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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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偶然、これも必然

 ドラマーのやるべきことを全て終え、駅前のモールで買い出しをする。

 今回は兼斗先輩が奢ってくれるらしいけど、この人結構金持ってるのだろうか。


 買い物カゴには大量の酒と野菜、肉、お菓子等々、1万は軽く超えてるだろう、この材料を見る限りだと鍋でもするのだろうか、先輩の料理の腕前が試されるわけだが。


「夏音、部屋ついたら色々聞かせてもらうからな」

「好きにして下さい」


 兼斗先輩が何を企んでるのかは知らないけど、俺の過去の話を聞こうとしたって全部が全部話せるってわけじゃないからな、思い出したくもないことばかりだとまず何から話せばいいかもわからないし。

 兼斗先輩がレジに向かい、俺を含めた他の4人は奥にある段ボールを用意しているわけだが、今からこれを抱えて市内を歩き回るなんてこと考えると周りからの視線がすごいことになりそう。

 いくら安いからって買いすぎなんだよ、半分食糧で半分酒みたいな感じだろ、これまさか今日で全部消費するとか言わないよな?


「行くぞ」


 兼斗先輩を先頭に全員がついていく。

 流石に先頭で大きな箱を抱えて歩いていると目立つわけだけど、この人こういうの大丈夫なのか? 俺だったらもう少し頭の良い方法でどうにかするけど。

 

「夏音......、何やってるの?」

 

 脳内で様々な疑問を巡らせていると横から誰かに呼ばれた。

 その声は軽蔑を含んでいたけど、そりゃ目の前で不思議な絵面が展開されてるとそんな話し方にもなるよ、でも俺にだけ向けて言うことではないと思う。


「歩いてるだけだ、別にどうってことじゃねえよ」

「へえ、どう見てもそうは思えないけど。大きな段ボール抱えた先輩にみんなで仲良くついていくなんて、何かの宗教にでも入ったのかと思った」


 声の主が音琶だってことくらい最初に呼ばれた時から気づいてはいたけど、こいつにだけはこんなことしてる場面見られたくなかったな。


「そんなことよりお前バイトは決まったのか? 早くしないと山分けできないだろ」

「それはまだだけど......、色々あって迷っちゃうの!」

「もう結羽歌と一緒にライブハウスでやればいいだろ、あいつも音琶とやりたいって言ってたぞ」

「それは知ってる。知ってるけど、あそこには色々あって......」

「......別にお前がどこでバイトしようと俺には関係ないけど、金だけは早いとこ稼がないと部長が黙ってねえぞ」

「うん、わかってる」


 低い声で言ったせいか、音琶の表情がまた曇った。

 結羽歌から聞いた話だと、音琶は2、3年ほど前、XYLO BOXでバイトしていたらしい。


 別になんの変哲もない、普通のことではある。結羽歌も音琶と同じ場所でバイトしたいと思ってるだけだ。

 でも、もしそれが本当だったら俺は大きな誤解をしていたことになるかもしれない、俺と音琶は同じ高校の生徒で、たまたま自分の通ってた高校の卒業ライブがあることを知って、たまたま俺の存在を知ったとずっと前から思ってた。


 明確な理由は分からずともその仮説には自信があった。

 俺の通ってた高校は進学校だったためクラスの数が多く、生徒全員の名前と顔を覚えられてなかったし、その中に音琶がいても違和感がないのだ。

 そうでなかったら音琶は何であの場に居たんだ? ってことになる。そもそも俺の通ってた高校とXYLO BOXなんて相当距離が離れていて、電車で2時間近くかかるくらいだ。

 わざわざそんな移動時間がかかる場所にバイトをしにいくとは思えない。当時のバイト先がXYLO BOXということを考えたら音琶の実家は鳴成市内にあることになるし、高校だって当然違う所だ。


 だとすると音琶は実家通いしているということなのか? 自分のことをほとんど話さないからそもそも音琶が今どこに住んでるのかもわからない。

 音琶とどこかに出かけた後もいつも途中で別れるけど、そのせいでどこの近くに住んでるのかとか、目印すらはっきりしない。

 音琶が隠してる事はそんな小さなものではないだろうな、それを知ったとき俺は生きて帰れるのだろうか。


 てか、ギター経験者なら軽音部に入ってない方が不自然だよな。高校の軽音部に上川音琶なんて奴はいなかったし。


「なあ、音琶......。何か抱えてるなら本当に......」

「兼斗先輩、これから何かするんですか?」

「おい......」


 またはぐらかされたか......。こいつの本性って何なんだよ、いつもの明るいキャラは演技なんじゃないかと思う位だけど、流石の俺にも判断ができない。


「ドラマーで集まって実力計ってきたんだよ。それでこれから飲み会」

「私も昨日ギタリストで集まりました、飲み会もしましたし」

「今日も来るか? 5人しかいないからさ、誰でもいいから来てくれると有難い」

「いいんですか!?」

「いいぞ」

「じゃあ行きます!!」


 いいのかよ......。まあ音琶だしいいか、もしかしたら飲み会中にバンドの話少しでも進められるかもしれないし。

 とても隠し事を聞き出せるとは思えないけど。


 兼斗先輩の部屋につき、これから飲み会が始まろうとしている。

 これもいい社会経験だ、俺も音琶も、結羽歌も、そして他の奴らも、とっくに自由なんて奪われているってことに気づけるんだから。


 ***


 計画通りに物事が進んでいる。

 今日私が夏音に会ったのは決して偶然ではなくて、昨日のギタリストの集まりでドラマーの集まりもあるってことを聞いて知った。


 そして、終わった後には必ず飲み会がある。

 全員が買い出しに行きそうなタイミングを計らい偶然を装って現れる、そうして先輩に飲み会の話を振り、自分も参加してもいいような空気を作る。

 そうすれば先輩から何か情報を聞けるかもしれないし、この人達がこれから何をしようとしているのか私は全てを知れる。それから......。


 でも、そんなことをしたら夏音はどう思う? 私があれほど夏音とバンドを組みたくて、何度も何度も声を掛けたというのに、全てが無駄になってしまいそうな気がしなくもない。


 全ての真相を知ることと、夏音と最高のバンドを組むこと。

 どっちも私にとって大事なことで、決して揺らぐこのない想い。

 どっちも大切だから、どちらか一つにしか選ぶことができないんだ。

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