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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
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今度こそ、変わらない想い

 同じ音楽系サークルでも、制度の違いで活動量に大きな差が生じていた。

 最初、音同に勧誘されて返事に悩んでいたことが現実のものになっている。部員一人一人が単独に近い形で行動しているため、部員が半数以上集まって何かをする、ということがほとんどないのだ。

 勿論幽霊部員を説得したり、部会に呼ぶなんてこともしていない。恐らく俺が入るまでの1年間は、響先輩のバンドのみが活動していて、部会等の集まりもバンドメンバーだけが行っていたのだろう。

 学祭の時だってバンドメンバーの4人しか居なかったし、サークル内でのライブというものには特に目も当てていないのだろう。

 だからさっきの会議も響先輩は賛成意見を出せなかった。賛成したくてもすぐには頷けなかった、と表現する方が妥当だろうか。


「なあ滝上、このサークルもなんかヤバいんじゃね」

「まあ、そうなんだよな。入って1ヶ月しか経ってないけど、みんな消極的すぎるんだよ」

「だよな......」


 結論が有耶無耶になって解散となった今日の会議、音琶が必死に意見を出していたのに響先輩は簡単に首を縦に振らない。俺にも俺なりの意見があるわけだから、響先輩が納得行くような言葉を考えはしたのだが、上手くいったという実感が沸かない。

 まあ、話の核心に触れてしまうわけにもいかないから音琶に気を遣いつつの行動だ、音琶の秘密が他の奴に知られないように上手く言葉を選ばなければならない。


「上川はどうしたいんだ?」

「私は去年からずっと同じ気持ちだよ。響先輩が反対したとしても、これは私と夏音の問題なんだもん!」

「ま、上川ならそう言うよな、普通」


 すっかり暗くなった空を見上げながら日高は言う。一年ぶりに部活に入った日高からしたらある意味災難の連続なのだろうけど、また『やっぱり辞めるわ』なんてことにならないよな?


「なあ日高、この際だから一つ聞いておこうと思うのだが......」

「ん、何だ?」

「お前、辞めたりしないよな? 音同の部室に来るのは今日が初めてだから流石に無いとは思いたいけど、お前に合う保証はないから......」

「別に、辞めるつもりはないよ。だけど部活なら部活なりに楽しいことはしていきたいよな?」

「まあ......、そうだな」

「だったら、俺も滝上や上川達の力になろうと思う。2人だって最高のバンド目指してんだろ? 夢を持ってる奴らを置いたりはしねえよ」


 全く、一度辞めた奴が何を言ってんだか。まあ、あの時はまだ俺や音琶の人間関係がそこまで深い所に行ってなかったから、本来の目的もはっきりしてなかったんだよな。

 あくまで興味本位で入部した去年と、明確な理由があって入部した今年。同じ入部でも意味合いは全く違う。


「協力出来るのなら、もう一回お前らとバンド組みたいって思ってる。流石に俺が上川のギタボを提案しといて、その後は何もしないなんてわけにもいかないしな」

「日高君......」


 その時だった。息を切らしながらこっちに向かって走る少女が背後から現れたのは......、



「ちょっと待ちなさいよ! 何あんたらで勝手に盛り上がってんの!?」



 琴実だった。さっきまで会議には参加していたが、響先輩と話があるからという理由で俺らは先に帰っていたのだ。

 だが、琴実もこの話には無関係ではないようで......、


「私だって叶えたい願いがあんのよ! あいつに圧倒的な力で勝つまではね!」


 琴実の願い、それはベースで結羽歌に勝つこと。

 今まで幾度か同じようなことを繰り返していたが、納得の行く結果は互いに得られていない。そもそも勝負と言っていいのかもわからない領域だ。


「私の勝手な想像だけど、仮にあんたらがバンドを組んだら間違いなく結羽歌が入ってくるわよ。だけどね、私だってレベルの高い奴とバンドを組んで、自分自身も成長していきたいのよ」

「えっと......、君は確か......」

「高島琴実よ! あんた結羽歌と同じクラスのはずよね! 名前くらい覚えておきなさいよ!」

「ご、ごめん」


 突然の登場に戸惑う日高だったが、これでも去年、ほんの少しの間だけ同じ部員だった2人だ。顔と名前が一致しないのは仕方無いことだが、今後活動していく上で最低限相手のことは覚えておかないといけない。


「その前に! バンド一つにつきベースは1人しか入れない。なら、私が入ってあげてもいいわよ」

「はあ......」


 全く、こいつらは決心したらすぐに行動、ってか。行動する前に考えることをしようと思わないのだろうか。

 それともあれか? 音琶と似たような事情を抱えているから、今すぐにでも何かしておかないと手遅れになるってか?


「でも、結羽歌が居ない所で勝手にバンドの話を進めるわけにもいかないから、まずは結羽歌とも話し合ってどうするか決めるべきね」


 結羽歌の居ない所で、ね。プライドの高い琴実のことだし、願いを叶えるためなら他の人はどうでもいい、というわけでもないようだ。

 周りの人と自分を照らし合わせているからこそ出来ることなのだ。環境が変わっても、掲げた想いは変わっていないようだな。


「なら、明日結羽歌に伝えておくか? 琴実が宣戦布告してるって」

「べ、別に争うつもりなんてないわよ! ただ、あいつに何も言わないでバンド組むと、ズルしているみたいで居ても経ってもいられないだけだから!」

「はいはい」


 面倒臭い所も変わっていないようで、こいつらの意思が固ければサークルも良い方向に進んでいく一歩になるだろう、そう思いながら部屋へと歩いて行った。

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