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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第30章
448/572

新年、真実を知った後に何をするか

 ***


 1月5日


 あの日以来、音琶とは顔を合わせていない。そもそも、音琶は俺の部屋に居ない。恐らく自分が本来住んでいた場所に居るのだろうが、連絡すら取ってないから実際どこに居るのかもわからない。

 冬休みも今日で終わり、明日からはまた授業が始まるし、期末試験も近づいているから単位の為に勉強に身を注がなければならない。


 この冬休み、特に何もしなかったな。最低限衣食住が出来る程度の生活しか送ってなかったし、誰とも会わなかった。

 いやまあ、日高達は実家に帰省していただろうし、年明けを一人暮らしのアパートで過ごす奴なんて俺くらいか......。

 バイトだって無かったし、音琶と顔を合わせる時間なんて......。


「......」


 ベッドに寝転がりながら、12月25日の出来事を思い返す。

 音琶が今まで隠し続けていたことが明らかになり、動揺が隠せない。今だって心が安定していない。


 あと1年......いや、もしかしたらもう少し早くになるかもしれない。音琶には『お前のその話は信じない』なんて言ったが、実際は『信じない』のではなく『信じたくない』の方が正しいな。


 上川音琶という一人の少女に課せられた過酷な運命、それが本当に現実のものになってしまうのか、信じられないし信じたくない。

 今まであんなに元気だったし、俺に見せる笑顔の裏に隠されたものがあったというのなら、もっと早く気づいていれば......。

 ......気づいたところで何になるってんだか。そもそも俺はこれからどうすればいいのか、自分の役目を見失いつつあった。


 ・・・・・・・・・


 1月6日


 昨日も音琶とは連絡を取らなかった。今日から学校が始まるというのに、元気な声で朝の挨拶をしてくる奴はいない。

 目覚まし通りに起きれているとは言え、身体の重さはまるで音琶と出会う前の頃のようだ。自分が何の為にここにいるのか、どうして大学に行くのか......。何もかも全てがどうでも良くなるような感覚に襲われる。


「......」


 働いてない頭で朝食を取り、身支度をする。忘れ物が無いことを確認し外に出るが、相変わらずの寒さに身体が震える。10分ほど歩けば大学に着き、今まで共に授業を受けてきた奴らの隣に座る。


「あけおめ、滝上」


 座った途端、入学式の日に声を掛けてきた奴が新年の挨拶をしてきた。


「ああ」


 一応の礼儀として頷くくらいのことはしたが、言葉を返すのも億劫なので無礼な態度にしか見えなくなっていた。


「おいおい、折角新年の挨拶だってのに元気無くないか? 冬休みあんま楽しくなかった?」

「別に」


 席に着き、鞄から教材を取り出す。結羽歌と立川が二人で何やらコソコソしているが、どうせまた下らないことでも考えているのだろう。適当に振る舞ってあとは授業に集中するか。


「もしかして~、新年のおみくじ大凶引いちゃった? 金運も健康運も何もかも最悪なヤバいやつ」

「それとも......、帰省している間、音琶ちゃんと会えなくて寂しかった......、とか?」

「いやいや、俺らに会えなかったのも寂しかったんだよきっと」


 こいつらもぶれないよな、頭が良いのか悪いのかよく分からん。それ以前に神社にも行ってないし帰省もしていない。


「そんなんじゃねえよ、ただ少し眠いだけだ」


 三人の予想は全部外れているが、本当のことを話すわけにもいかない。誰でも吐けような簡単な嘘を使ったが、果たして通用するだろうか。


「なるほどね......。つまりはいつもの滝上ってことか」

「授業、久しぶりだもんね。きっとすぐに慣れるよ」

「困ってることあったら遠慮無く俺らに言うんだぞ」


 ......困ったことがあったら、ね。今まさに困っているのだが、誰かに相談出来るような内容じゃないから二重で困っているんだよ。

 でもまあ、こいつらの気遣いは時に俺を安心させるし、心の拠り所だと思ってはいる。


「問題無い、テストが近くなれば誰だって疲れるだろ」

「ま、まあそうかもな。前期よりは良い成績取らないとだしな」


 テスト、という言葉を聞いて明らかに動揺する日高だったが、授業さえしっかり聞いていれば単位は取れる。サークルを辞めたのなら尚更だ。


「所でさ、滝上はサークルどうするんだ? 結羽歌はもう今日から新しいとこ見学しに行くみたいだけど」

「......は?」


 ......ああ、そう言えば結羽歌は琴実と一緒に音同に入るとか何だとか言ってたな。未だに今後の決断が出来ていない俺とは違って、行動力がある奴は理想を求める為なら迷わないようだ。


「うん......。実は今日、授業終わったら琴実ちゃんと......」

「......なるほど」


 どうせ音琶も連れて一緒に行こう、みたいなこと言い出すのだろう。だけど、あの日以来音琶とは会えていないし、どうやって声を掛ければいいのかも分からない。

 時間は限られている。最高のバンドを目指すためには一刻も争う事態になるが、果たしてどうすれば......、


「もし嫌だったら、無理にとは言わないけど......」


 優しい目で問いかける結羽歌だが、琴実との関係を思い返せばベースに寄せる想いは果てしなく大きい。今すぐにでもスタジオに行って、四弦を掻き鳴らしたいという気持ちが充分に伝わってくる。


「まだ......、俺はまだ、音琶とはその話が出来ていない」


 音同が決して嫌なわけではない。音琶との約束を果たすのに最短で辿り着けるルートで間違いはないはずだ。

 まずは、音琶ともう一度話をして、これからのことを明確にしていかないといけない。こんな中途半端な所で音琶との関係を終わらせるなんて論外だ。


「夏音君......?」

「今日は行かないけど、一度音琶と今後バンドをどうするか話し合うつもりだ。だから、話し合いの結果次第では俺も音同に入るかもしれない」


 音琶の兄の真相だって分からないままだ。響先輩辺りが当時のことを知っている可能性もゼロではない。


「ほんと......?」

「別にまだ入ると決まったわけではない。だけど、話し合う価値はあるから、もう少し待ってろ」

「そっか......。そしたら、待ってるね......!」


 ......こいつも音琶同様、俺とバンドを組みたいとでも思っているのだろうか。否定の言葉を出さなかっただけでこんなにも嬉しそうな顔をするだなんてな。


 まあ、結羽歌のお陰で俺も授業終わりにやるべきことが見つかったから、できる限り迅速な行動を心がけるとするか。


 真実を知ってお終いではなく、真実を知った後に何をしていくかが大事なのだ。

 生きている限り目標や夢は際限なく現れる。だったら、まず俺がやらなければいけないことを熟していくしかないだろう。

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