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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第29章
421/572

巣隠、俺に出来ることは......

 ***


 11月28日


 年内最後のライブまであと約二週間ってことにはなっている。

 正直どうでもいいし、早くその日が終わってくれればいいと思ってるし、決意した日から部室に行く回数はどんどん減っていった。

 わざわざ部会のためだけにこんな場所に足を運ぶのは面倒だし、そもそも何故全員が揃わないといけないルールがあるのかも理解できない。一応掟には従っているものの、自分の行動と合わせて顧みても、掟の何が今後のためになるのかもわからなかった。


 最後には掟のルールそのものに反する行動を起こして辞めてやろうとも考えたが、音琶のやり残したことが未だに不明な時点で、耐える以外の選択肢は与えられてなかった。

 音琶が選んだ日まで1ヶ月を切っている。もしその日がサークルのゴールならば、どれだけ気が楽になるだろうか。サークルから離れた後、俺は何をすれば音琶の願いも叶うのだろうか。

 先のことを勝手に考えて、まだ叶ってもいない希望を信じていたら痛い目みるだけだってことを認めたくなかったが、どうやら俺には覚悟が足りなかったようだな。


 ・・・・・・・・・


「あなた、最近全然部室来てないわよね、本番近いのにどういうつもり?」

「......突然どうした」


 毎週恒例の飲み会、大体夜の8時過ぎから始まるが、今回は部長の部屋に当たってしまった。辞めるって言葉なら簡単に言えるが、何とかして気持ちを抑えないといけない。茉弓先輩は別の班なのだから執拗に絡まれる心配は少ないものの、思わず本音が飛び出そうで落ち着けない。

 そんな中、まさか鳴香からこんなことを言われるだなんて思ってもいなかったから驚いたが......。まあ、バンドメンバーなのだからこれくらいは仕方ないか。


「別に私があなたとバンド組んでなかったらこんなことは聞かないわよ。嫌味だと思われたら申し訳ないけど、LINEの返信だって遅いし、何か考えでもあるの?」

「......」


 どうすればいい、何て答えればこいつは納得するのだろうか。『嫌味だと思われたら申し訳ない』なんて言う時点で自分の発言を肯定しているようにしか聞こえないし、茉弓先輩から仕向けられたと思ってもいいだろうな。

 ここで下手に本当のことを言ってしまってはどうにもならない。今は取り込み中とは言え部長だっているのだし、上手く言葉を選んで......、


「別に、そんなのお前が勝手に思い込んでるだけだろ」


 確かに入部当初は部室に顔を出していた。だが、サークルの本質や人間関係、辞めていく仲間を見ていく内に嫌気が差していき、部室に行けば嫌なことを思い出すだけだった。

 鳴香はどうなのだろうか。琴実とは何度かバンドを組んでいたが、辞められてしまった以上、今は俺と組んでいるバンドで自分の実力を見せつけるしか方法がない。新たにバンドを組む様子が窺えない辺り、先輩達とは組みたいと思っていないのだろうか。

 第一、琴実が辞めた今、ベーシストは茉弓先輩と兼斗先輩しか残っていない。一応湯川も居るが、本職じゃない以上あまり期待は出来ないか?


「そう? 思い過ごしだったごめんなさい。だけど、練習はしっかりしてもらいたいわね」

「はいはい、言われなくても練習ならやってるからな」


 特にこれ以上干渉されることはなかったか。まあそうだよな、まだ一度も辞めるなんてこいつらには言ってないのだし、来年度以降役職が一切与えられない雑用係が辞めると発言したとなると、時間なんて与えられずに即退部ってことになりそうだからな。

 まだあと1ヶ月、辞めることは黙ってないといけない。何度も自分に言い聞かせて精神を保っているが、例え相手が1年でも口を滑らせることは許されないのだ。


「練習......、ね。あなたの今の実力では、とても出来ているとは思えないけど、まあいいわ」

「......?」

「しっかりやってるって言い切れてるのなら、今以上に頑張って欲しいわよ」


 練習はしている。課題の曲の動画を見たり、曲を聴いたり、軽く身体を動かしたり、色々な方法を駆使して部屋でやっている。

 部室になんて行かずとも出来る限りのことはやれて......、


「この前の全体練習で思ったのだけど、あなた本当に本番乗り越えられるのね? あの演奏で」

「......何が言いたい」

「あなたの演奏を見た私の目に狂いがあったかもしれないって、ちょっとだけ思ったのよ」


 特に頭に残る様な言葉ではなかった。

 別に俺はこいつにとっての思い通りの演奏が出来てるとは思ってないし、自分から共に組みたいとも言ってない。

 感情の揺れが演奏に支障を来しているのかもしれないが、納得いかないならいかないで切り捨てれば良い。

 どうせ辞める身なのだ、今のバンドが解散した所で俺の心に傷1つ付けることなんて誰にも出来ねえよ。


 演奏がどうとか言われても、今の俺にはどうにもならねえんだよ。理解される必要もなければ、理解されようと努力する必要もない。

 訪れるべき日が来ることを待つ。今の俺に出来ることは、ただそれだけだ。

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