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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第29章
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いつもの日常がいつもじゃなくなっていく日

 12月5日


 昨日の朝から音琶との空気は最悪になっている。些細なことなのかもしれないが、両者とも意見を譲ることが出来ず、ただ時間だけが流れていく。

 今日部会だっていうのに、音琶と険悪なムードになっていることが誰かにばれてしまったら、面倒なことになる未来しか見えてこない。ましてやあの場所に音琶以外俺の味方は居ないのだし、これ以上分かり合える人を失くしたくない。


「ちょっとあんた、何ボーッとしてんのよ。ここの結果纏めて貰わないと、いつまで経っても次に進めないでしょ?」

「あ、あぁ......」


 グループワーク中だというのに音琶とのやり取りを思い出してしまって、すっかり集中力が削がれてしまっていた。


「滝上が授業に集中出来てないなんて珍しいね。もしかして振られちゃった?」

「うるせえ、そんなんじゃねえよ」

「そんなんじゃなくても、少し近かったり?」

「取りあえず黙れ、お前だって授業に関係無い話してるだろうが」

「はいはい、ごめんなさいね」


 今は授業中、誰かの痴話話に花を咲かせる時間ではない。目を逸らしてしまえばグループに迷惑を掛けてしまう、集団行動が出来ないようではこの先何も......、


 この先、俺は何を目指しているのだろうか。特に何かを成し遂げたくて入ったわけでもない大学、最早何が生きがいなのかわからなくなってきた音楽......、

 俺は一体何がしたい......? 何を目的にしてここにいる......? 自分自身変われたと思っていたのに、結局は何一つ変われていなかった......?


「......」


 再び手が止まってしまう。震えそうな身体を抑えるべく、何とかして理性を保つ。

 最低限、今の生活を改めれば、少しは見つけられるかもしれないな。呪われた現実から抜け出すためにも、捨ててもいいと思えるモノは意を決して捨ててしまう、そう思える決意も時には大切だ。


 ・・・・・・・・・


 授業が終わってから部会の時間になれば音琶と顔を合わせる時間が与えられる。だけど、部会中はおろか、飲み会で同じ班になったというのに一切会話無しのまま終わってしまった。

 正直先輩達の武勇伝とか、音楽の価値観がどうとかいう話は興味無いし、ただの騒音でしかないから今までは音琶と話すことで気持ちを満たしていた。

 だが、その会話も今日は1秒たりとも続かない。あれだけ楽しかった音琶との会話が一瞬にして消えてしまった。ただ退屈でしかない時間が流れていく、それだけの、何の面白みのない無意味な時間......。


 俺の目の前に音琶が居なくなってしまったら、どんな日々が待っているのだろう。そればかりは、どんなに脳を動かしても見つけられることは出来なかった。




 12月6日


 土曜はバイトか......。そう言えば昨日の部会で先輩達が何か言っていたような気がしたけど、あいつら何を話していたっけ、全然思い出せない。

 思い出せない、と言うよりは、あいつらの話に一切耳を傾けていない、の方が正しいかもな。


「.........」

「.........」


 朝食、昼食という、普段なら2人して向かい合っている時間でも、何一つ会話が始まらない。

 何を話せばいいのか、そもそも何に対して謝ればいいのか見つけることも出来ず、食べ終わって台所まで空の食器を片付けるまで、無音がずっと続いていた。


 時間になってバス停まで向かう。そこに行くと結羽歌も居て、同じシフトであることが確認出来る。2人で並び、俺が車道側を歩いている所までは今までと同じ。

 決定的な違いにはすぐに気づかれ、結羽歌も俯いてしまった。音琶の怒りに触れた原因が自分にもある、と思っているのだろうか。


「えっと......、2人とも、おはよう......」


 目を合わせずに、ただでさえ小さな身体を縮めながら最低限の言葉を掛けてくる結羽歌だったが、俺はそれに頷くことしか出来なかった。当の音琶は......、


「おはよ結羽歌、また今日も頑張ろうね!」

「う、うん......」


 おいおい、結羽歌に対しては今まで通りかよ......、と思ったが、当たり前だったか。機嫌悪いのは俺に対してだけで、他の奴にまで俺への感情をぶつける理由がないからな。

 だが、勤務地に着くまでの会話量は今までより遥かに少なかったし、2人の間にも僅かな壁が生まれていることが感じられた。


 どうせ時間が経てば今まで通りに戻っているだろう、今までの考えを裏返しにするような都合の良いことを思っていたが、自分の人生を振り返ってみればこの先は悪夢しか見えないはずだ。

 それもその通り、目的地に辿り着くまでは良かったが、今日の勤務内容を見て、更なる絶望が待ち受けていたのだった。

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