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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第29章
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俺は何一つ間違っていないのだから

 音琶は追ってこなかった。察してくれたのか、はたまた別のことを考えていたのかは知らないが、そのお陰で俺も気が楽になっていた。


 最初のLINEが来たのは午前9時過ぎ、今から3時間以上も前のことだった。そんな長時間もの間、先輩達は俺のご来店をお待ちしていたっていうのか? いくら日曜日とはいえどんだけ暇なんだよ、もっと他にやることないのかあいつらは。

 まあ、部員の粗探しやアルハラに全力を注いでいる以上、本来のやるべきことを見失っているに超したことはないな。どうせもうすぐあんな奴らとはおさらばする予定なんだから、これから起きるであろうことも気にせず聞き流しておけばいいはずだ。

 何を言われるかなんて目に見えているんだし、適当に済ませて後は音琶が待っている場所に帰ればいいのだ。怯えることなんて何も無い、そもそも俺は何も間違ってなんかいないのだから。


 それから約10分、部室に辿り着いた俺は何食わぬ顔で扉を開け、そのまま躊躇も無く中へと入り込んでいった。


 ・・・・・・・・・


「......お前あれはどういうつもりだ? おい」

「貴様が今まで何を企んでいたのかなんて全部お見通しなんだよ」

「折角私達が積み上げてきたサークルを潰すつもりなのかな~? まさかそんな恐ろしいこと考えてなんかいないよね~」


 自信満々で入ったのは愚かだったのだろうか。部室に入るなり、その場にいた先輩達全員に囲まれ、部室の隅にある小部屋へと連行された俺は、しつこいほどに先輩達から罵倒と避難の声を浴びていた。

 まあ、これくらい今までの経験からしたら大したことない、せいぜい蚊に刺された程度のものだ。


「何か言えや! てめえ昨日の打ち上げで隣に居た奴と何話してた? この誇り高きサークルを侮辱していたよな? そんなことが許されるとでも思ってんのか!?」


 ああそうかい、これがあんたらの最終形態ってことだな。もともと屑なのは承知の上だったが、ラスボスとまで行くとそれなりに強敵のような口調になるってか。


「うっせえな。そんなことよりお前ら全員酒臭えんだよ。人と会話するときくらいは最低限の身だしなみ整えろや」


 思わず反論する俺だったが、これでも先輩達に敬語を捨てたのは今回が初めてだからな。


「こいつ......」


 怒り狂った部長が今にも殴りかかりそうな姿勢を取る。殴りたきゃ好きなだけ殴ればいいさ、そんなことしたら俺がお前の将来ぶち壊してやるからよ。

 まあ、俺に対して色々言っているのは上級生バンドの4人と茉弓先輩くらいだけどな。あとの奴ら......、杏兵先輩と榴次先輩でいいんだよな? その2人に関しては後ろの方で俺のことを可哀相な奴だとばかりに見つめているだけで、特に行動を起こす気配は感じられない。

 どうせこの2人に関しては辞めるタイミングを見失っていて、いつの間にかサークルに入り浸ってしまいましたみたいな感じだろ? 先輩達からどんな扱いを受けているかまでは知らないが、パシリに近い何かだろう。バカな奴らだな。


