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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第28章
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証明、最後まで果たしたい想い

 11月9日


 何時間寝れたかも分からない。そもそも何時頃に深い眠りに就いたかも良く覚えてないし、シャワーを浴びている途中からの記憶が混濁している。


「......10時か」


 目覚ましは8時にセットしたはずだったが、どうやら2時間の寝坊らしい。とは言え、2時間で納められた分不幸中の幸いかもしれないな。

 腕にしがみつきながら寝息を立てる音琶を起こし、速攻でシャワーを浴びてもらうように懇願した。音琶がシャワー浴びている間に朝食の準備をしておき、上がった頃にはテーブルの上に並ばせて置くとしよう。


 ・・・・・・・・・


「12月のライブ、結局またバンド組めなかったな」

「えっ? その後のこと考えればいいんじゃないの?」

「いやそうだが、少し心残りでな......」


 シャワーを浴び終えた音琶はいつも通りのペースで箸を動かしていたが、そんな音琶が次のライブ対して何を思っているのかが気がかりだった。

 もう少し頑張っても良い、音琶はそう言っていた。音琶にとっての頑張りが何なのか、何を目指しているのかがわからないから、深入りしない程度には聞き出したかったりする。

 てかその後のことも考えようとしているだなんて、どう考えても無策に近い気がしなくもないのだが。


「なんか夏音らしくないかも。いつもだったら後のことなんてあんまり考えてない感じだったのに」

「いやまあ、前までならそうだったかもな」

「前までかぁ~。夏音も変わったんだね」

「う、うるせぇ......」


 質問しただけなのに返り討ちに遭うだなんて、これも俺の真意が変わってしまったことが影響しているのだろうか。いや、そこは今まで通りだったな。

 それだったら話題を変えるしかない、昨日音琶が言っていた面白い話とやらを聞かせて頂こうではないか。


「それよりもだな、昨日打ち上げの時に聞いた話を教えて欲しいのだが......」

「えっと......、あー! あの話だね!」


 あの話と言われても、俺はその話がどんな話なのかを全く知らないけどな。でも思い出した様に言うってことは、『あの話=昨日言ってた面白い話』で間違いはなさそうだ。


「どれくらい面白いのか気になって夜も眠れなかったんだよ」

「何言ってんのさ、帰ってきた時は朝に近い時間だったじゃん」

「......」


 帰った途端に布団に飛び込んで爆睡してた奴が良く言えたものだな。


「そんなことより本題に入らないと!」

「......そうだな」


 疲れはしない。退屈もしない。そんなありふれた日常が当たり前になればいいと、音琶との会話を繰り広げる度に思っていた。

 そんな音琶が持ちかけてきた話とは......。


「えっとね、私がギターやってるって話したんだけど......」


 ライブハウスの打ち上げとなると、演者との間でバンドの感想を求めてきたり、普段どのような音楽を聴いているのか、はたまたスタッフの中に経験者が居ることだってあるから、話のネタはある意味無限大に拡がっている。

 音琶も演者と話していく内に自分の話に結びつき、大層盛り上がったことなのだろう。



「来年の3月でリードの人が脱退しちゃうから、その後メンバーにならないかって、誘われたんだ」



 ......。

 メンバーが一人抜けただけで解散するバンドがあれば、新たなメンバーを加えて再始動するものもある。どうするかはそいつらの自由だし、否定するつもりはない。

 俺がよく聴いていたバンドにも、似たようなことがあって解散したのがあったし、もう新しい曲が聴けなくなってしまうのか、という寂しさを感じたことがあった。だが、いくら願った所でそのバンドが戻ってくることはない。


 バンドの事情は様々だ、仲が良いと思っていたのが実は不仲だったり、追い詰められて表舞台に一切顔を出さなくなったものだって山ほどある。

 結局は俺にとって関係の無い話だ、と割り切ってまた次の音楽を探す。切り替えることも大事だと自分に言い聞かせていた。


 昨日聴いたバンドは全て初めてのものだったが、どれも自分に足りないものを備えていると感じ取れるものばかりだった。

 そう、まるで俺があの場に居れることが不思議なくらいに......。


「......それで、お前は何て答えたんだよ」


 音琶の言葉のせいで自分の音楽の価値観を見直しそうになっただろうが......、音琶に声を掛けたバンドが必死だってことは分かるが、もし音琶が首を縦に振ってしまったら、願いを現実に変えることは出来なくなるのではないだろうか。

 そう考えると不安で食事が喉を通らなくなりそうだ。手に嫌な汗だって滲んでいるしな。


「美味しい話だとは思ったし、みんな良い人そうだったから、やろうと思えば出来ないことでもないかなって感じた。だけどね、自分の想いに嘘は吐けなかったんだ」

「ってことはつまり......」

「うん! 私には夏音が居るから、ちゃんと断ったよ!」

「......それがお前の言う、面白い話なのか?」

「そうだよ、私は夏音の居るバンドで本気出したいんだもん!」

「......」


 全く、一瞬最悪のシナリオを考えてしまったじゃねえかよ。話の溜め方が紛らわしいんだっての。

 まあそうだよな、いきなり誘われたと言っても酔った勢いで誘ったってこともあるかもしれないし、後から聞いた話だと相手は社会人だったらしい。

 リードギターの人が転勤で離れるから学生の音琶を誘った、ということらしいが、学生と社会人とでは時間や金の使い方が全然違うのだし、仮に組めたとしても練習の時間やライブの日程でトラブルを避けること自体難しいだろう。

 その点も含めて音琶は断ったのだろう。勿論他に大事な理由もあるわけだが......。


「......まあ、まだまだ道は険しいけどな。不可能ではないって信じてる」

「そうだよ! 諦めるのは早すぎなんだからね!」


 叶えたい願いは最後まで果たす。枝分かれした道の中でも、自分の決めたルートしか選ばないで、困難も乗り越える。

 一人で叶えられる願いでは無い限り、どちらか片方が欠けてしまっては意味が無い。音琶も俺も、目指しているモノは同じってことが改めて証明された。

 全体を通せば確かに面白い話だ。

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