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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第29章
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私が本当に叶えたかったこと

 12月8日


 ......夏音から話は全て聞かせてもらった。

 夏音はもう、サークルに足を踏み入れることさえ許されなくなってしまった。部長から問われた一言により、夏音の中で抱えていた全てが吐き出されてしまって、先輩に対する暴言や態度の悪さも相まって強制退部......、そんなの納得できない。

 夏音は今まで沢山の困難を乗り越えて、私のことも守ってくれた。確かに最近喧嘩しちゃったけど、部長に対して思っていたことを全部言えたってことは、私を守りたいっていう気持ちがあったから......。


 想いの強さが夏音をあそこまでさせた癖に、部長や他の先輩達は一斉に夏音に対して身体的にも精神的にも攻撃をしてきた。夏音も必死になって抗ったみたいだけど、たった1人で先輩達全員に立ち向かうのは限界があった。

 殴り合いの末に、満足した先輩達は夏音のことをまるで人で無いかのように部室から放り出したという。ふらふらになって、覚束ない足取りで私の待つ場所まで帰ってきてくれた。


 ......これで私も、あの人達に対する覚悟が決まった。退部になったのは夏音だけで、私はまだギリギリあのサークルに足を踏み入れる権利は与えられている。

 グループLINEだって、部長により夏音は退会させられていたけど、私には何もしてこない。

 もう私だって、あんな場所には居たくない。だから、せめて最後に真実を知るためだけに、今こうして部室に向かっているんだ。


 誰が居るかなんてどうでもいい。ただ一つだけ、私がどうしても知りたかったこと......。それを知るまでは、絶対に辞めることなんて出来ないんだから。


 ・・・・・・・・・


 授業終わり、部室に向かう。12月ということもあって雪が積もり始め、すっかり日も短くなってしまった。まるでこの寒くて暗い外の世界が今の私の心と比例しているみたいで、どこか窮屈に感じてしまう。


 今思えば、私の本来の目的って何だったんだろう。

 初めて夏音に出会って、一緒にバンドを組みたいって気持ちにはなった。でもそれは結局、夏音の姿が大切な人の姿と重なったから。

 音楽に向き合う姿や情熱、何よりも楽しそうなその表情、顔までそっくり。まるで生き返ったんじゃないかって思ってしまうくらい、私の頭を麻痺させてしまって、気づいたら一方的に約束を促していた。

 冷静になることを忘れてしまって、再会してからも私は止まらない。私があのサークルに入るって決めたのは、和兄の身に起こったことを知りたかったから、和兄が居た場所で私もギターを掻き鳴らしたかったから......。


 そして、初めて会った男の子と、最高のバンドを組みたいって思ったから......。


 夏音への想いは、最初の目的よりも後のものだったけど、もし私が夏音に出会ってなかったら、和兄の真実を知ってしまった途端、ぱったりとギターに駆ける想いが消えてしまっていたかもしれない。


 私が本当に叶えたかったこと......。真実を知ることでもう居ない和兄に囚われていた心が解放されて、夏音への想いが今以上に大きくなるというのなら......、私はもう迷わない。時間だって決して長くないんだから。

 覚悟を決めて扉を開けようと、手を伸ばしたその時......、



「お前こんな所に居たのかよ。帰りが遅いから心配したぞ」



 聞き慣れた低い声が聞こえたと同時に、後ろから手を掴まれていた。


「夏音......」

「こんな所で何してる。早く帰るぞ」

「で、でも......」


 どうしてここに......? って言おうとしたけど、夏音のことだから私がどこに居るかなんてわかっちゃうもんね。


「何だよお前、自分から危険な場所に入ろうってか。とんだバカだな」

「大丈夫だよ、今日行ったらサークルは辞めるんだから」

「わざわざ懇切丁寧に辞めることを伝えるのかよ、あんな奴らに礼儀なんか差し上げる必要ねえだろ」

「......」


 和兄のことを確かめるため......。なんてことはまだ夏音には言えなかった。


「寒いんだし風邪引くぞ。言いたいことあるならいくらでも聞いてやるからさ」


 結局返事も出来ないまま、私は夏音に手を引かれ、いつもの暖かい部屋へと戻っていった。

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