「......一体何がそんなに不満なんだよ、俺がお前に何かしたっていうのか?」


 一瞬冷静を取り戻す部長だが、奴が放った言葉のせいで俺の中の何かが一気に切れた。


「何が不満......? よく言ったもんだよな。てめえら意味の分からねえ掟とかいう紙屑の塊を作って部員を洗脳するだけならまだしも、アルハラだのなんだのやりたい放題しやがって。その癖して『自分達のやっていることは正しいです』アピールってか? ふざけんのも大概にしろよ。大して練習もしてねえで上手くなったつもりでいるだけだろうがてめえらは。酒ばっか飲んで単位も取れずに遊び呆けているのか何なのかは知らねえけど俺や音琶みたいに純粋に音楽を頑張ろうって気持ちがある奴のことを陥れて何が楽しいんだよ。お前が俺に何かしたか? そんなの数え切れないほどだね。人ってのは時間を何よりも大切にする生き物なんだよ、他にやるべきことがあるってのにてめえらの下らない飲み会だとか集まりだとかに縛られる必要性がどこにあるってんだ、あ? 先輩の命令は絶対だとか勘違いしているのかは知らねえけど、俺にだって予定くらいはあるしサークルよりも優先しないといけないことは山ほどあるね。第一社会人でもねえしプロを目指しているわけでもねえのにどうしてこうも意識だけ高えんだよ、学生生活で何が一番大切なのかもわかっていない連中に振り回されることがどれだけ地獄なのかてめえらには分かんねえよな。留年しているから進級だとか就職だとか諦めているのかもしれねえけど、少なくとも俺はてめえらよりはずっとそれなりに将来を見据えているって胸を張って言えるし、お前らなんかよりもずっと真っ当な人生送っているって言えるんだよ。それでも俺が努力していないってお前らが言うのなら勝手に言ってればいいさ、てめえらのゴミ以下の言葉なんて一切耳に入らねえからよ。第一辞めた奴らのことを一切干渉しないなんててめえらには人の心ってものがねえのかよ、結羽歌や琴実がどういう想いして辞めていったかお前らにはわかるのか? あいつらだってただ純粋に音楽を楽しみたいから入部しただけだってのに、結局はサークルの現状を変えることが第一の目的に変わっていったんだよ、お前らがこんなんだからな! 俺だってそうだ、確かに音琶に振り回されていた所もあったけど、それでも俺はもう一度音楽を信じようって心に決めたからな。だからこそこんな腐ったサークルを変える必要があったんだよ、結局てめえらが裏で企んでいたせいで何もかも全てがダメになったけどな!」


 冷静さを完全に失ってしまい、自分の発言に驚いてしまいそうだが、何とかして自我を保つ。大丈夫だ、俺は何一つ間違っていないのだから。

 信じた奴らのことをこれからも信じ続ける。それが俺の使命でもあるのだから。


「貴様......!」


 あまりにも長すぎる俺の不満に怒り狂う先輩達だったが、俺は止まらない。止められない。


「そもそもこのサークル、過去に人が死んでいるんだろ? それなのにお前らは何も対策を練らないのか? お前らが直接殺したかどうかなんて知らないし、聞いた話だからどこまでが本当かもわからねえけど、もし本当だったとしたら、お前らは今まで何を学んで、何をしてきたって言うんだ? え?」


 自我を保てなくなった俺は、とうとう言ってしまった。真偽が分からない話だというのに、先走って口に出してしまうだなんて、全く俺も空気が読めない人間に成り下がってしまったのだな。

 だが......、


「何を出鱈目言ってんだお前は! 誰から聞いたのかは知らねえが、どうせこのサークルを陥れるために出任せを言っているだけだろうが!」

「部長、もうこいつここに居させるわけにはいかないですよ。何を企んでいるかもわからないですよ」

「茉弓......、そうだな。勝手に人殺し扱いしやがって、ただで済むと思うなよ」


 部長と、次期部長になる茉弓先輩が相互に言葉を交わす。ああそうかい、俺はもう落ちるところまで落ちたってか。


「......へっ、てめえらともう二度と関わらなくて良いというのなら本望だな。このサークルに入って最初で最後の感謝をしてやるよ。元々辞めるつもりだったけどな、お前らがもう少しお利口さんだったら、続けてやっても良かったんだよ、ゴミ屑どもが」


 自分から小部屋のドアノブに手を掛け、部室から去る準備は整った。

 もう、俺は解放されたってことでいいんだよな? もうこんな所に行く必要はないんだよな? もうすぐライブが控えていたはずだが、そんなことも気にすることないんだよな?



「まだ話は終わってねえんだよ!」



 その直後、部長に右肩を掴まれ、走馬燈のように拳が俺の顔目掛けて飛んできた。どうやら我慢の限界に達した部長が俺に殴りかかってきたようだ。

 ......結局屑は屑でしか生きられないようだな。俺の言葉も何もかも、こいつらには響かなかったってことだ。


 何か行動を起こせば、変えられるものはある。そう信じて、勝手に期待して生きてきた俺は、またもこうして勝手に絶望していくのだな。

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