな?」


 まず最初に結羽歌が答える。確かに大学生が住むアパートは壁が薄い所だらけだから、アンプなんか使ったら壁ドンどころでは済まないな。結羽歌の実家は一軒家だから、帰省した時くらいなら使っても大丈夫そうだが、環境が限られるとなると音作りを試す時間もかなり削られてしまう。


「私も同じ感じよ。隣の奴だって夜中にドタバタ騒いでる癖に、私がベース弾き始めたら壁ドンとかしてきて鬱陶しいのよね。別にアンプなんか使ってないってのに」

「あはは......」


 琴実の愚痴に結羽歌が苦笑する。自分は騒ぐ癖に隣の奴が少しでも物音立てると逆上する奴が隣人かよ......、いるよなそういうの。


「大家にチクられたら面倒だし、壁ドンされたら集中力削がれるから、私は結羽歌よりスタジオ行ってる回数多いわよ。そのお陰でバイトのシフト増やさざるを得なくなったのよね」

「なるほど......」


 この話を聞く限り、俺もあと1日分はシフト増やさないときついだろうな。特にドラムともなるとスタジオを借りないと練習にならないし、全体練習を合わせると出費がかなり痛い。

 今度こそ音琶と共に本気を出すのだから、練習の1秒1秒も無駄に出来ない。


「夏音が思い詰めた顔してるよ......」


 考え事をしていたら音琶に水を差された。お前も少しは状況の深刻さを考えろ......と思ったが、いつ死ぬかもわからない音琶からしたら、金の重要性が薄れていても仕方無いかもな。

 大学だってきっと、勉強よりも誰かと過ごす時間を優先したくて入ったのだろう。それなのに授業はしっかり受けているみたいだし、予習復習だってしっかりしている。将来が約束されていなくても、自分の本当にやりたかったことを現実のものにしたいんだろうな。


「......別に、少し金の使い方を考えていただけだ」

「......そっか」


 音琶も何かを察したのか、少し口調が落ち着いていた。


「そうね、これからバンド組んでいく以上、スタジオ代なんて馬鹿にならないから、しっかり考えておかないと痛い目見るわよ」

「そうだな」

「ま、結局あんたらのバンドに入るのは私だから、結羽歌は悩む必要の無い事よね~」

「あ、琴実ちゃん酷いよ? 私だって、一刻も早くバンド組みたかったんだから......!」

「勿論そんなこと知っているわよ。でもね、あんたにだけは負けたくないって意思がずっと前からあるってこと、忘れてないわよね?」

「その気持ちは......、私もずっと前から一緒だよ......!」


 本題に戻り、2人のベーシストが火花を散らしていた。軽音部時代から何も変わらない風景で安心した。


「でもさ、どうやって勝負決めるの? ベースの勝負ってことになると思うけど、場所とか日時とか審査員的なやつとか、勝敗の付け方とかも私には分からないんだけど......」


 熱意があるのは良いが、結果を出すためには過程も大事だ。今回の話し合いは、音琶が今出した疑問についての詳細を決める場でもある。


「まあ、どんな勝負にしたいかはベースの2人で決めて貰って、場所と時間に関しては4月中にしたいとは思ってる。あとは誰を呼ぶかとか、どこのスタジオを使うかだが......」

「呼ぶ人はバンドメンバーだけでいいんじゃない? 私か結羽歌、どっちと組みたいかを演奏見て決める感じで。先輩達は呼ばなくても大丈夫のはずよ」

「じゃあ取りあえず、日高も追加で」

「あとは勝負の日程ね。流石に練習する時間が欲しいから、最低でも1週間後って所ね。勝負内容は......、どうしたらいいかしら?」

「あ、あとは......、スタジオの予約状況とか見て、どこでやるのかとかも考えなきゃだし......。みんなの都合を考えると土日じゃないと難しい......よね?」


 成し遂げたいことの為に拡がっていく会話。再始動となるバンドのためにも、音琶にとってかけがえのない時間を作るためにも、我を忘れて話し合いに没頭している自分が居た。

 それぞれが意見を出し合うことで道が切り開かれ、先の見えない未来を育んでいく。決して立ち止まってはいけない時の中で、俺に出来ることは何があるだろうか。


 何かを完成させるために計画を練り、実行へと繋げていくということは、俺にとっても音琶にとっても......、俺の近くに居る人にとっても、大事で欠かせないことなのである。

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