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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
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我儘、音同のためになるのなら


「なるほどね、音琶。君は去年からずっと夏音とバンドを組みたいって思ってたんだね」

「はい、本気で考えてます。今年こそ満足のいくバンドにしたいんです」

「その意気は大事だけど......」


 今日集まる面子は全て揃い、不定期の会議が始まっていた。音琶にとって限られた時間をどう活用するかが掛かっている会議、ということを知っているのは俺だけだが、新学期早々バンドの話を持ちかけることはサークルの今後に関わる第一歩になるはずだから、響先輩達も悪い話だとは思わないはずだ。

 因みに、音同の部長は響先輩なわけで、部員の提案には積極的に話を聞くみたいだから今回の音琶の話にも協力的ではある。あとは面倒な展開にならないことを祈るのみだな。


「音琶が目指しているのって、どんなバンドなのかな?」


 響先輩の問い、それはある程度俺が想定していたものだった。

 響先輩......もとい俺以外の奴らは音琶の抱えている事情を知らない。だからと言って真実を話すわけにもいかないから、どうにか別の理由で納得させないといけないが、下手に嘘を重ねるとややこしいことに成りかねないのでどうしたらいいのか難しい選択を強いられている。

 音楽経験の浅い日高には奥の深い話だから理解出来ていないかもしれないが、これも経験の1つだ。音同というサークルが必ずしも緩いと思ったら間違いだ、少なくとも音楽にかける熱は他の音楽サークルに負けてないはずだからな。


「それは......」

「俺から伝わってきた言葉はね、まるで音琶は夏音とさえ組めれば良い、他の人はあくまでモブに過ぎないから居てくれるだけで良い。そういう風に聞こえなくもないよ」

「......」


 響先輩の言葉が一概に間違っているとは言えない。確かに音琶は俺とさえ組めれば最高のバンドになれる、と言っているようなものだ。勿論そんなつもりはないのだろうけど、今までの音琶の言葉を聞く限りだと、そう思われても仕方が無いのかもしれない。

 ギターの音琶、ドラムの俺。たった2人でバンドが成り立つわけがないし、音琶が好んでいる音楽をコピーするとしたらベースとギターがもう一人必ず必要となる。


「誤解しないで欲しいんだけど、別に責めてるわけじゃないからね。まずは、今まで音琶が組んできたバンドがどんな形だったのか、一旦思い出してみるのも手だと思うよ? 勿論音琶は実力もあるし、メンバーを引っ張って行く力があればバンドの完成度もずっと高くなるに違いない。音同に居る分には勿体ないくらいだし、今後にも期待しているんだけど......」

「あの、ちょっと待って下さい」


 あまり響先輩のペースに合わせすぎるのも良くない。ここは俺の意見も述べてみたっていいだろう。


「ん、どうした?」

「確かに、音琶には振り回され続けて1年経ちましたけど、俺だって全く何も考えてないわけではないです。このサークルに入って1ヶ月、まだまともに活動は出来てるとは思えませんけど?」

「まあ、そうだね。何せ部員が足りなすぎて......。君達が入ってくれただけでも凄い有難いくらいだよ」


 響先輩の言葉から、音同が抱える課題が何なのかがはっきり見えてくる。

 部員不足で活動の範囲が絞られてしまう。部員が増えるだけでも大きな救いとなっている。幽霊部員がまず戻ってこない。活動しているバンドが一つしかない。

 新入生の歓迎ライブを検討していない時点で、サークルの存続に関わるイベントに対する意識が足りないと思われても反論は出来ない。響先輩が必死なのは理解出来るが、まずは闇雲でもバンド結成を行動に移さないと意味が無いはずだ。

 量より質、という言葉があるが、音同に関しては量が足りてない。質を求める以前に量が無いと今後の活動も薄っぺらいものに成りかねない。


「......だったら、今の間は音琶の我儘を聞くのも有りなんじゃないですか? まずは誰でもいいからバンドを組むことから始めて、ダメな所があればメンバーで共有して改善していくみたいな感じで......」


 まずいな、響先輩を説得しようとしても結論付ける言葉が出てこない。だが、せめてサークルの為にも行動を起こしておかないと何も始まらない気がしてならない。


「結果が出るか出ないかはまず置いといて、最低でもあと2人、俺と音琶で組むべきメンバーを集めてみてもいいと思います。しかもXYLOでバイトしてる奴がサークル内で3人も居るんですから、オーナーに頼んでライブに出して貰うことだって出来るかもしれません」

「......確かに夏音の言いたいことは分かるけど、本当にそれで成功すると思う? 夏音や音琶は経験深いから良いとして、他のメンバーがライブハウスの企画に着いていけるのかな?」


 背水の陣で挑むような口調で話す響先輩だが、こんな所で先輩とぶつかりたくはない。響先輩だって、2年間の地獄を乗り越えて音同に辿り着いたのだから、ライブへの姿勢が控えめになってしまったのかもしれない。

 だが、これは俺と音琶の問題だ。他の誰かが何を言おうとも関係無い、悩むよりも先に行動に移さないと意味が無いのだ。


「......バンドを組む前から悩むことではないと思います。制度が自由なサークルなら、積極的にライブハウスの企画に参加したって良いはずです」


 音琶との約束を叶えたい。その一心で放った言葉であることに間違いはない。

 だけど、他のメンバーがどうでもいいとも思っていない。響先輩との認識の違いは発生しているが、これも一種の過程に過ぎない。


 核心を話せなくても大事にしていきたいことがあるのなら、理由を洗いざらい話す必要は無い。話すよりも行動が大事なのだ。


「......そんなにやりたいのなら、好きにすると良いよ。それで音同のためになるのなら、ね」


 何度かの説得で折れた響先輩だったが、そうとなったらまずは最低でも2人、メンバーを集めることから始めないといけないな。

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