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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第29章
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対バン、相手が誰であろうとも


「えっと、今日のセトリは......」


 照明やPAの話を聞いていたとは言え、まさかこんなセトリになっているだなんて誰が想像したことだろうか。

 俺や音琶、そして結羽歌における状況が悪い方向へ飛んでしまったと言うのだろうか、オーナーから配られた今日の簡単な時間割を見通して、これから起こるであろう悪夢が垣間見えてしまう。


「聖奈先輩達のバンドと、響先輩達のバンドが、対バン......?」


 単なる被害妄想かもしれないが、サークルの現状を知っている俺からしたら、悪い予感しか感じられない。

 軽音部を辞め、より平和な状況を求めた響先輩が率いるバンド。あの腐った現状を誇りに思い、自分達に置かれた状況について何も顧みようと努力していない聖奈先輩達が率いるバンド。

 全く正反対のメンバーが集うバンドが対バンするということは、これから先何が起こるか大体の想像は出来てしまう。

 誰がどうしてこんなセトリになったのかなんて詮索する余裕もなかった。そもそもこの場はサークルにおける仲をいちいち考えていられれる環境ではない。俺に課せられた仕事と言えば、今回のライブ......に限らず、全てのライブを形にすることだけだった。

 皮肉にも、それぞれのバンドの人間関係を合わせる役目は必要とされていなかったのである。


 ・・・・・・・・・


 響先輩のバンドも、聖奈先輩のバンドも、俺がPAを担当することになっていた。勿論軽音部のメンバ-がこの場に集まっているわけだが、俺がスタッフとして働いていることについては全く興味を示していないようだった。

 まあそうだよな、サークルの根本も完全に否定していて、ましてや飲み会に関する連絡も完全に無視している俺のことなんて奴らが興味を示すわけ......、


「久しぶりだね、君達3人が入っている日で良かったよ」


 本番数分前だと言うのに、響先輩が俺と音琶、結羽歌に話しかけてくれる。ただでさえ切羽詰まった時間かもしれないというのに、余裕の表情を見せてくる響先輩に少しは尊敬の気持ちを表さなくてはいけないようだな。


「別に、土曜日ですから、それくらい偶然でも何でもないです」

「またまた、そもそも学生にとっての土曜日ってのは休むべき日じゃないかな?」

「そうだとは思いますけど......」

「休みの日こそ、バイトや趣味に使うべきだよね? 俺だって、好きなことに休みの日を使ってるんだし」


 響先輩が何を言っているのか、話の根本をどう捉えるべきかは、俺次第なのかもしれない。音琶も結羽歌も難しい顔をしているし、理解が追いついているかも想定出来ない。

 だとしても、響先輩にどれだけのプレッシャーが降り注いでいるかは俺にもわかる。一度辞めたサークルの奴らと対バンすることがどれだけの負担なのか、打ち上げの後にどんな嫌味を言われるのか、様々な不安が降り注いでいるに違いない。



「別に、誰がどんなライブをしようとも、俺は俺の仕事をするだけです。ここに居るメンバーだって同じ気持ちのはずですし、別に響先輩のことを特別に思っているわけではないです」



 サークルへの嫌味と、仕事に対する本音が混ざった感情、それを響先輩に投げる必要があったのだろうか。

 別に投げたことに対する反論は要らないだろう。俺は俺のやるべきことをやろうと思っただけだ。相手が誰であろうと、ライブに掛ける想いを平等に分け与えるだけ。

 それが嫌いな奴でも、嫌いじゃない奴でも、やるべきことを成し遂げるだけ......、


「......そっか」


 考え込むように目を閉じて答える響先輩。俺の発言は間違っていたのか、果たしてどうなのか。

 響先輩のことを嫌ってはいない。だけど、大切に思うほどの人間関係を築いてきたとは思っていない、だとしたら、この人は俺にとって何だというのだろうか。



「君達3人があっと言うような演奏をしないといけないようだね。是非とも音同の本気を見て欲しいな」



 今まで見たことないような、本気の表情を響先輩は見せてきた。

 俺も音琶も結羽歌も、響先輩と関わりがある。だが、本気の演奏を見たことは一度も無い。

 どれほどの自信なのか、この目で確かめないといけないようだ。俺に足りていないものがもしかしたら見つかるかもしれないと思うと、今回の演奏に期待せざるを得ない。


 音琶との距離が少し開いてしまってはいるが、俺に出来ることがあるのならば、まだそれを信じてもいいのかもしれないな。

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