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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第31章
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新学期、願いを叶えるために

 4月13日


 いつもと変わらない朝、目覚ましの音に起こされ、眠い目をどうにかして覚ます。早いとこ朝食を作っておかないと騒ぐ奴が居るわけだし、眠気を乗り切って俺は起き上がった。

 次の瞬間......、


「夏音! おはよ!」


 一際元気な声が部屋中に響く。隣にまで聞こえてるだろこの声量、苦情が来たらどうすんだ。


「あ、ああ。随分と早いんだな」

「そりゃあもう、今日から新学期だもん。ずっと楽しみにしてたんだよ~!」

「はいはい」


 少女の名は上川音琶。同居している彼女で、今の間は同じ大学に通えている。普段は元気で明るい性格だが、二十歳までは生きられないという過酷な運命を背負っており、この性格は自分の抱えているモノを少しでも忘れられるようにしているから成り立っているものである。

 本当に運命通りなら奴の命はもう3ヶ月も無いわけだが、俺はそんな話は信じない。そもそも根拠がないし、必然的に決められたわけでもない。あくまで予想、仮定の話なのだから外れるに決まっている。それ以前に俺と音琶には叶えなければならない願いがあるのだから、そう簡単に諦められるほど馬鹿ではない。


 まあ、当たらない確率もゼロではないのだから、一日を積み重ねられるだけでも奇跡だと思ってはいる。


 何はともあれ、音琶が秘密を話してから4ヶ月、特に奴の身体に異変があった、なんてことはない。油断は出来ないが、少しでも多く思い出を作って行くつもりだ。


「今日は奮発しちゃったよ~。朝ご飯は私が作ったんだから!」

「マジかよ......」


 一体何時から起きてこんなことをしていたというのだか。ミニテーブルに2人分の朝食が並べられ、正面に音琶が座る。満面の笑みで箸を取り、自分自身で作った料理を次々と口に運んでいく。


「頂きます」


 手作り......とは言え、音琶の料理はまだそこまで上手いとは言えない。以前よりも焦げ臭くはなくなってきたが、味付けが濃いために俺の口には合わないし、たまに砂糖と塩を間違えたりもする。

 春休みの間に何度か料理を教えはしたが、俺に追いつくにはまだまだ遠いな。


「所でさ、今日授業終わったら真っ先に部室行くよね?」

「まあ、そのつもりだ」

「だったら集合しよう! またみんなで会議だよ!」

「わかったよ」


 こいつと共に居れば退屈を忘れさせてくれる。そんな日々が突然終わりを告げると思うと、恐ろしくて眠れない時があるくらいだ。

 仮に音琶が二十歳を超えることが出来たとしても、俺よりずっと早くに逝ってしまう可能性は極めて高い。

 余命の根拠が無くても病気は治せない。病気の進行がどの程度かは知らないし、音琶も未だに診断を受けに行ってない。結果を知るのが怖いから、行ってないのだろう。

 時には最悪の結果だって......、頭の片隅には入れておかないといけないのだ。


「今年こそ、ちゃんと約束果たさないとなんだからね!」


 そう言いながら音琶は朝食を食べ終え、台所へと向かっていった。


 俺と音琶が叶えなければならない願い、果たさなければならない約束。

 それは、最高のバンドを組むこと。


 何が最高なのか、何を以て約束を果たしたことになるのか、それは俺にも分からないし音琶も良く分かってはいないだろう。

 だが、説明しなくても感覚で判断は出来る。去年まで音琶とバンドを組んだことはあったが、少なくとも満足のいく結果になったとは言えないし、楽しかったとも思っていない。

 ならどうしたら、最高のバンド成るものが出来上がるのか。まずは何かしらの行動を起こさないと、将来が約束されることはない。


 もしも残された時間が僅かだというのなら迅速且つ適切に、未来がどうなるかなんて誰にも分からないのだから、分からない未来が良い方向に進んでいくように奔走しなくてはならないのだ。


 残酷な運命を渡り合ってきた2人なら、叶えられると信じているのだから。

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