祝福、辞めたことを許してくれる人達
音琶にとっては部会の時間、明日はライブの日のはずだった。
だけど、俺の説得が功を奏し(?)、音琶は無事にサークルを退会した。幹部の奴らからしたら、今まで遅刻もしたことなかった音琶が連絡も無しにグループLINEを退会したのだから、驚きを隠せない状態に陥っているのだろう。
馬鹿な奴らだな、音琶はとっくの昔にサークルの現状を嫌がっていたんだよ。今更退会した所で驚きなんて感じる方がおかしいんだよ。
まあ、遅刻すら許されないサークルで部会のドタキャンなんて、奴らからしたら衝撃以外の何物でもないか。
だけどな、守らなきゃいけない約束は必ずしも存在するわけじゃねえんだよ。
・・・・・・・・・
「良く来てくれたわね。結羽歌から大体の話は聞かせてもらっていたけど、あんたら2人はやっぱ只者じゃないわね!」
音琶を連れた先、それはいつも俺らを大切に思ってくれる奴らが居る店......、
「夏音、結局Gothicじゃん。何? 今日のシフトが琴実だってこと知ってて私を連れてったの?」
「まあそうだな。結羽歌とも話していたし」
「むう~。嵌められた感が払いきれないんだけど!」
「別にいいだろ。どっちみちサークル辞めた喜びを共有出来るのはこいつらだけなんだからさ」
「それはそうだけど......」
今日のシフトは琴実。そして勿論結羽歌も客として来ている。一応放課後に結羽歌とはサークルに関する話はしていたから、こうして4人で集まることに特別な意味を感じなくもない。
夏休みの時に決めた約束......。サークルに関する悩みを共有して、可能なら変えていく。それが出来ないなら辞めてやる。斬新とは言え、決めた事は最後まで成し遂げるのだから、それがサークルを辞める選択肢になろうが関係無い。
変えられないものを変えようとすること自体が愚かで無駄な行為なら、もっと他の環境を用意したって無意味なことではないだろう。
「と、取りあえず、音琶ちゃんも夏音君も、今まで、お疲れ様......」
先に付いていた結羽歌が声を掛けてくる。こいつとは授業終わりに色々話しておいたからな。別に音琶が正式に辞めることまでは話してないけど。
でもまあ、サークルを辞めたこと自体は悪いことだと思っていないらしいな。ドタキャンとは言え、正しい決意をしたのなら、誰も音琶や俺を責めることはないはずだ。多分。
「疲れたな、結羽歌もお疲れ様ってもんだ」
「結羽歌、お疲れ」
「お疲れ様......。2人とも、大変だったみたいだから......」
「もう、気にしなくていいんだよ。とにかく私達は自由を手に入れたんだから、今日は少しくらい羽目外してもいいんじゃない?」
「そう、だね......。今日くらいは、酔ってもいいかな......」
ライブ直前に突然のサークル退会。普通なら常識知らずも良い所だ。
だけど、そんな常識をも覆してしまうくらいに、結羽歌や琴実の心には響くものがあったようだ。
「そうよ、今日くらい酔ったって誰も責めたりしないわよ。私だって、仲間が一つになった気がして嬉しくて仕方無いのよ」
「琴実......」
「正直なところ、これだけ才能があって、誰かの為に頑張ろうと努力している人のことを責めるなんて出来ないわよ。私には出来なかったことをあんたらは出来たってこと。気にしなくていいから、今日くらい羽目外したっていいじゃない」
琴実の言葉は俺や音琶、結羽歌を励ますのに相応しい言葉だった。言っていることは正しいし、間違っている所なんてどこにもない。
だからこそ、大事にしたい奴らが、俺が選んだ道を否定するわけがない。
「夏音も飲んじゃったりする? ま、あんたがお酒飲めるとは思えないから、コーラで酔って貰うけど」
「ノンアルの飲み物で酔うほど俺は馬鹿じゃねえよ」
「そう。だったらお腹が痛くなるまで飲んで貰うわよ」
「好きにしやがれ」
いつも以上に嬉しそうな琴実や結羽歌の表情に惑わされ、酒は呑まずともそれなりに液体を胃袋に詰め込む日々となった。
案の定、結羽歌も音琶も、今までのストレスや疲れが溜っていたのか、今回の飲み会では過去を超えるくらいの飲みっぷりを見せつけ、俺と琴実が介護することになった。
後日、音琶のスマホにはサークルの部員の電話が鳴り響いていたそうだが、全員ブロックするくらいの根性は持ち合わせていたようで、25日を迎えるまでは平気な顔を見せ続けていた。
25日を迎えるまでは、確かに俺も安心したと同時に気が緩んでいた。
だけど、そんな気の緩みも許されないほどに、残酷な真実は着々と迫っていたのである。




