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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第29章
423/572

12月、今年の終わりへと

 12月1日


 12月になってしまった。今年もあと1ヶ月で終わってしまう。あっという間と思うべきなのか、長かったと思うべきなのか、俺にとって充実した1年であるか、意味のある1年だったかは俺の功績次第......。

 いや、別に何もしてなかったわけではない。むしろ動きすぎていたと言ってもいいだろう。だが、その動きが必ずしも結果に繋がっていたかと言うと微妙過ぎる所だ......。


「表情が暗い!」


 朝から始まる授業を億劫に感じていたら、日高の隣に座る立川に指を指されていた。そう言えばお前ら何気に長いな、夏祭りの時から付き合っていたとなると、かれこれ4ヶ月以上は続いているってことでいいのか? 計算違いかもしれないが、それくらい絆が深いようで。


「突然どうしたんだよ」

「判断は遅くないようで、よろしい」

「はあ......」

「最近の滝上は、死んだ目をしている。つまり、高い壁に四苦八苦している。ということでよろしくって?」

「何を言い出すのだか」


 あまりに情報量が多くて頭が追いつかないが、奴なりに心配してくれてるってことでいいのだろう。俺自身も人間関係というか、サークルの闇に触れて数ヶ月、色々なことに巻き込まれて疲れているのは事実だ。


「サークルには無関係な私だけど、滝上が何か抱えているってことはずっと前から気づいていたよ。無理に話す必要はないけど、きついならきついで解放を求めても良いのでは?」

「さては日高から全部聞いたな?」

「おお、ご名答で!」


 元々軽音部の部員ではあった日高から聞いたのか。別に日高にお悩み相談をしたわけではないけど、たった1日で辞めた奴からしては俺への心配指数が高いのだろう。

 確かに人間関係のトラブルは数え切れないほどだったが、こいつらには相談していない。結羽歌は事情を知っているが、クラスの誰かに広めたりはしていないはずだ。


「私だって本当は軽音部に入ってみたいな~。なんて思ってたんだけどさ、よく分からない縛りみたいので入部出来なかったんだもん。その時点で怪しいサークルだって察しちゃうからさ」

「......」

「だからその、ちょっと心配になったんだよ。滝上とか結羽歌のライブ見た時は凄いなって思ったけど、それは2人が頑張っているからで、他の人がどうなのかは私には分からないし......」


 確かに俺や音琶、結羽歌、そして琴実はそれなりに努力していた。だが、他の奴らはサークルの現状を変えようとすらしていないだろう。今のままで満足して何になるというのだろうか、どうせ待っているのは自己満足以下でしかないというのにな。


「......そろそろ黙れよ、授業始まるぞ」

「あ、ごめん」


 所詮サークルとは無縁の存在だ、こいつに無理な願望を突きつける必要はない。俺の問題は俺自身が解決すればいい、誰かを巻き込むなんて問題外だ。


 あと3週間、それまでにも自分に置かれた状況を見直しておかないと、冷静になれるかも分からない。


 ・・・・・・・・・


「結局範囲はここでいいわけ~?」

「まだわからないって。授業はまだ続くんだし」

「再試を乗り越えた身として、後期はフル単で終わりたいんだよ? 来年度のためにもね!」

「はいはい」


 図書館に連行され、ちょっとした勉強会が始まる。音琶にはその旨を伝えてあるからいいものの、日高と立川でよく分からないやり取りが繰り広げられていた。

 立川が前期で単位を落として再試を受けたってことを初めて知ったわけだが、何故サークルに縛られていない奴がここまで苦戦しているのか。奴がサークルに興味を持つタイミングが遅くて良かったと改めて思ってしまった。


「実験レポートだってまだ残ってるのに、締め切り明日だよ?」

「そんなのわかってるよ~......。日高ぁ~、手伝って~」

「手伝うけど、俺と立川じゃ結果が違ってるから計算は手伝えないよ?」

「もう~、日高の意地悪~」

「取りあえずテストよりも、こっちを先にするべきだね」

「は~い」


 すっかり気が滅入った感じの立川に、優しく微笑みかけながら応じる日高。理想的な恋人同士というのは、こんな感じなのかもしれないが、俺にはそれが出来ない。

 少しでも気を悪くしてしまう出来事に遭遇してしまったら、周りが見えなくなるくらいに苛々してしまう。音琶を相手にしても、上手く対応が出来ている自信が無い。

 俺は日高の様に優しくなれないし、要領の良い人間じゃない。人の振りを見ても、自分の人間性を顧みても、正しい生き方が出来ない。それでいいと割り切れるなら簡単な話だが、音琶と出会ってからの俺はどこかおかしいから、即決が出来なくなっている。


「夏音......君?」


 不意に結羽歌から声を掛けられる。日高と立川の何気ないやり取りに気を取られていた俺を心配していたのだろうか。


「......どうしたんだよ」

「えっと......」


 人差し指を重ねながら考え込む結羽歌だったが、肝心の言葉が出てこないようだ。言うか言わないかで悩んでいる様にも見える。


「ほ、ほら......。私も前期は苦戦していたから......、後期も同じようなことにならないように、頑張りたいなって......」

「......」

「その、夏音君は、単位とかって......」

「全部秀だけど」

「はぅっ......!」


 どうやら俺の単位、というかGPAに驚きのようだが、これが現実だ。サークルをいかに大切に思わないかで成績に影響が出るかもしれないが、俺は自分の成績をとにかく大切にしていた。将来の夢が定まっていなくとも、成績が良ければ何かしら良い職に就けるとは思っている。特に何がしたいというわけでもないからな。


「あの、音琶ちゃんとも一緒に、勉強会、お願いします......」

「......?」


 何かよく分からない方向に話が進んだ気もするが、どうやらサークルの他に別の用件が追加されたようだ。

 あと結羽歌、誤解しているようだが、音琶と学部は同じだが学科は違うからな。

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