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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第30章
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クリスマスイブ、一日の楽しみ方

 自由を手にした。と言うには大袈裟かもしれない。

 だけど、一つの大きな地獄を乗り越え、新たな道を切り開く権利が与えられた俺は、これから何をしていけばいいのだろうか。


 どんな道が正解かだなんて誰にもわからない。肯定する人も居れば否定する人も居るだろう。だが、一番最後に信じられるのは自分自身でしかない。

 何をしていけばいいか。そんなこと、俺が正しいと思った道を歩めば良いのだ。誰かの言葉に流される必要なんてどこにもない。


 ・・・・・・・・・


 12月24日


 冬休みは27日から1月5日までと、大学の冬休みは短い。その期間で帰省して、久しぶりに実家に顔を合わせに行くのが一般の大学生のやることだろう。

 まあ俺は一般の大学生という称号から外れているので、冬休みだろうが何だろうがずっとこのアパートで生活していくがな。


 あれから10日ほど経過したが、奴らが俺や音琶にしつこく干渉してくる、なんてことはなかった。バイト先にもまだ現れてないし、キャンパス内で擦れ違うということもなく、サークルから身を退いたことで平穏な暮らしを迎えることが出来ていた。

 そのお陰で勉強も捗るし、顔色も良くなった気がする。生活リズムだって戻ってきて、音琶もどこか安心したような表情を浮かべるようになっていた。


 いや、そう思うにはもう少し現実を見てからの方が良いかもしれないな。



「メリークリスマース!!!」



 まるでこの世に対する悩みや柵みを一切感じていないような少女の姿がそこにあった。安心、という言葉を超越するほどに笑顔を振りまき、今起きていることを何よりの幸せだと感じているかのように......。

 ......上川音琶という少女はそういう奴だったよな。


「もう、夏音も私に続いてよ~。折角のイブなんだからさ!」

「別に、イブだろうが何だろうが関係無く地球は回っているだろ」

「大事な日はちゃんと楽しまないと意味無いんだよ! ハロウィンの時みたいにね!」

「はいはい」


 臍出しミニスカのサンタ衣装に身を包んだ音琶は、いつもより少し豪華な夕飯を頬張り、食後のケーキを楽しみにしているようだった。

 全く、授業終わりにローストチキンが食べたいだの何だの言い出して、駅前のモールまで買い出しに行くだけならまだしも、ケーキだったりコスプレだったりパーティグッズだったりをせがまれて帰ってくる頃には20時過ぎてるし、音琶のせいでまた退屈しない日を過ごすことになってしまった。

 明日も講義あるってのに、こいつは自覚ってものが足りないのではないだろうか。金だって結構遣ったからバイトのシフトも増やしとかないといけねえし。


 12月24日、クリスマスイブ。何かが起こる日の前日だというのに、全く今まで通りの愛想を振りまく音琶の姿が逆に怖かったりする。

 一体どんな話が飛んでくるのか、音琶が本当に言いたかったことが何なのか。運命の日が近づくにつれ、俺の心は追い詰められていた。


 だけど、そんなことも関係無いとばかりに音琶は今日を楽しんでいる。見習わないとダメなのかもしれないが、本当にそれでいいのだろうか。


「もう~、夏音元気無いよ~」

「別に、元気がないわけではねえよ」

「何々? そんなにコレ、気に入らなかった?」


 にやけた表情で俺の胸元を指し、頬を赤らめる音琶。いやこれお前が着ろって言ったんだからな。


「そんなこと一言も言ってねえよ。お前が選んだんだから、割と良いとは......、思ってる」


 我ながらこんな格好するのは初めてだ。ハロウィンの時以上に奇抜だとは思う。


「照れちゃって~。でも可愛いよ、トナカイ姿の夏音も」

「それはどうも」


 俺が着ているのは、フード付きのトナカイの着ぐるみだった。音琶がサンタなのだから、相応しいと言えば相応しいが......。いくら冬とは言え、暖房付けているのだし、頭にフード被ったままだと結構暑いんだよな。逆に音琶は薄着だから寒そうだ。


「逆に、私のはどうかな? 似合っていると思うんだけど......」


 チキンを齧り付きながら音琶が問うてくる。だが、音琶の際どい衣装についてどう感想を述べればいいのか......。

 いくら部屋の中とは言え、こんな寒い冬に谷間や臍や太股を大胆に出せる奴なんてお前くらいだぞ、多分。


「まあ......、似合ってんじゃねえの」


 あまり直視し過ぎたら怪しまれるだろうから、申し訳程度に感想を述べてやった。音琶だって結構単純な感想だったんだから、これくらいでいいだろう。


「え~、それだけ?」

「ああ、それだけだ」

「つまんないの~。もっと言ってくれもいいのに、可愛くてえっちだって」

「いや、思っても言わねえよそんなこと」

「ふ~ん、思ってたんだ」

「......」


 まんまと嵌められたが、特に嫌がっているわけではなさそうだから、この話はここで終わりにしておこう。ケーキだってあるんだし。


「そんなことより......、そろそろケーキ出すぞ。もう食べ終わりそうだし」

「あ、そうだね! チキン美味しかったよ~」

「なら良かった。来年は手作りするから覚悟しておけ」

「本当!? じゃあ最高に美味しいの作ってよね!」

「はいはい」


 音琶と共に楽しい日々を過ごしていれば、明日何が起こるのかという不安が少しだけ和らいだ気がする。来年の約束だってしたんだし、これから先どんなことがあろうとも音琶と交わした数々の約束は果たしていきたい。

 冷蔵庫からケーキを取り出し、適当な大きさに切り分け、皿に移す。甘い物は苦手だし、自分から進んで口にすることはまずないが、音琶となら抵抗を感じずに食べることくらい......、出来る。


 結局、4号サイズのホールケーキは一切れだけ食べ、あとは全部音琶が平らげることとなった。相も変わらず食欲旺盛な奴だ。

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